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第七話 向こうの事情③





王国艦隊と帝国艦隊が必死の追いかけっこをしていたその時、






ガルズと近衛隊は数で勝る帝国竜騎士団を相手に、必死の善戦を続けていた。



「くっ...」


ガルズの頭上を火炎が通りすぎる、


「今のは危なかった、」


ガルズは冷や汗を垂らす。

既に、ガルズの青と銀で磨かれていた鎧には、いたる所に傷が入っておりボロボロとなっていた。

リーア姫の騎を逃してから、かれこれ10分は経っただろうか。


近衛隊のワイバーンはその数を半分の3騎に減らし、それぞれの体力も限界に近づいていた。


「十分、時間は稼げただろうか...そろそろ潮時だな。」


ガルズはそう呟くと覚悟を決めた。

敵ワイバーン隊の隊長と思われる者へと向けて槍を構え、一直線に突き進む。


「姫様のお命を狙った罪、その身に刻むがいい!」


ガルズは叫ぶと、敵隊長騎に対してワイバーンの火炎を叩きこむ。


「くっ、危ないな」


「クソッ」


ギリギリの所で避けられてしまった。

だが、ガルズは諦めずにワイバーンが交差したその刹那、持っていた槍を片手で力一杯に突き刺す。


『カキーーンッッ!』


「っ!!」


ガルズの槍は虚しくも空中を舞うと、下の海面へと沈んでいった。

ガルズは咄嗟の事に衝撃を受けつつ、敵の隊長が自身より格上だと理解した。


敵の隊長は間一髪のタイミングで回避すると同時に、腰に掛けていたサーベルを引き抜くと、上手い具合にガルズの持ち手へ向けて叩きつけたのである。


ガルズは目の前の敵隊長の強さに下を巻いた。


「中々の攻撃だったぞ、流石は近衛隊と言った所だな。だが、ここまでだ。」


「くっ... せめても相打ちにっ!!」



そう言いかけた時であった。





『ブゥーーーン』




遠くの空から謎の重々しい空気を切り裂くような音が彼の、いやその場に居た全員の耳に聞こえてきた。



「...なんだ?」


ガルズと敵の隊長は揃って音の方向へと視線を向けた。


そこには、雲一つ無い晴天であるはずの空に、分厚くドス黒い雲が不自然にも一箇所だけ存在していたのである。

二人が疑問に思っていたその時、雲の合間からその音が段々と近づいてきていた。


次の瞬間、雲を切り裂くようにして"緑色の不思議な形"をした物体が姿を現したのである。


一つ目のそれが現れたと思った次の時には、

2、3、4つと、続々と同じような形をしたそれが出現し、最終的には100は居るのではないかと思われる程の数が姿を現したのである。


最初は戦闘に集中していた二人の部下達も、否が応でも耳に入ってくる風切り音へと眼を向けると、皆一様に戦闘を止めざるをえなかった。


『な、なんだアレは...』


二人の隊長は同時に同じ言葉を絞り出した。

それと同時に、物体の中に人が乗っている事に気がつく。


「?!人が乗っていだと!という事はあの連中はワイバーンの新種か?まさか"超大国"の騎か?」


「いや、まさかそんな筈は...」


二人は一瞬、敵同士にも関わらず同じ疑問を口に出し合った。

しばらくの間、双方の視線が交差し合っていたが、


(はっ!いかん、とりあえず隙が出来た!この機を逃す訳にはいかない。)


