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護衛の依頼


二日後・早朝。


ひと気のない時間帯に、全員が準備を終えて集まっていた。


「何だこの馬鹿な光景は・・」


ロウフェンは信じられない様子で棒立ちになっている。仲間のフラミー、メルナ、ジャッカルドも同様であった。


目の前に広がるのは、七台の荷馬車と、ランクHの冒険者が二十人。そしてやはりいる、ランクAの冒険者四人と、自分達ランクCの冒険者四名。総人数二十八人の冒険者が、ギルドが借り受けている広場に集まっていた。


あまりの光景に、行く前から疲労を感じるロウフェンだったが、事前にギルドからの報告は受けてはいる。しかし、聞くのと実際に体験するのとでは、全く違った。


シュラドまでの護衛は、過去何度もこなした事があったので、今現実に目の前に存在する光景に、違和感しか感じない。


今回の仕事は、シュラドの街まで行く簡単な依頼だと知っているにもかかわらず、ランクHの冒険者達は険しい表情をしている。

その不満と疑心に満ちた表情は、騙された事に怒りを感じているようで、黒き山脈のメンバーが総出で説得にあたっても、変わる事はなかった。


「ランクAがいるからなぁ」


ロウフェンは気持ちは分かる、と呟いた。

ランクAがいるにもかかわらず、ランクCを雇う理由とは何だ?と大多数の人間は考えたはず。そして分かっている情報から推測して、それが全て嫌な結論に辿り着いたのは、想像に難くない。


可哀想で見てられなかったが、例えロウフェンがさらに説得した所で、効果はないだろう。何なら妄想が加速しそうだ。


ランクHの者達は、ブツブツと呟いている。


「絶対何かあるはず・・」

「大勢を移動させて、本当の依頼者を守る為の目眩ましの役割とかかしら」

「それじゃあ、途中で襲われる可能性が出てくるんじゃないか?そこまではしないだろ」

「ギルドの指示か?途中で何があるんだ?」

「通告なしの試験とかじゃない?遊んでたらマイナスポイントで半年間、ランク上がるの停止とか」

「マジかよ。きたねぇぞ、ギルド」

「募集人数も多いし、依頼料金も高いから飛び付いちゃったけど、それも試験だったのかも。うまい話には裏があるって学べ、とかありそう・・」

「ひでぇ、俺達金がなくて困ってる低ランクなだけの冒険者だぞ。食料を目の前にぶら下げられたら、腹減ってるんだから、食べるのがそんなに罪かっ」

「うわぁぁ、どうしよう。家族に来月までにランクが上がるって、いっちゃった」

「俺もそうだよ」


ランクHの冒険者達は、疑心暗鬼に陥っている。シュラドの簡単な護衛任務という言葉に、嬉しがっている者は誰一人として存在していなかった。


それを見て、ランクAの笑い上戸の冒険者が、腹を押さえて震えている。

ヒーヒーと微かな声がするので、爆笑しているらしかった。


それを半眼で見るロウフェン。その仲間達も、おおよそ同じような表情で見ていた。

紅き月夜の魔剣士の男が、黒き山脈に近づいて来る。


「すまんな。うちの双剣使いは笑い上戸で、止めようとしても止まらないから、放っておいてくれ。迷惑はかけないよう気をつける」

「そうしてくれ。荷馬車で移動中も、笑いそうだな」

「チーム専用の荷馬車を用意している。煩かったら黙らせるから、問題ない」

「それならいいが・・」


ランクAとランクCのチームの接近で、益々動揺するランクHの冒険者達。

それに気づいた笑い上戸の冒険者が地面を叩いていた。


そんな中、ギルドの受付嬢が、依頼人であるルイを連れてやって来た。


「皆さま、揃っているようですね」


受付嬢のコルハは見渡した後、ランクAの紅き月夜に視線をやるが、魔剣士の男が意図的に黒き山脈の方に顎を振るので、そちらを向く。


「では今回の任務を統括するのは、黒き山脈でよろしいですね」

「ああ」


ロウフェンが答える。事前に話をしていたので、この場所で争う理由もなかった。


コルハの方を向いてから、ロウフェンがランクHの冒険者が揃っている方向に向き直ると、極力自然体を意識して、話を始める。


聞き取りやすいよう、ゆっくりとした口調で、皆に向って声を発した。


「ランクHの冒険者達。俺の名前はロウフェン。黒き山脈のリーダーをしている。何かあれば些細な事でも相談して欲しい。今回はシュラドまでの簡単な依頼だから、肩の力を抜いて、慌てずしっかりと自分のやるべき事を果たしてくれ」


コルハが後を引き継ぐようにして話す。


「リーダーのロウフェンさんも、こう言っています。ランクHの皆さん。護衛任務の経験はあまりないでしょうが、この機会に護衛任務とは、どういうものなのかを、しっかりと学んで下さい。

依頼を出したルイさんも了承していますので、分からない事があれば、黒き山脈の皆さまや、紅き月夜の皆さまに、教えを乞うといいでしょう。では最後にこの依頼人であるルイさんに、お話をしてもらいます。どうぞ、ルイさん。好きな事を、お話して下さい」


通常は受付嬢が、案内や見送りに来る事はないが、今回は大金と大勢の冒険者が動く事になったので、特別措置で、きちんと依頼が実行されているか、現場で確認しに受付嬢が来ていた。


