冒険者ギルド2
建物の中央付近はテーブルが数多く置かれており、冒険者達が座って話をしている様子が見える。
広い空間には竜の銅像があり、その周りには植物が飾られていた。
天窓からは陽の光が降り注いでいる。建物内だが明るくて雰囲気が良かった。
ルイは周囲を興味深く見ながら足を進める。
この休憩所の先を進んでアーチを潜って左側に行くと、依頼人の受付場があると大きな看板に書かれていた。
それに従って歩いていたが、依頼人カウンターに向かう途中、見た事のある冒険者がテーブルに座っていたのでルイは立ち止まる。
向こうもルイに気づいたようで、座ったままこちらに体を向けていた。
海で出会った冒険者の四人で、後の三人は別メンバーのようでいなかった。
「お久しぶりね。あの後、海は大丈夫だった?」
ルイが声をかけると、また同じ剣士が答えてくれた。
黒の短髪、青い目をした清潔感のある男性だ。
「海では世話になったな。こっちはきちんと目的を果たせた。俺はロウフェンだ。よろしくな」
「私はルイよ。こちらこそよろしく。でも良かった。同じ海に潜る者同士、危険がないのが一番だからね」
「それはそうとあんた、とうとう冒険者になったのか?見事に追っ払ってたし、さすがだな」
「さっきの三人ね。有名なの?」
ルイが声を潜めて聞くと、ロウフェンも小さな声で答えてくれた。
「ギルドが調査中の人間だ」
「そう、被害者はお気の毒ね。早く捕まるといいわ」
ルイは近づけていた態勢を戻した。
「冒険者にはトラブル回避能力も必要だ。その分あんたは信用できそうだから俺達と話をしないか?仲間達も歓迎している」
ロウフェンの言葉に仲間の三人も頷いている。
「ごめんなさい。私は冒険者になった訳じゃなくて今日は依頼をしに来たの。冒険者用のカウンターに間違えて行ってしまって今は依頼人用のカウンターに行く途中なの」
「あんたほどの腕前の者が依頼を、ねぇ。相当難易度の高い依頼なんだろうな。あ、いや、すまない。聞いては駄目な事だったな」
「そんな事ないわよ。シュラドの街までの護衛依頼だから、そんなに珍しい依頼でもないでしょ」
ルイがそう言うと皆が顔を見合わせる。
ロウフェンは言葉を選んで口に出した。
「護衛か・・あんたでも寝たりすると危険があるのか?」
「やっぱり旅にはプロを雇うべきだと思うの。素人がいくら考えてもプロには敵わないわ」
「いや、海で一人で潜るのは相当なプロだぞ。なんなら冒険者よりも命知らずな人間じゃないか」
単体でしかも所属なしの採取人だ。行方不明になっても誰も探さないし助けが来る事もない。保証の一切ない海の放浪者というのがロウフェンのイメージだった。
「ギルドのない村の人間なら浅瀬の海を素潜りぐらいなら平気でやっているが、深い海の底を潜っている者とは違う。海の底はもはや別世界だ」
そうロウフェンは断言する。
それだけ海の底は危険で、少し間違えば直ぐに命を失う、そう言う狂暴な魔海獣がいるのが深海の世界だ。
「そんな事ないわよ。陸には山賊とか盗賊がいるじゃない。十分怖いわよ」
「海の方が怖いだろ。常に命の危険を感じるだろ」
ルイの言いようにロウフェンは、俺おかしくないよな?と仲間の方を見る。
仲間達はそれに同意していた。
それにルイは不満そうな顔をする。私の方が正しいのに、と思い説明する事にした。
「そんな事ないわ。ずっと風呂に入っていない匂いを撒き散らす相手の方が怖いわよ。それに万が一捕まえた場合はどうするの?
触りたくないからって放置する訳にもいかないし、命を奪うのも嫌だし、だからと言って全身マヒさせたら身体中の体液が駄々もれになって出ちゃいけないものまで出るだろうし、そんなのが五十人も出てきたらゾッとするわよ」
ルイは全身を震えさせた。気絶させても尿もれするかもしれないのに着替えさせるのは誰がやるのよ、とも思う。水浴びさせるのもルイは嫌だった。
「その話を聞いた俺らの方が怖いんだが」
五十人でも対応できると言っているルイの方にヤバさを感じたロウフェンと仲間達だったが、その時にはもう遅かった。
ルイは何かに気づいたようにロウフェン達を見ている。
そして頼りになりそうな人間を発見したとばかりに明るい表情になったルイは、目の前の冒険者を確保する為に動き出した。
「あ、そうだ。他のお仲間さん達には自己紹介してなかったわね。私の名前はルイ。貴方達のチーム名と名前を教えてほしいな。もちろん教えてくれるわよね?」
「あ、う・・・チーム名は黒き山脈だ」
チーム名を言いたくなさそうなロウフェンだったが、諦めた様子で隣の女性を見る。
そんなロウフェンに苦笑した後、女性はルイの方を見た。
ロウフェンも仲間も全員若そうだ。
「私は魔法使いのフラミーよ。あの時、情報をくれて感謝してるわ」
長い紫の髪の、緑の瞳の女性がニコリと微笑む。
「短剣使いのメルナだけど、海ではモリ使いなの。よろしく」
メルナは赤色の短い髪をしており、瞳は黄色だ。
「手斧使いのジャッカルドだ。もし依頼するなら高くしてくれ。そうじゃないなら受け付けない」
灰色の髪を背中で結んでおり、濃い緑の瞳は意思の強さを感じた。
牽制するように依頼料の事を言っているが、ロウフェンはそれは駄目だろという顔をした。
何故なら目の前にいる女性は仲間との報酬を分ける必要がない。懐具合も知れるというもの。
うんうんとルイは頷く。
「通常よりもたかーーーくしておくわね」
逃げられないように、というルイの無言の声がロウフェンには聞こえた気がした。
効果のない様子に顔をしかめるジャッカルド。
「貴方達の他にあと六人ぐらい依頼したいんだけど、伝手はある?」
「はぁ?シュラドの街なのに十人も冒険者を連れて移動するのか」
さすがにロウフェンは少し大きな声で驚く。
「それだけいるなら山賊もでないでしょ」
「そうだけどっ、そういう事じゃないんだよな」
普通はそれだけの人数がいるなら商人の数の多い荷馬車の護衛だ。それなのに十人の冒険者に守られて移動するのは護衛の必要がないルイ一人である。
そんなに大勢で一体何の護衛をさせようというのか?
「ほら、この世界レベルで強さが決まってるじゃない。山賊にレベルの高い人が混じってても危ないでしょ」
「そもそもレベルの高いヤツは山賊やるぐらいなら別の仕事で食っていけるがな。それにレベルが全てじゃないぞ」
「え?」
それは知らない事実だったので驚く。
初めて異世界に来た時の光景を、ルイは思い出していた。




