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№10 『最強狩り』の誕生

№10 『最強狩り』の誕生

 ジョンが次の街にたどり着くころには、ウワサはすっかり広がっていた。


 『ジョン・ドゥーはたしかに強い』、『強いが、同じくらいヤバいやつだ』、と。


 ジョンもなにもしなかったわけではない。最初の態度を反省し、自分から強そうなパーティに声をかけるようになった。


 しかし、どこのパーティもウワサを知っていた。猛獣をなだめるように遠ざかっていくリーダーもいれば、面と向かってウワサのことを口にするリーダーもいた。いくら違う街に行っても同じことで、パーティに入れてくれるようなものはいなかった。


 マトモなやつは誰も相手をしてくれない。


 誰もいっしょに過ごしてくれない。


 焦れば焦るほど、ひとは離れていった。


 孤独にさいなまれるジョンに、神の声は容赦なく罵声を浴びせる。


 あなたは無価値です! 誰からも必要とされていないではないですか!


 うるさい……!


 夜、森の野営地でうずくまりながら、ジョンは必死に耳をふさいだ。


 誰もが忌避するジョン・ドゥー! 嫌われ者のジョン・ドゥー! いっそ今すぐ死になさい! あなたに生きていていい理由などありません!


 耳をふさいだところで、頭の中に直接聞こえてくるので意味はない。ジョンは祈るようにその声が収まるのを願った。


 完全に孤立してしまったジョンの頭の病は悪化していた。神の声は頻繁にジョンを否定し、罵倒し、言い聞かせるように死ねと断じる。かと思えば甘い声で篭絡しようとしてきたり、味方は自分だけだとささやいてきたり。


 精神に巣食うバグにとって、孤独は格好の餌だった。ジョンがひとりになればなるほど、こころの揺らぎは大きくなり、いびつに腐っていく。


 他の人間から拒絶されるたびに、ジョンは正気を失っていった。今ではすっかり森に引きこもり、できるだけ他人とのかかわりを持たずに過ごしていた。


 昼はモンスターを相手に飽きるほど戦い、夜になると火を焚いて神の声から耳を背ける。おおよそ人間らしい生活ではなかった。


 ジョンは、人間らしい振る舞いを忘れてしまった。


 執拗に語り掛ける神の声が、ふと甘いトーンを帯びる。


 あなたには仲間など必要ありませんよ。あなたはひとりで完結している、ひとりで成し遂げている、ひとりで完成している。ほら、あのときの勝利を思い出してみなさい。初めて自分の手で勝ち取ったときのことを。


 耳をふさいでいた手を下ろし、見つめる。


 そうだ、あのとき。


 あのとき、ジョンはこの手で主人を刺し殺したのだ。


 そして、自由を勝ち取った。


 血にまみれたジョンが感じた、あのしびれるほどの歓喜。失神しそうなほどの達成感。はちきれるほどの希望。


 気付けば、渇きを感じていた。


 勝利への渇望はどれだけ押し殺そうとしても、マグマのように湧き上がってくる。またあの美酒を味わいたい。求めるものを手に入れて、己の強さに確信を持ちたい。ここにいてもいいのだと。ここにいてもいいのだと。


 戦え、勝ち取れ。それがお前の存在意義だ。


 神の声がそう告げると、一斉に頭の中に輪唱が響く。


 戦え! 戦え! 戦え! 戦え!


 わんわんとハウリングする声の中で、ジョンは両手を握りしめた。


 たったひとりの頂点にならなければならない。


 強さこそ、自分のレーゾンデートルだ。


 誰よりも強く。


 そうすることをやめてしまっては、生きていく意味を見失ってしまう。


 最強では生ぬるい。


 最強の中の最強に。


 最強の頂点に立たねばならないのだ。


 世界でたったひとりの最強にならなければならないのだ。


 神からの啓示を受けたジョンは、すぐに焚火を消して動いた。


 次の獲物は『最強』だ。


 次の次の獲物も『最強』だ。


 とにかく、『最強』と名のつく者すべてを倒し、ジョンはその頂点に上り詰める。


 おののくように森がざわめく夜、こうしてジョンは『最強狩り』となることを決めた。


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