シュラドまでの道3
フェルミの街から離れて、旅は順調に進んでいた。
途中、トイレ休憩をこまめにとりながら馬も休ませる。器に入れた水を馬が嬉しそうに飲んでいた。
そうしながら三時間後、海の見えない草原の中で一旦止まる。
海側の方面は崖になっているらしいが木々が生い茂っているので見えず、反対側は丘になっているので遠くまでは見渡せなかった。
そんな中、荷馬車の一行は休憩に入る。
予定通り進んでいるので時間にも余裕があった。
冒険者達は三本の金属棒の片端を結んだ物を馬車で運んでいて、トイレをする時には傘のように広げ地面に固定し、上に防水の布をかけて中を見えなくしてから便座のついた箱を設置すると、簡易公衆トイレが出来上がる。
使用した後は、土粉を一つ投入すれば簡単に土に変わるので、ルイは使用してできた土を、掘られていた穴の中に捨てた。
「簡単ねぇ」
捨てた後はまた戻しておき、次の人が使用する。
仮に捨てなくても、土粉を三つほど最初に入れておけば時間は少しかかるが勝手に土になる。だが、それだとルイは嫌だったので自分が使用した後はしっかりと処分していた。
用がすんだルイは馬車に戻ろうと歩く。だが、草原の中に大きな道が真っ直ぐ通っているのを見て立ち止まった。
道路のように綺麗な道ではなく塗装もされていない荒れた道が続いているが、草は生えていない。それだけ人の行き来が多いという事が分かった。
風が草原に走り、ザザザ、と波のように葉が揺れると太陽の光を反射して白く見える。
ルイは道の真ん中に立ってそれを見ていた。
時間がゆっくりと進み、空がいつもより広く感じる。そんな中に立っているので気持ちは落ち着いていた。
しばらくそうして立っていると脇に色んな草が生えているのに気づく。
ルイが座って見ていると後ろから声をかけられた。
「ルイさんは何をしているの?」
紅き月夜のポロスで、その後ろにはイルシャもいる。ルイが座っているので来たようだ。
「ちょっとね、草を見ていたの」
「草、ね。ルイさんは生えてる草に興味があるんだね」
汚れたズボンを叩きながらルイはポロスの方を向く。
「気にしないで。それよりも私に何か用があって呼んだんじゃないの?」
「依頼人と少しは話をしておこうと思ったんだ。自己紹介は一度したけど面と向かってはまだだったからね。僕の名前はポロス、改めてよろしく」
「じゃあ私も改めて、ルイよ。よろしくね」
「私の名前はイルシャです。よろしくお願いします」
そわそわと遠慮しがちにイルシャは言って頭を下げたので、ルイも無難に同じように丁寧に返す。
「イルシャさんね。ご丁寧にありがとう。こちらこそよろしくお願いします」
ルイも軽く頭を下げた。
「先程、ルイさんは座って草を見ていましたが、もしかして薬草に興味がおありなんですか?」
挨拶が終わるとさっそくと言っても良いほどの勢いでイルシャが喋り出す。
先程の遠慮は何だったのか、と感じるほどだ。
ルイに詰め寄ってイルシャはキラキラとした瞳で見てくる。それに押されて後ろに下がりながらもルイは踏ん張って立ち止まった。




