冒険者ギルド3
草原。
タキシードを着た神様を最後に見てから、目を開けた時、ルイは広い草原の中に立っていた。
風が通り抜けると、波のように草が揺れる。
サラサラと草が鳴って、これが現実の光景だと教えてくれた。
草の匂いがする中で、ルイが棒立ちになっていると、目の前にウィンドウが出現する。
薄青色のウィンドウに、黒い文字が書かれていた。
そこに書いていたのは、金貨三百枚と、街に入るカードを支給した事。支給したお金は目立つので、収納魔法を使えばいい事。世界のレベルという常識と、ルイのレベルの事。
そして、レベルの高い者が勝つ、と書いてあった。
ほうほう、とルイは頷きながら、足元を見る。
そこには袋から見える金貨があり、近くにはカードらしきものも、転がっていた。
辺りを見渡すと街も見える。
神は、ルイが困る事を、するつもりがないようだ。
「あはっ!」
ルイの表情がニヤける。
なら私も趣味を・・じゃなくて、使命を果たさないとね、とルイは思った。
ウィンドウを即行で閉じると、プツンと鳴って目の前から消える。
読んでない文章も沢山ありそうだが、神はルイの性格をよく知っている。問題はないでしょ、とルイは思い、足元にある金貨三百枚を収納魔法を発動させ、収納した。
そしてカードを掴んで、街に向かって全力で走ったらスピードが出過ぎて転んで岩に突っ込み、二・三個破壊して止まったので、今度は注意しながら走る。
物欲の前では、力の調節もお手のものなルイは、一度は失敗したが、後は順調に街に向かった。
そして街に入って宿を見つけ、買い物に出かけた。
ーーーー
異世界の買い物は本当に楽しくて最高だった、とルイは思い出す。
だから情報うんぬんは、覚えてすらなかったのだが、今もこうして聞いてもやはり興味は湧かない。
神様が選んだのはこういう人間なんだからこれでいいのよね、とルイは反省もしなかった。
そんなルイだったが、手に入れた情報さえも、ろくに合っていない事に驚く。
ロウフェンは驚いているルイを気にせずに続けた。
「レベル10のヤツ一人が、レベル9の三人に、ボコボコにやられれば死ぬだろ。普通」
「そ、そうなんだ」
ヤバい、絶対強いと思ってた。レベルが違えばダメージなんて受けないと思ってた!
世界の常識がくつがえされたルイは、一人慌てていた。
「ただな、ここからが問題なんだよ。もし、レベル14のヤツを倒すのに、レベル13のヤツが十人いるとする。そしたらレベル15はどうなる?レベル16は?レベル15を二十人とか用意できるのか?できないだろ。
レベル15といったらギルド最高ランクのランクSの強さだ。ランクSを大勢用意しろと言っているなら、不可能に近い。
レベル16は国から認定を受けているランクSSの強さだ。今、登録されているのは十二人だけだ。
だから、レベルで強さが決まるって言うのは、レベル16以上の事を言うんだ。まぁ、レベル17なんて始祖の吸血鬼とかエルフの長とか、戦わずして伝説になってる奴らだけだから、レベルなんて、あってないようなものだ」
そこで一旦話を止めて、ロウフェンはルイを見た。
「そもそも強いヤツは、あんたみたいに平気で食っていけるから表に出てこないヤツも多い。基本自由なんだよ」
「へ、へぇ・・そうなんだ」
神様!レベル19の大盤振る舞い、ありがとうございます。ルイは絶対に死にそうにありません。安心して買い物できます。
「ちなみに聞くけど、レベルが高かったら犯罪者相手に報復してもいいってホント?
宿屋で話してる人が多くいたの」
これも違ったのかな、とルイは心配になって聞く。
「レベルが高いヤツが犯罪者相手に報復するのは常識だろ。どうしても弱いヤツが食い物にされるからな。レベルの高いヤツが報復すれば、住みやすい土地になる。実際、憲兵は犯罪者に対応しきれていないから、ほとんどの場合、犯罪者が被害者だと放置だ」
そんなの当たり前だろ?とロウフェンは言う。ルイは間違ってなかったので、ホッとした。
「いやぁ、犯罪者の持ち物を強制買収してたから、駄目だったのかなと心配になってね」
「そこは無料で奪えよ。なんなら一・二発殴っとけ。ただし、犯罪者だってのが誰でも分かる時じゃないと、冤罪で反対に捕まる時があるから、注意な」
そう言ってからロウフェンは話を戻す。
「冒険者は、レベル3から10ぐらいがほとんどだ。冒険者ランクはSS、S、A、B、C、D、E、F、G、Hまである。依頼達成ポイントを貯めるか、レベルを上げるかでランクが決まるんだ」
「へぇ、依頼達成ポイントでも、ランクが上がるんだね」
初めて聞く、冒険者のランク制度だった。
「当たり前だ。そうでなければ依頼達成できないヤツらが優遇されて、ギルドなんか直ぐに潰れるだろ。どちらかといえばレベルよりも、依頼達成ポイントの方が重要視されてるぐらいだ。