瞬時に我に帰ったガルズは、


「全騎!撤収せよ!」


と部下に命じ、自身も背を向けて戦場を離脱した。


「あっ!ま、待て! お前ら!敵を逃すな!」




咄嗟に帝国竜騎士団も追撃へ移ったものの、最後の力を振り絞り全力飛行した近衛隊ワイバーンに追いつくことは叶わなかった。


ワイバーンが去って行った空域に残された100あまりの物体も、程なくして場を後にしていった。









一方その頃、海上の艦隊の元でも異変が発生しようとしていた。




「最早逃げる事も叶わんか。どうしたものか、」


王国艦隊提督のレオルドは呟いた。

あれから姫の保護に成功したものの、すぐに追撃してきた帝国艦隊に追いつかれてしまった王国艦隊は、やむを得ず帝国艦隊と対峙していた。




「簡単に追いつけたな。あんな旧式艦では操艦すら満足に行えなかっただろう。」


目の前の王国艦隊を見てそう嘲笑うのはメリル駐留艦隊司令の男である。

彼の視線の先には貧相な王国艦隊と比べ、

自身が艦長を務める2等戦列艦パルスの赤く装飾された美しい船体と、そこから突き出る勇ましい大砲80門が彼の自尊心を高めており、

その指揮下の他11隻も、2等戦列艦で旗艦パルスには劣るものの、同じように装飾が施された3等戦列艦や4等戦列艦で構成されていた。


バルバラス帝国の戦列艦には大砲数や船体の大きさで分けた序列が存在しており上から順に、


1等戦列艦 100門〜それ以上


2等戦列艦 80門


3等戦列艦 50門


4等戦列艦 30門


と、なっていた。


「貴様らの艦隊程度でも血祭りに上げれば多少は俺の昇進も早まるだろう。まぁ精々足掻いてみせろよ。」


メリル駐留艦隊司令は戦う前から既に勝った気でいた。

彼は部下へ命じる、


「全艦、戦闘に備えろ!無礼な蛮族へ帝国の強さを理解させてやる!」







王国第5艦隊


「仕掛けてくるようだな...」


帝国の戦列艦隊で慌ただしく戦闘準備を整える乗組員の姿を確認したレオルドは呟く。


帝国の戦列艦隊は、例え地方隊が相手であったとしてもその戦力差は歴然であった。


「王族専用騎だけでも、どうにか発進できないか?」


レオルドは横にいた副官へ話す、


「ここまで無休憩で飛んできたため、まだ王国まで飛ぶほどスタミナは回復していないようです。」


「そうか...」


彼はなんとかリーア姫だけでも逃そうと考えるが、それも不可能らしい。


そうしている間にも帝国艦隊は戦闘準備を整えていた。


「仕方ない、こちらも全艦へ戦闘準備を下令せよ。竜母船は後ろに下がらせろ。中小艦艇は中列へ移動し機を見て各自斬り込みを行え。大型艦艇は盾となり此方の大砲の射程圏内まで突き進む!」


レオルドは部下へ命じると、即座に艦隊は陣形を整え始めた。





こうして、

バルバラス帝国とレイネティア王国の初海戦は、ここに幕を開いた。




最初に射撃したのは帝国の戦列艦隊であり、大砲の最大射程である2kmで射撃を開始した。


王国艦隊の周囲に多数の水柱が上がる。


「くっ、やはり射程でも負けているようだな。全艦!怯まずに敵へ突撃せよ!」


レオルドはそう命じると、彼の座乗する大型ガレオン船が中央とし、5隻の大型ガレオン船を先頭にして王国艦隊は突撃を開始した。

彼らは、徐々にその船速を上げて、大量の砲弾が飛来する海を、突き進んでいく。



『ドガーン!!』


「ん!?」


レオルドが横へ視線を向けると、並んで突撃していた大型ガレオン船の内1隻が、早くも敵弾を食い、みるみる内に船速を衰えていった。


続けて背後に眼を向けると、後方にも多数の着弾があり、中列を進んでいた中小艦にも徐々に被害が増加していた。


「くそ!これでは接近すら出来ずに全滅してしまうではないか」


レオルドは考える。

何か状況を打破する名案が無いか、どうにか敵にこちらの刃を届かせれないか、

だが、現実は無情にも彼に時間の猶予すら与へはしなかった。


敵の戦列艦隊は、今まで前列8隻で砲撃していたのが、更に後列の4隻も戦列へ加わった事で一層その砲火を増していた。


レオルドは敵弾が水面に着弾し、その水飛沫を艦上で浴びるなか、ただの一指揮官である自分の采配では抗えない敵の強大さに、ただ無力感に打ちひしがれていた。


「ここまでなのか...」





そう思っていた時であった。




敵の戦列艦から放たれていた砲撃が突然ピタリと止んだのである。


「何事だ?」


疑問を口に出すなか、


『左方向に正体不明船出現!』


見張りの声にハッとなり、その方向に目線を向けた。

そこには、いつの間にか発生していた霧の中から、

灰色に塗られた、全長150m以上はあるほどの船が姿を表していたのである。


「な、なんだあの巨船は...」


王国のガレオン船どころか、帝国の戦列艦さえ軽く凌駕するその大きさは、その場の全員を驚かしていた。


「ま、まさか。見た事は無かったが、あれが"超大国"の"戦艦"という物なのか?それに鋼鉄で出来ているではないか...」


そう呟いていたレオルドだったが、

更に後方からも先ほどの船より一回り小柄ながらも、王国からするとそれでも大きな船が2隻ほど出現した。


一体あれほどの船が何隻いるんだと、誰もが思っていたその時であった。


霧の中に一際巨大な怪物の様な影が薄っすらと見え始め、徐々に霧を切り裂くようにして顕となっていった一隻の船、その大きさのあまり帝国軍も王国軍も皆恐れ慄くこととなった。