その受付嬢が、ルイの方を向いて続きを促す。コルハに急に話を振られたルイは、冒険者のやり方などは知らなかったので、自分の要望の達成だけ考えて、発言する事にした。


「えー、依頼内容はシュラドまでの護衛ですが、私の本当の目的は、賊が目の前に現れないようにする事です。ですから変なヤツらを見かけたら、一斉に威嚇するようにしましょう。

襲いかかられる前に、こちらからアピールすれば逃げるはずです。皆さん、移動中は武器を手に持ってから行動して下さいね。出会ったら直ぐに威嚇ですよー」


ランクHの冒険者は、威嚇をすればいいのか?と自分の持っている武器に目をやっている。

依頼人の要望なら叶えるべきか、と受け入れる態勢になっていた。


それに慌てたのは黒き山脈のメンバーで、そんな事をしたら通報されるのはどちらか、目に見えていた。


「それは止めろっ、確実に俺達が変なヤツだろうが」


ロウフェンの頭の中に、二十八人が武器を振り上げて威嚇している光景が浮かぶ。

その中には、ランクAの姿もあり、何の理由があればそんな暴挙に走る事になるのか、考えたくもなかった。


「幌を上げて、荷馬車にいるのが冒険者だと分かるようにしておけばいい。それだけで賊は逃げる」

「ロウフェンがそこまで言うなら、それでいいわ」


ルイはあっさりと自分の意見を引いた。


それに額に汗をかいて安堵すると、ロウフェンは次の話に移る。


「ランクAの冒険者の紹介を先にする」


不満はないようなのでロウフェンは先を続けた。


「チーム名は紅き月夜。リーダーのリゲルだ」

「よろしく頼む」


肩より長い黒髪を無秩序に跳ねらせ、鋭い眼光の男がルイの方を見ていた。


「隣は魔法治癒士のイルシャ」

「よろしくお願いします」


帽子を深く被り、眼鏡をかけた可愛い女性がペコリとお辞儀する。


「その隣、魔拳士のドライドだ」

「腕力が必要なら頼ってくれ」


顔と手に青い鱗があり、爪も青く固そうだ。筋肉質なのは服の上からでも分かった。


「そして下で蹲っているのは双剣士ポロスだ」

「下からごめんね。ポロスだよ。よろしくルイさん」


緑色をした短髪の髪は両サイドが少し長くなっており、羊に似た角がある。痩せた男がルイに向けて手を振っていた。


ルイの興味は鱗や角、種族には全くないらしく、紅き月夜の装備品をジッと見ている。


うむ、素晴らしい。とルイは満足していた。


魔剣士リゲルの装備品は、黒で統一されているようで、後ろに装備してある剣の持ち手の部分も黒かった。鈍い色の黒で光沢はないが、良い品である事は確かだ。


続いて魔法治癒士のイルシャの着ているローブは、白に近いクリーム色で、複雑な刺繍は白の糸でされている。持っている杖は木製で、年輪がしっかりと見え、上部についている青い珠の中に、白い光が見えた。


魔拳士ドライドは、装備している黒い小手も良いものだが、一番は己の持つ鱗や爪だろう。硬質なその爪なら、どんなものでも引き裂きそうだ。長い青い髪に巻いた、黒いリボンには金色の刺繍が施されている。着ている白い服にも、同じ刺繍がしてあった。


最後は双剣士ポロス。軽くて丈夫な革製品を、複雑に組んだものを装備している。武器の双剣は持ち手に細かい宝石が埋め込まれており、腰には何本ものナイフを所持していた。


眼福、眼福、と思いながらルイは紅き月夜のメンバーを眺める。雇った甲斐はあったと何故か出発する前に満足していた。


それを不信にまみれた目線で見ている黒き山脈。その視線を受けて、ルイは咳払いをして誤魔化そうとしていた。


それからランクHの冒険者の紹介に入る。

全員の紹介が終わると、出発の時刻になった。


「皆さんよろしく。頼りにしてますよ」


ルイが声をかけると、任せろ、と冒険者から声が上がる。それに、頼もしいな、と思った。


「それじゃあ紹介もすんだ事だし、皆、出発しよう」


ロウフェンの言葉で、全員が荷馬車に乗り込んでいく。そして幌を上げて固定し、冒険者が丸見えの状態になった。


一番前の荷馬車は、紅き月夜が自前で用意した荷馬車で、黒く色を塗られている。幌も黒いが、今回は上げられていた。


ルイはロウフェン達に連れられて二番目の荷馬車に乗り込む。

二番目の馬車は、ルイが業者から借りた、冒険者用に作られた特別高価な荷馬車で、奥行きもあり、横につけられた板を下ろすと椅子代わりになった。クッションも前方に備えつけられている。


そして幌を上げても矢で攻撃を受けないように、透明な結界が張られていた。これはルイが追加したオプションで、一日で十万カイル分も、結界石を消費する。


ランクHの乗っている荷馬車は高級ではないが、一つの荷馬車に四人しかいないので、手荷物を横に置いて、ゆったりと足を伸ばせた。ルイの要望でこの荷馬車にも、結界が張られている。

しかし、ランクHの冒険者はそれに気づいていないようで、騒いでいる様子はない。


ロウフェン達は荷馬車に乗ってから直ぐに結界に気づいたが、ルイの金遣いの荒さには予想がついていたので、抵抗する事なく諦めた。


「良い旅になりそうね」


のんきな様子でクッションを全員に手渡しながら、ルイがそう言う。


「・・そうだな」


言いたい事は沢山あったが、ロウフェンはあえて言わずに、それだけ答えた。


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