いくらレベルが高くても、依頼達成できないなら無能とみなされる。もちろんレベルのおかげで上がったランクも、依頼失敗でマイナスポイントがついて、ランク下げが起こるから、ほどんどの場合、依頼失敗が多いヤツはランクが低くなる」
「それなら冒険者ランクに信用が持てるわね。貴方達のランクはどうなの?」
「俺達はランクCだ。依頼失敗もほとんどない。ただ天候だけは俺達にもどうしようもないからな」
ロウフェンはそう言ってフラミーを見る。
フラミーが思い出すのも嫌だという顔をした。
「あの嵐は死ぬかと思ったわ」
「だから依頼なら信用してくれてもいいぜ。レベルは仲間内でも高い低いがあるから、話さないヤツの方が多い。チームに所属したい時や他チームに移籍したい時なんかは、申告しないと所属させてもらえない事もある。なぁ?フラミー」
「そうね、さすがに何も知らない相手をチームに入れたくはないし、最低限の礼儀として教えてもらわないと、信用できないわよね」
ロウフェンとフラミーは同意見のようだ。
「それで、護衛が十人もいらないって納得できたか?」
最終確認のようにロウフェンが聞いてくる。
ルイは大きく頷いた。
「もう五人増やして十五人にしましょう。賊に遭うのは絶対に嫌だから、人数で牽制して追い払えば近寄る事もないでしょ。ロウフェンの、レベルよりも大人数でボコるって意見のおかげね」
「俺ら以外全てを最低ランクにしても過剰戦力だよ!ランクH全員が棍棒しか持ってなくても、十一人いたら近寄りたくもないわ!」
何で増やした!?とロウフェンは怒る。
「大勢雇うのは無理なのかしら?」
「・・いや、そうでもない。高いランクのヤツらを大勢連れていかれたらギルドも困るだろうが、低いランクのヤツらなら、反対に喜ばれると思うぞ。
なにせ食っていくのがやっとのヤツらもいるんだ。シュラドまで大勢で行くだけで給金が出て、旅の訓練もできるなら、ギルドも喜ぶだろう」
「じゃあそれで」
「本当か?本当に、この今までにない、訳の分からない依頼に金をだすのか?」
「五百万カイルならだすわ」
全員が衝撃を受けたように固まる。
二日かかるだけのシュラドの街までの護衛に、五百万カイルだと。正気だとは思えない。何日かけてシュラドまで行くつもりなんだ、とロウフェンは思った。
「大回りで寄り道しながら行くのか?長いテント生活も楽じゃないぞ」
心を落ち着かせようと、ロウフェンはルイを説得する。だがそんな努力も、次の瞬間にはなくなった。
「え?荷馬車で二日ぐらいで着くんでしょ」
「二日で着くつもりで五百万カイルかよっ。全員、ランクCでも依頼できるわっ!」
「なら人数増やして・・」
「アホかっ!何十人でシュラドに行くんだよ!テントだらけになって、道が通れなくなるぞ」
「それは困るわね。道を塞がないように縦向き方向に一列にして、荷馬車とテントを設置したら、三十人でも大丈夫だと思うわ」
「シュラドの街に行くだけで持っていく荷物もほとんどないのに、荷馬車に入ってるのは冒険者だけって、人身売買組織以外、何の旨味もない荷馬車だなっ」
「そう?みんな良い装備してるからそれで満足できるんじゃ・・。はっ!もしかして冒険者が沢山いる方が賊に襲われる可能性が高くなるんじゃっ」
「ねぇよ!そんな狂暴なヤツらを襲って勝つなら、普通に魔獣を討伐した方が安全で実入りがいいわっ。・・ああ、もう疲れた。好きにしろ」
ロウフェンは手を振る。
ルイを説得するのを諦めてしまったようだ。
聞こえていた他の冒険者チームが腹を押さえて笑っている。
常識外れもいいところだ。
「じゃあ、私は貴方達を指名して依頼を出してくるから、よろしくね」
「好きにしろとは言ったが、冗談だぞ。常識の範囲内でしろよ!分かったな」
ルイはしっかりと頷いてから行く。
ロウフェン達は、絶対に分かってない、と確信していた。
「ぼ、僕達も立候補しようか?」
高ランクの、紅き月夜のメンバーの一人が、腹を押さえて手を上げている。
よほど面白かったのか顔が真っ赤になっていた。
「す、数十人で行くメンバーの一人に・・加えて・・あっはっはっはっ!」
テーブルをバンバンと叩いている。それにロウフェンは本気で焦った。
「ちょっ!冗談でも、受け付けに言うのは止めてくれよ!本当に入れられちまう。ランクAのあんたらが来たら、本気で俺達何しにシュラドまで行くか分からなくなるだろうが」
「初心者の引率があるだろ。そんなに大人数で行ったら、まとめる方が大変になるぞ。なんなら高ランク任務の難易度になるぐらい、集まった人間はやっかいだ」
笑っている人物とは違うメンバーの一人が、ロウフェンをちゃかすのではなく、忠告をしてくる。
ここにいる、紅き月夜のメンバーは三人なので、すでに一人が、受け付けに話に行ったようだ。
ギルドに直接口利きができるぐらいの実力者なので、決定事項のように話しているが、まだ希望がある。
ルイが断る事だ。
「駄目だっ。あの子は絶対受け入れるっ」
少ししか交流がない相手の性格が読めてしまったロウフェンに、希望はなかった。




