シュラドまでの道8
「あ、あれが目玉・・」
ルイの言葉を聞いてロウフェンの頭に、あの珠がついた魔海獣の姿が思い浮かぶ。実物を見ているので想像しやすかった。
「しかし、地上でそんな死骸は見た事がないな」
「それはそうでしょ。深海で死んだらすぐに他の魔海獣に食べられるわ」
ロウフェンの質問にもルイは答える。死骸がない理由を海の学者ではないルイが知っているのは、死んだ魔海獣を他の魔海獣が食べているのを間違って見てしまった、という単純な理由だった。
ルイは明るい声を出す。
「綺麗なものも沢山あるわよ。緑の宝石のような生物が一面に広がった光景は海の草原のようだったわ。
周りには白い柱のようなものもあって、ぼんやりと周りを照らしてるんだけど、実はそれが卵だったりして、中から魔海獣の赤ちゃんが出てきてたりしていたの。
シュラドに行って海に潜るのが今からとても楽しみだわ」
まだ見ぬ海を思い浮かべ幸せそうな顔をする。
「そう言えばロウフェン達はシュラドの海に潜った事はあるの?」
「いや、俺達が海に潜るのはフェルミの街だけだ。海の浅い場所には、マーナフィラって言う比較的大人しい魔海獣が作った巣があるんだ。その巣が薬の材料になって高く売れる。後はついでに鉱石や珠の採取ができるのも強みだな。
後、一番の理由はシュラドの海はフェルミの海よりも危険だって事だ。海が得意な冒険者でも再起不能になった者もいるぐらいだから俺達は潜ってない」
「海の中じゃ回復魔法も回復薬も使いにくいからね。仲間が死んでいく姿をただ見ているだけしかできないのは辛いわ。それで心が折れた冒険者もいるの」
フラミーは悲しそうな顔をしていた。
「そうなのね」
「ルイ、あんたなら大丈夫そうだ。良ければ今度会った時、海の中がどんな様子だったか教えてくれ。飯ぐらいなら奢るぞ」
軽くロウフェンは言ってきたが、興味がありそうな顔をしている。
「少しは私の心配もしてよね」
「無理だな」
迷う事なく言われた言葉に、ルイは直ぐにフラミーの方を向いた。
「フラミーさぁん。ロウフェンが酷い事言ってるよ」
「ロウフェン、依頼人にはもう少し丁寧にね」
「ぐぬぬぬ、こういう時だけ依頼人かよ」
ロウフェンは雇われの身なので、咳を一回してから、ひきつった笑顔を向けた。
「あー心配・・」
「そう言えば今日の泊まる場所ってどんな所なの?」
「聞けよっ」
荷馬車の外は平穏無事に過ぎていく。
標高が高くなると岩場が多い場所が増えていくが、そのぶん景色が良くなっていた。
ガタガタという馬車の音が強くなり、乾燥した空気の匂いがする。
下に広がる森と標高の高い山が、岩の向こう側に見えていた。
陽が傾き、空の色が変わる。時間が刻々と過ぎてくと青から緋色へと変化していった。
吹いてくる風の気温も下がり、夕方に近づく。
小型の魔獣が遠くから飛んでくると、頭上を通りすぎて行った。巣を目指しているのか森の方に向かって速度を落とさすに飛んでいる。
飛行できる魔獣や鳥が、森を目指して飛び交っていた。
生き物が活発に動いているのが荷馬車に乗っている者達にも分かるが、慣れているのか気にしている者はいない。
外の風景を見たり、目を閉じて休んでいたりと様々だ。
もうすぐ泊まる場所に辿り着く。
七台の荷馬車は走り続けた。