「あ、あれは...」


そこには、最初に目にした巨船よりも倍近い大きさをした、文字通りの"怪物"の様な超巨大鋼鉄船が一隻、霧の中から姿を表していたのである。


「なんて...デカさだ。」


まるで城が海の上に浮かび移動していると錯覚する程の規格外な大きさの船に、

レオルドただ呆気にとられるだけであった。

王国艦隊も帝国艦隊も、巨大船を前にして動く事が出来ないでいた。






謎の巨船達が姿を表してから数分が経過した。


結局、全部で11隻にも及ぶ数で現れた謎の巨船達は、こちらと一定の距離を保ちつつ、ただ沈黙していた。

突如現れた巨船に驚いたためか、帝国戦列艦隊も沈黙しており、その甲板上では乗組員たちが騒いでいるのが見てとれた。

かく言う此方も、突然の巨船を前にして皆騒ぎ立てており、混乱しているのはお互い様であった。


「とりあえず、今のうちに海上に浮かんでいる味方を救助しろ。」


そう指示をだしたレオルドは、この海域を支配している静寂から脱するため、頭を動かし始めた。


(あの巨船達とどうにか接触出来ないものか、いやそもそもあれは何処の国の船なのだ...)


疑問に思った彼は、巨船に掲げられていた旗へと目を向けた。

それは中心から四方に向けて16条の閃光が伸びたデザインの旗であり、まるで太陽を思わせるような見事な旗であった。

レオルドの記憶には、これに準ずるような旗は世界に存在していなかった。


「くそっ、正体がまるで掴めない。」


彼が悩んでいたその時、

超巨大船から突然、此方に向けて光が放たれたのである。


「うおっ!」


王国艦隊の甲板要員は皆、突然放たれた光を一種の攻撃魔法と勘違いし、咄嗟に身を伏せていた。

だが、特に何も起こらない。


レオルドが恐る恐る顔を上げると、光は規則的に点滅を繰り返しており、何かしらの意思を伝えているのかと考えたその時、


帝国の戦列艦隊が突如船の回頭を始め、こちらに向けていた大砲を巨船へと向け出したのである。


「おい、まさか撃つつもりか。正気なのか奴ら?」


おそらく、先程の光を帝国軍は攻撃魔法の一種と判断したのだろう。

だが、側から見ると、どうしても勝ち目は無いように思えてならなかった。


『ドォーーン』『ドォーーン』


静寂の海に連続して爆音が鳴り響く。

帝国の戦列艦隊はとうとう撃ってしまった。

戦列艦隊から放たれた砲弾は、巨船たちの先頭を進んでいた鋼鉄船へ着弾した。


巨大な船体も覆い隠す程の水柱と爆炎に包まれた巨大鋼鉄船だったが、しばらくして煙が晴れると、何事もなかった様に水上に浮かぶ巨船の姿があった。


『嘘だ...あれだけ喰らって浮かんでられるなんて』


誰かが呟く。


するとまもなく、巨船たちもその巨大な船体に積んだ回転式の大砲を帝国艦隊へと向け始めた。

中でも、中央に位置する一際規格外の超巨大船は、その船体に積んだ巨砲を重々しく回転させていた。あんな物を喰らったらひとたまりもない事など皆本能で理解できた。


「反撃するつもりか...」


誰もが、巨船達の姿に眼を奪われていたその時、




『ドボォガッッッーーーーンンンン!!!!』




それは、間近で見た物にとって、まるで天からの雷と形容出来る程の爆音と衝撃であったという。

超巨大船の大砲から放たれたあり得ない程の砲音と、そこから噴き出た砲煙の迫力に、

王国艦隊の誰もが、あまりの衝撃に尻餅をつくなか、

巨船から放たれた砲弾の数々は一瞬で、帝国艦隊へと吸い込まれて行った。






それはもう、一方的過ぎる公開処刑の様なものであった。

今まで格上だと思っていた帝国艦隊が、加速度的にその数を減らす光景を眺めていた王国艦隊は、ただ恐怖に包まれる他なかった。


それからものの1分で帝国艦隊は跡形も無くなり、次の標的は自分達になったのだと、怯えだすものが後を絶たなかった。


既に兵士たちは恐怖しており、

戦う以前に負けたも同然であるとレオルドは理解した。


「...白旗を掲げよ。.....」


「し、白旗でございますか?閣下、」


「あぁ、早く掲げるのだ。」


もし、戦闘にでもなったら何の意味も無く、艦隊ごと虐殺される恐れから、

レオルドは自身の部下とリーア姫の安全だけでも確保するため、降伏を決意した。


その後まもなく艦隊全体に白旗が掲げられ、王国艦隊は正体も分からない巨大船相手にその身を預け

たのである。




しばらくして、巨船達の旗艦と思われる船から小型の高速船が分離し、こちらへと接近してきたのである。


おそらくは、向こうの使節か何かだと察した彼は部下に対して、小型船を自身の旗艦へ案内するように指示を出した。


こちらなりの手旗信号で何とか意図が伝わったのか、小型船は真っ直ぐにレオルドの元へと向かってきた。


彼は艦長たるを示す自身の軍帽を被り直すと、出迎えの準備を整えた。






ここで異世界側の視点は一旦終わりとなります。

大変長い前置きだったと思いますが、次の話から展開が進みます。

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