転生は買うために
「はぁぁぁぁん、今日も沢山手に入った」
宿屋のベットの上で戦利品を並べてルイはゴロリと転がる。今日も一日店を回れたので大満足だ。
異世界に来てまだ3週間だが幸せはここにあったのかというぐらい充実した日々を送っている。
「異世界に来れて良かった」
元いた世界では、周りから買い物依存症だと勘違いされるほど物を集めるのが好きだった。
だからだろうか。ルイはある日、両手に手荷物を持って階段を降りる途中で足を踏み外した。
そして気づいたら真っ白い空間で、黒いタキシードとシルクハットを身に着けた紳士が立っていた。
ーーーー
「君は階段を踏み外しそのまま亡くなったのだが、まだ生きたくはないかね」
白い空間でそう聞かれたルイは、勢い良く手を上げた。
「買い物したいでーーす!まだ買えなかったものが沢山あるんです。素晴らしい人達が作った、素晴らしい製品を手に入れたいです」
「ほっほっほ、元気が良いご令嬢だね。生きる理由が物欲とは、親御さんとは会えなくてもいいのかい?」
「成人したら保証人とかの問題以外で連絡するなと言われてます。一人で生きていけるようにしろ、というのが我が家の家訓で、出て行く時に三千万通帳で渡されました。
仕事をしながら三千万を株で二億まで増やしてマンションを三部屋借りて物でいっぱいにした後、株でさらに三億増やし、また追加で二部屋借りて物でいっぱいにして亡くなったので、生き残った方がヤバかったかもしれません」
「ふむふむ、君を直葬してから部屋の物は全て業者に捨てさせておるね。リサイクルで売れると言っても聞く耳もたず、一つ残らずこの世に残すなと言われておる」
「ああああ、私のマイスイート達がぁぁ!!綺麗にショーケースに入れて業者に頼んで掃除もしてもらってたのに」
「この世のものとは思えぬ罵倒をしておるよ。○✕△□のような言葉に出来ない感情を込めた怨念を感じるが、もはや君には届くまい」
「私からも怨念送っときます」
「ほっほっほ、届くと良いな。してご令嬢。先程の続きだが本当に良いのだね?」
「はい、私はまだ生きたい(買い物したい)です」
「別の声が聞こえて仕方ないのだが、それでは望みを叶えよう」
紳士が手を優雅に振るうとその手には黒いステッキが握られていた。
「君がこれから転生するのは異世界だ。そこで買い物をしてもらう。その物欲という欲望が神力に変換され世界を巡るのが私の希望だ。
君はどこにも留まらず流れの民になるといい。さすれば世界は君の望みを叶えてくれるだろう。
さぁ行くといい、ルイ。行く末に幸あれ」
ーーーー
「それで新たな肉体を貰う事が出来たんだよね。じゃないと今ここにある物も手に入らなかった。愛しい品物ちゃん達よ。ずっと側にいてね。愛してる」
収納魔法を使うと無駄に家を借りる事をしなくてもいいし、常に手元に物がある状態なので以前よりずっと幸せだ、とルイは思う。
しかもレベルという世界の常識のおかげで殺される心配もない。
至れり尽くせりとはこの事かと、紳士な神様に感謝している。
「明日は服を買おう。でもその前に」
自分のバックから海の宝石とも呼ばれている青真珠を取り出した。
「これを売るかぁ」
海に入って自分で採取してきた実質無料で手に入れた品だが高く売れるらしい。
物も好きだが、先立つもの(お金)がないと何も買えないので仕方がない。
「四日前に行った高級宝石店でいくらで売られているか市場調査ね。そこで買い取りしてくれるならそのまま売っちゃえばいいし、欲しい物があったら買えばいいしね。それにしても綺麗」
深い海の底を閉じ込めているような色合いだ。
「明日は頑張って高く売れてね」
ふふふふ、とルイは笑った。