シュラドまでの道10
満足いくだけ見ると、手を上に上げて体を伸ばす。
すっきりした後、元の場所に戻ろうと振り返ると、メルナがいた。
メルナもルイと同じように、夕日色に染まっている。
シュラドまでの護衛で雇われているので、いくらルイが一人で大丈夫だとしても、仕事は完璧にこなしていた。
「ありがとう」
景色を眺めている途中で声をかけてこなかったメルナに感謝し、二人で荷馬車がある場所に向かう。
「ずっと皆でいたからね。こんな静かな時間もいいよね」
メルナはルイの隣に並んで、そう言った。
この広場に集まっている者達が、石を積んで、その中で火をつけ、鉄の鍋で湯を沸かしている。具材を入れてスープを作っていた。
こういう場所では、喉も潤せて体も温かくなる料理がいいようで、あちこちで同じようなものが作られている。
収納袋を持っている者が、その中から固いパンを出して、少し表面を湿らせてから、火から少し離れた場所に置いて温めていた。
その後に、瓶から取り出した緑色の何かを、表面に塗っている。
美味しそうな匂いにつられて、ルイはそれを見ていた。
ゴマのような匂いがしている。
ペーストの中には、小さく刻んだ白い野菜のようなものが入っていて、緑の中につぶつぶとしたものがあった。
「あれは何を塗ってるの?」
ルイがメルナに聞くと説明してくれた。
「アツカラっていう、瓶に入って街で売られてる商品で、塗った後に火に近づけてると、膨張して表面がカリカリになって、ピリッとした辛さがでるの。
保存もきいて値段も高くないし、冷え症にもいいから使っている人は多いよ。今日の夜はちょっと冷えそうだから、こんな時にいいよね」
「へー。良い匂いだし美味しそう」
「私も持ってるからルイにあげるよ。一緒に食べよう」
「わぁ!ありがとう。そう言えばメルナも収納袋持ってるの?」
「ランクが高い人は、だいたい持ってるよ。すっごい便利だもんね」
ルイはガシッとメルナの手を握りしめ、熱意を込めた目で見た。
「分かるぅー私も仲間だよぉー」
「でも私って適当だから、袋に入れたら忘れちゃって。やっぱり食料品を入れるのは危険だよ。いくら収納袋が時間を遅く出来ても、完全には停止できないから腐っちゃって。
仕事以外は塩とか砂糖しか、入れないようにしてるよ」
「・・確かに。それは大変ね」
「ルイはいつも入れたり出したりしてるから、そんな事はなさそうだね」
「まぁね」
普通の収納袋は、私の収納魔法と違って、腐ったりするんだ、とルイは一つ知識を手に入れ、食品を出す時には気を付けよう。そう思った。
暗くなってきたので、炎の光が目立つ。
ルイ達の荷馬車にたどり着くと、同じように石が積み上げられ、火に鍋がかけられていた。
「用意してくれてありがとう」
ルイが待っていたロウフェン達にお礼を言う。
「いや、これも仕事だから気にされる方が困るな」
依頼内容は、旅の費用面は全てルイ持ちで、旅は冒険者に任せる、というものだった。その中に料理も入っていたので、ロウフェンは気軽にそう言った。
報酬はきちんと貰うので、気にする事はない。しかも高いぐらいなので、この旅にギスギスした空気はなかった。
ランクHの緊張感が凄い事になっているが、少しの間だから我慢してくれ、とロウフェンが思っていると、鍋を混ぜているフラミーに、ルイが収納魔法で乾燥肉が大量に入った袋を出す。
肉の良い香りが広がった。
「これ、皆で食べてほしい」
「あら、良いお肉ね。匂いがとってもいいわ」
「評判のお肉屋さんに頼んで作ってもらったものだから、美味しいと思うよ」
「じゃあ私達の分だけとっておいて、後は皆に配るわね。ロウフェン、ジャッカルドお願い」
フラミーが追加の空の袋と一緒に、乾燥肉の入った袋を渡す。
「分かった」
ちょうど良かった、と思いながらロウフェンは乾燥肉の袋を受け取って、空の袋に半分入れる。
これでランクHの皆が少しは落ち着くか、と考えていた。
「ジャッカルド、これを頼む」
「分かった」
乾燥肉の入った袋の一つを、ジャッカルドに渡し、二人は離れていった。
その間に、ルイは追加で甘いお菓子を出し、五人分に分けて、皆の席の近くに置いた。
「これも後から食べよう」
「ありがとう。これは何のお菓子なの?」
「砂糖菓子だよ。長期保存ができるものだから、傷んでないよ」
「それなら安心ね。お腹を壊したら大変だから、良かったわ」
立ち上がっていたルイは、一列に並んでいる荷馬車と、その横で食事を作っている冒険者を見る。乾燥肉を受け取ったようで、そのままかじっている者もいた。
御者達は仲間達がいる場所に集まって、食事をとっていたので、そこに行って乾燥肉を配っている、ロウフェンとジャッカルドがいる。
笑顔で受け取っているのを見て、乾燥肉が好きそうで良かったとルイは思った。
荷馬車の馬は、反対側の木に繋がれて、水と食事をとった後、ゆっくりと休んでいる。
馬の事はよく知らないが、筋肉が凄く発達した良い馬だと思っていた。だが、ルイがもっとよく見てみると、たてがみの間から、微かに茶色の尖りが見えるような気がする。
あっちの馬も、こっちの馬も、よく見ると何か見えた。
角かと思ったルイだったが、別に馬に角が生えていようと問題はなかったので、そのまま放置する事にする。
そもそも馬の顔さえ、しっかりとは覚えていないので、何が違うのか分からなかった。




