第九話 認識
展開が遅くなってしまいましたが、ついに転移が起きたその時の日本本土の状況がようやく判明します。
時は、昨日の出来事から一晩経った日の事である。
日本時間・4月7日
日本・帝都東京
場所は東京にある陸軍省建物の休憩室の一室で、
陸軍参謀少佐と、同じく同期の陸軍少佐が休憩のため煙草を吹かして雑談していた。
「全く、コレじゃあ箝口令を出そうが意味は無さそうだな。」
参謀少佐が手に持っていた新聞を雑にテーブルに放り投げた。
その記事の見出しには、
【外地に居た在留日本人と陸海軍部隊。突然一斉に本土へ現る。】
と、デカデカと書かれていた。
「あぁ、新聞社の連中はここぞとばかりに事を荒げようと必死なんだろう、全く。」
「まぁ無理も無いか。突然外地に居た日本人が全員本土に現れたんだ。
彼らの話によれば、突然自分の目の前が霧に包まれたと思ったら、気づけば本土に帰っていたと証言してる。全く、神隠しかなにかか。」
「それこそ、昨日の菊水作戦で出撃した部隊の話しで、少し面白い噂が流れているの知っているか?」
「なんだよ、言ってみろ。」
「一応建前は、有力な敵部隊を発見出来なかったためやむを得ず引き返した事になっているが。
どうやら出撃した海軍の艦隊や航空部隊の連中が全員揃ってドラゴンを見たとか、大昔の戦列艦と戦ったとか証言しているらしい。」
「はぁ?何だそれ?神隠しの後はドラゴンだ?なんでもありか。」
「全くだな。」
陸軍少佐の二人は疲労仕切った表情で語りあっていた。
彼らの話した通り、現在軍部に限らず日本中が大混乱の真っ只中であった。
事の発端は、昨日4月6日午後、
突然、占守島から与那国島に至るまでの日本中の沿岸部付近に濃霧が同時多発的に観測されたのである。
濃霧自体は直ぐに収まったものの、その瞬間から、外地や海外に居た筈の日本人と兵士合計660万人と陸海軍の兵器が本土の至る所に出現したのである。
当然日本中では瞬く間に混乱が広がっていったのである。
だが、幸いに原因究明よりも先に事態の沈静化に動いた政府は、各地の警察や陸軍部隊などを動員して、治安の維持に当たらせた。
この行動が功を奏し、一時的に混乱はある程度収まったものの、異常事態はこれだけではなかった。
外地の日本人が現れたのと同時に、外国との全ての交信や連絡が途絶えてしまい、国内にいた全ての外国人なども消えてしまったのである。
それは激戦が続いていた筈の沖縄でも、その瞬間を境にして銃声が一つも聞こえなくなり、現地の第32軍からは上陸した筈の米軍が全て消失したとの報告が届いた。
この未曾有の事態に、大本営は直ちに発動中の全ての作戦中止命令を出したのである。
4月7日深夜
日本・帝都東京
「私が総理大臣になった初日からこんな事になるとはな。困ったことになった。」
車内で自身の秘書官を務める息子に対して、そんな弱音を吐いているのは、今日総理大臣に就任したばかりの鈴木貫太郎である。
彼らは今、主要な国務大臣達を交えた緊急会議の場へと向かうべく、車を走らせていたのであった。
会議へ出席する人物は以下の通りである、
内閣総理大臣・鈴木貫太郎
内務大臣・安倍源基
外務大臣・東郷茂徳
大蔵大臣・広瀬豊作
農商大臣・石黒忠篤
陸軍大臣・阿南惟幾
海軍大臣・米内光政
参謀総長・梅津美治郎
軍令部総長・豊田副武
参謀次長・河辺虎四郎
軍令部次長・大西瀧治郎
などであった、
「すまん、待たせてしまった」
首相の鈴木が会議室に入ると、既に全員揃っていた。
「いえいえ、我々もついさっき来たばかりです。」
陸軍大臣の阿南がそう答えた。
鈴木は足早に椅子へと座り、会議の進行を始めた。
「では、会議を始める。まず各大臣は報告をしてください。では最初に内務大臣から。」
指名された内務大臣の安倍源基は資料を手にとり報告を始めた。
「内務省としては、現在確認されている本土の他沖縄やその他離島などの各地に警察を配置し、陸軍と協力して国内の治安維持に努めています。現状では大きな混乱は抑止出来ており、引き続き現状維持に努めます。」
治安の維持と言っても、デモや犯罪が多発している訳ではなく、主に民衆の不安などへの対策であった。
内務大臣の言う通り、国内の各地に警官と陸軍兵が配置されたことで、民衆の不安の抑止には成功しており、混乱や犯罪を防ぐ事が出来ていた。
「では、次に外務省からです。現在全ての外国との連絡は途絶しており、国内に存在する外国人や大使館の外国人職員も全員の行方不明です。」
