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冒険者ギルド


「シュラドの街に行きたいんだけど、買い物以外に労力を使う気が起きないのよねぇ」


ルイは宿屋のベットの上でゴロゴロと転がる。部屋の中には朝市で買った防具などが飾られていた。


美しい色のナイフは棚に並べられている。出している透明なケースの中には七色に光る扇が入っていた。


「旅でしょ、旅。あ、そうだ!」


思いついたルイは体を起こす。


「専門家がいるじゃない。丸投げしよう」


お金で解決できる事を思いついたルイは良い笑顔をする。素人が考えるよりも玄人がやった方が早い。

馬車とか持ち物とかも雇ってから考えようと決めた。


「よし解決。残った時間は有意義に使わないとね」


それから旅の事は考えずにルイはずっと買った物を愛でていた。










ーーーー


冒険者ギルド。




建物の外観は青い色で統一されており清潔感のある佇まいをしている。堅牢な作りをしているので、荒くれ者達が少々暴れても問題はなかった。

依頼する者と依頼される側のカウンターは真逆の位置にあり出会う事もない。

入る場所も違うので、意図的に別けられていた。


そんな中、ルイは冒険者用のカウンターに来て、受付嬢の目の前にいる。

ルイに声を掛けられた受付嬢は、冒険者登録にきた女性だと勘違いしたが、そうではないと直ぐに気づいた。


「依頼するのってここのカウンターじゃないんですか?」


ルイは身を乗り出すように聞く。周りに冒険者がいるが、おかしいと思っていなかった。


「ええ、依頼人が建物内に入る時の場所も違うんですよ」

「気づきませんでした」

「初めて来られた人の中には間違う人もいますから大丈夫ですよ。建物自体は同じなので、この先を歩いて行けば反対側の位置に依頼者の受付があります。そこで手続きを行って下さい」

「親切にありがとうございます。今から行ってみます」


御礼を言ってからカウンターから離れる。

ルイが見渡すと確かにこの場所は冒険者だらけで、隅の方には巨大な掲示板が設置されており、それに紙が沢山貼られていた。

それを真剣に確認している冒険者達。


へーあれが依頼内容が書かれた紙なんだぁ、と大して興味なさげに眺めた後、ルイはそんな事はどうでもいいから早く依頼に行かないとね、と楽しそうに足を踏み出す。


そんな時に声を掛けられた。


ルイが声を掛けられた方向を見てみると、三人の冒険者の男性が立っている。


「何の依頼で来たんだ?嬢ちゃん」


でかい男三人が、ルイの方を見ている。ニヤニヤとした顔で距離を詰め、手慣れた様子で後ろの二人も目線で何かやりとりして、ルイの全身を見て値踏みしていた。


その様子に、相手が近寄って来るなら自分もいいか、とルイも思い、かなりの速度で近づく。

まさか相手の方から来るとは思っていなかった男は足を止め、その間にもルイは近寄り、相手の手前で足を止めた。


全く怯んでいない様子に少し口ごもる男達だったが、後に引けないのか話を続けようとする。


「話ぐらいなら聞いてやるよ。俺達は・・」

「赤い鎧もいいわね。艶もあっていいじゃない」


相手の話を一切聞かず、ルイもニヤニヤしながら相手の全身を見た。


手甲や剣、尻辺りに付いた小物入れなどに興味津々な様子で、じっくりねっとりと観察する。

やられて嫌な事は、同じような事をやり返すのがルイのやり方なので、相手と一定の距離を保ちつつ、蛇が鎌首をもたげる感じで見ていた。

ルイよりも大きな体をした三人の男は少し怯む。獲物だと思っていたら捕食者に出会った。そんな表情をしていた。


「いいなぁ、欲しいなぁ・・」

「おいっ、辺な事いうなよ!これは俺達がダンジョンに潜って苦労して探しあてた装備品だぞ」

「寄越せとは言ってないじゃない。ただ、いいなぁと思っていただけよ」


じっと相手の赤い手甲を見ているルイの瞳孔が開く。獲物に飛びかかる寸前の顔だった。


「剣も使い慣れてる感じよね。その剣の端に付いた青い宝玉、欲しいなぁ」

「おいおい嬢ちゃん、てめぇ仲間にふざけた事いうな・・」


ぐるんとルイの顔が次の者に移る。

移った相手の表情は嫌そうだ。


「貴方も結構良い装備してるわよね。その鈍い銀色の盾、いいじゃない。裏に黄色の石が付いてるわねぇ。それに背中の後ろの防具は素材が違うわね。艶があって綺麗」


じぃっ、とルイは見る。


「ふざけんなっ、イカレ女!も、もう行こうぜ。皆」

「そ、そうだ。行こう」


三人の男は早足でいなくなった。




ルイはその背をしばらく見ていたが、踵を返す。


「獲物を見るような目をして私に話しかけてくるからよ。私が話を聞いたら、受け入れられたと自分で勝手に頭の中で妄想して、都合の良い事を言ってくるんでしょうね」


やっかいな相手は色々な方法で近づいて来るからルイは注意していた。

自分に被害がなくても、自分の近くにいる者に被害が出たら困るので早々に追っ払うようにしている。


「自分を大事にしてくれる人を大切にしないとね」


あんなヤツらなんて宿屋のおねぇさんに比べたら気を使う価値もないわ、とルイは思っていた。

追い払う事も、きっぱりと断る事もせずに宿屋に押し掛けられたんじゃあ、たまったものではない。


あんな一人の女性に対して、男三人で囲んでこようとするヤツなんて私には必要ない、とルイは思っていた。


「・・・でも、さっきの冒険者もだけど、よく見てみると冒険者達って良い装備してるわよね」


この冒険者ギルドというのはルイにとってはお宝の宝庫であった。冒険者の付けている装備品の見事な事。あの人もこの人も実用品で素晴らしいものを着けている。

ダンジョンで手に入れた装備品だと先程の男が言っていたから、他の者達が装備しているものも一緒なのだろうとルイは考えた。


ダンジョンって凄い。

できる事なら一週間ぐらいギルドに住み着いて観察していたいほどだ。


「いや待って。この冒険者ギルドに時間制限なんてものあるのかしら?」


ルイは立ち止まって上を向いて瞳を閉じる。そして三分ぐらいそうした後、目をカッと見開いた。


「いや、ない。ないはず!なら毎日時間いっぱいギルドに住んでてもいいんじゃないかしら。そうよ!でもちょっと待って。やっぱり旅に出るのは保留して、これから毎日ギルドに来て目の保養をする方が・・」

「依頼人さまっ!」

「あれ?カウンターの受付嬢さんじゃないですか。どうしたんですか?」


紺色の制服を着て、髪を結い上げた受付嬢がルイの後方に立っている。


「立ち止まって動かない人がいると言われて来たんです。ギルドに住むとはどういう事ですか?それに目の保養など、何を言っているのか分かりませんが迷惑行為は止めて下さいね」

「え?いや・・一日ぐらいは・・・はい、止めます」


ルイは受付嬢の無言の圧力に負けた。


「それならいいんです。とにかく早く先に行って依頼をちゃんと出して下さい。いいですね?」


そう言って受付嬢はカウンターに戻って行く。手間をかけさせるな、とその背中が語っていた。


「さっきの三人よりもよっぽど強そう」


受付嬢の言う事を冒険者が素直に聞くはずだ、とルイは納得した。


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