第六話 向こうの事情②
「マズイな、このままでは追いつかれる。」
護衛隊長ガルズは焦りを見せる。
あれからしばらく海上を飛行していたリーア姫一行であったが、
追撃してきたバルバラス帝国竜騎士団に発見され、距離を徐々に詰められていた。
サドルの後ろにキャビンを備えた王族専用ワイバーンは速度がどうしても落ちてしまうため、護衛の近衛隊ワイバーンは王族専用騎の速度に合わせて飛行していた。
バルバラス帝国・竜騎士団
「よし!ようやく追いつけてきたな。」
竜騎士団を率いる隊長の目線の先には、目標であるレイネティア王族専用騎と、その周囲を取り囲みながら飛行する護衛騎の姿が見えていた。
「いいか?あの豪華な青い箱の中身が俺たちの目標だ、それ以外の周りに貼り付いてる護衛は全て落とせ。」
『了解!』
「隊長ーぉ、あれって確かレイネティアの王族専用騎じゃないですっけ?ってことはまさか中身って...」
「おい、いいか?察しても余計な散策はしない方が身のためだ。中身がなんであれ、俺たちの任務はあれを奪取する。それだけだ、いいな?」
「は、はい...」
帝国兵たちは中身の正体に大方の察しは付いていたものの、自分達ごときが首を突っ込むべきものでは無いということも理解していた。
「クソッ、艦隊はまだなのか。」
「只今、バルバラスの領海へ入ったとの事です。」
「まだまだ先だな...仕方ない。」
ガルズは覚悟を決め、部下へ命じる。
「我々はここで時間を稼ぐ!姫様と王国の盾として、責務を果たすぞ!」
『はっ!!!』
そう言うと、ガルズは王族専用騎の手綱を握る近衛兵に対して命ずる。
「この先に味方艦隊が向かって来ている。おそらく竜母船もいるだろうから、そこへ着艦し王国へ姫様を送り届けるんだ。頼んだぞ。」
「ご武運を祈ります...」
そう言いガルズはワイバーンを反転させた。
その会話を側から聞いていたリーア姫は慌てて窓からガルズを呼び止めようとした、
「そんな!嫌よガルズ、一緒に来てっ!」
「心配ありません姫様、敵を足止めしたら次期に追いつきます。」
そう言い残すと、ガルズは部下と共に敵を見据えながら姫に対し内心で謝罪した。
(申し訳ありません姫様、もう生きてお会いする事は叶いそうにありません。)
「ん?」
追撃していた帝国竜騎士団隊長は目標から6騎の護衛ワイバーンが分離した事に気がついた。
「どうやら盾になるつもりらしいな。」
「どうします隊長?無視して目標を追いますか?」
「いや、連中覚悟を決めているだろう。放っておいたら俺たちが背中を撃たれる羽目になる。相手してやろう。」
「ですが、目標に逃げられるのでは?」
「ならさっさとアイツらを叩き落として追わなきゃならんな」
隊長はそう言うと部下に対し、
「全騎!戦闘体制へ移行しろ!敵はレイネティアの近衛隊だ!油断するなよ」
『了解!』
同時刻 海上
レイネティア王国第5艦隊
一方で、リーア姫の近衛隊からの魔道通信機による応援要請を受けて急行していた王国海軍の第5艦隊はリーア姫搭乗騎を救出するべく、バルバラス帝国の領海へと足を踏み入れていた。
この艦隊の指揮をとるのは、
王国海軍第5艦隊 ライロス・レオルド提督であった。
「帝国の奴等め、まさか一国の姫様相手に騙し打ちを働くとは、なんと野蛮な輩だ。姫様の騎の位置は掴めているか?」
「はい。先ほどの魔信からの位置情報から考えると、そろそろ姫様の騎は見えて来るはずです。」
「よし、竜母船には王族専用騎の着艦に備えるよう命令せよ。それとここは帝国の領海だからな、いつ発見されても可笑しくはない。戦闘の備えもしておくよう全艦へ伝えろ。」
「はっ!」
命令を下したレオルドは自身の艦隊を振り返る。
彼の艦隊の陣容は、
10門の大砲を装備した旗艦を含む、王国では大型の部類であるガレオン船が5隻。
その他はバリスタで武装した中型や小型のガレオン船と、武装を積んでいない箱型の形をした竜母船を含めて30隻であった。
バルバラス帝国に比べて国力や技術力で劣る王国は、艦船の性能においても決定的な力の差が存在しており、レオルドは海戦になった場合には勝ち目が無いことを内心で重々理解していた。
(もし帝国とこのまま全面戦争となれば、果たして王国に勝期は残されているのだろうか。
もしかすると、もう我が国の運命は決まってしまったのか…)
レオルドの頭には、少し前に帝国より届いた屈辱的な要求が浮かんでいた。それを受け入れれば王国は帝国の奴隷に成り下がるのと同然であった。
だが、もし戦争へと発展し敗戦でもしてしまえば、あれは現実になるかも知らない。
レオルドはこれからの王国の行く末を考えて、一人
重苦しい心境になっていた。
「提督?お顔が良くありませんが、如何致しましたか?」
「ん、いや。なんでもない、大丈夫だから気にしないでくれ。」
(いかんな、提督である私がこんなことを。まずは、何より姫様をお救いせねば。)
一瞬頭に浮かんだ暗い考えをレオルドは振り払い、目の前の使命に全力を尽くす事を決めた。
すると、その時
『東方向、上空に騎影確認!あれは....王族専用騎と思われます!!』
上空を監視していた見張り員より報告が上がる。
全員が固唾を飲み、空を見上げると確かに一騎の青く装飾された大きめなワイバーンが徐々に此方へ向かって来ているのが確認できた。
「無事でおられたか!直ちに竜母船へと誘導して差し上げろ。」
『は!』
その後、直ちに竜母船への誘導が行われ、王族専用騎は竜母へと降り立った。
搭乗していたリーア姫の無事が確認されたため、レオルドは胸を撫で下ろした。
だが、そこへ『報告!本艦正面方向にバルバラス帝国海軍と思われる12の艦影を確認!』
「クソッ、このタイミングで来たか!」
部下からの報告に顔色を変えてレオルドは海を睨んだ。そこには確かに12隻の艦影が確認できた。
「ただちに艦隊は針路を反転せよ。全速力で敵を巻くぞ!」
レオルドの命令の元、姫を保護した王国艦隊は来た道を戻り始めた。
バルバラス帝国・メリル駐留艦隊
2等戦列艦 旗艦・パルス
「我が帝国の領海をたかが、レイネティアごときが侵犯してくるとはな。明日はきっと大嵐にでもなりそうだ。」
赤色の豪華な装飾が施された戦列艦の甲板で、この戦列艦パルス艦長兼艦隊司令である男は呟く。
この時、丁度付近の海域で訓練を行っていたメリル駐留艦隊はレイネティア王国の艦隊が領海へ侵入しているのを偶然発見すると、
ただちに現場へと急行してきたのである。
「司令、どうやらレイネティア艦隊は逃亡を図っている様子です。」
「なんだと?」
部下の声に反応すると、司令は単眼鏡でレイネティア艦隊を見据えた。
「帝国の領海を犯しておきながら逃げ切れると思っているのか連中は。これより艦隊は最高速力で奴等を追うぞ!停船に従わない場合は容赦なく沈める!」
この時の彼らは偶然この場に居合わせていただけであり、まさか自分達が追っている艦隊に、レイネティア第一王女が乗っているとは夢にも考えていなかった。
再度、リーア姫のもとには危機が差し迫っていた。