「では次に農商大臣、頼みます」
「はい、えー。現在国内の食糧事情は危険水準となっております。このままですと、後半年もしたら各地で餓死者が出かねない状況です。」
「うむ、なんとしても食糧供給の改善は必須ですな。では次に陸軍大臣頼みます」
次に陸軍大臣が指名された、
「陸軍としましては現在、国内に出現した外地部隊の把握と、さらなる本土防衛への体制移行に全力を注いで行く所存であります。」
「では次に海軍大臣、頼みます」
「同じく海軍といたしましても、外地より出現した部隊の把握に努めている最中です。ただ、一点報告させていただく事があります。実は昨日の天号作戦で出撃した第二艦隊や一部航空部隊から、相次いで...えー、詳細はお配りしている資料に書いている通りであります。」
各人はテーブルに置かれていた資料に目を通す、
すると次第に全員の顔が困惑に満ちた表情となった。
「ベルジア大陸のレイネティア王国なる国家の艦隊と接触した??更には大昔の戦列艦隊と砲撃戦の末撃滅させた上に捕虜を取っただと?こんな非常時に海軍はまさか冗談を言っている訳ではありますまいな。
仮にコレが真実ならば、我が国は国土諸共に別の世界へと来てしまった事になる。」
阿南大臣が半信半疑の表情で疑問を口にする。
すると外務大臣が発言する、
「ですが、もしそうであればこれまでの出来事にも無理矢理だが納得出来てしまう。特に外国との通信が途絶してまった事については。」
それに対して、大西瀧治郎軍令部次長が補足する。
「その事なのですが、つい先ほど大陸方面に飛ばした偵察機から報告が上がっており、どうやら朝鮮半島や大陸のみならず台湾までもが消失してある事を確認したとのことであります、それと同時に南方向には先ほどのベルジア大陸と思われる陸地を発見したとの事です。」
『・・・・・・』
予想はしていたものの、極めて大陸が消えてしまったという事実と、新大陸の発見という事実。
そして、これらの普通ではあり得ない地形の変化が認められた今、第二艦隊が上げてきた報告内容はさらに信憑性を増していた。
つまり、本当に別世界に転移してしまったと言う予想は現実味を帯びてきたのである。
各大臣は目の前のあり得ない現実に顔を青冷める事しか出来なかった。
「・・・では、本当にここは別の世界と言う事なんでしょうかな。」
鈴木が神妙な面持ちで呟いた。
「と、兎も角。これらの情報が確かなのであれば、米軍や連合国軍の攻撃や空襲に悩まされる事はもう無いと言うことですか...」
内務大臣の安倍はどこか複雑な表情で呟く。
「まだまだ懸念点はあるでしょう。
特にこのバルバラス帝国とか言う国の艦隊が突然攻撃してきたようではないですか。
向こうの出方によっては新たな火種となる可能性がある。」
阿南大臣は固い表情を崩さずに発言した。
そんな中、外務大臣の東郷が挙手し発言した
「とりあえず、外務省としてはこのレイネティア王国と言う国と公式に接触を取りたい所です。」
「農商務省としても、外務省の意見に賛成です。早いところ貿易を開始して食糧など資源を手に入れなければ、我が国は干上がってしまいます。」
農商大臣は外務大臣の意見に賛同した。
「外務省と農商務省は接触に賛成と、海軍の方はどうなんですかな?外交特使の派遣に出せる艦艇はありますか」
「海軍は現在、各地の部隊把握と編成に全力を注いでまして、尚且つ敵対的な国家が存在するとなると、護衛なども考慮しなければならない為、遺憾ながら即座にと言うのは厳しいのが現状です。」
「分かりました、ですが事態は一刻を争うので、なるべく早く準備を整える事を期待します。」
鈴木は米内に対しそう話すと
ゆっくり椅子から立ち上がり、
「私は今日、陛下より総理大臣の職を拝しまして、この国難に全力で当たることを誓いました。
どうか、皆には省庁や立場の隔たりを超えて一丸となり、より一層奮励努力してもらいたい。」
鈴木がそう語ると、室内の全員が同じく立ち上がりこれに強く頷いたのであった。
こうして会議では、日本本土の状況の確認と情報の共有が行われた。
第二艦隊や航空部隊から寄せられた情報も相まって、遂に日本政府首脳陣は異世界へと転移してしまったと言う事を確信しつつ、新たに発見したレイネティア王国との接触に向けて準備を進めることを決定したのであった。
会議シーンなどは『日本の一番長い日』を想像して書きました




