第十八話 夜襲
久しぶりの投稿です。
覚えていますでしょうか?
リアルが少し忙しく、ほとんど放置していましたが、少し余裕が出来てきたので細々と投稿を再開します。
帝都からの命令が届いた翌日。
ヴァイアス率いる帝国軍は先鋒部隊の生き残りなどを含めた5万を城郭都市アデスとその周辺の防衛に残して、3万の戦力で出発したのだった。
彼らの目指す場所は交易都市アスターであり、その道中で待ち構えているであろう王国軍と謎の軍との決戦を覚悟していた。
大量の軍勢がひしめく様にして狭い林道を進行していた。バルバラス軍の隊列からは各所から兵士の話声が漏れ聞こえていた。
「だ、大丈夫なのか...。」
「敵は超大国の軍って噂があるぞ。」
「おい、落ち着け。これだけの軍勢が居れば大丈夫だ。」
「我が帝国軍が本気になれば超大国も恐るに足らないだろ。」
主に日本軍と戦ってトラウマを抱いた先鋒部隊の生き残りから語られた証言の数々により、後続部隊の間でも不安が広がっていたのである。
不安を口にして怯える者を他の兵士が宥める光景が各所で見られた。
「士気があまり芳しく無いな。」
ヴァイアスが馬上から後ろを歩く兵達の様子を見ながら部下に呟いた。
「えぇ、先鋒部隊の件で兵達が酷く怯えております。一体、敵はどの様な兵器を使ったんでしょうか....」
「結局国籍も掴めず仕舞いだが、証言を信じるならば、敵は大砲などの我が軍にも匹敵するか、それ以上の最新兵器を保有している近代軍だ。どこの軍かは知らんが確実に手強い。このまま行けば負けるだろうな。」
「帝国軍が...負ける...。」
精鋭バルバラス帝国陸軍の司令官から出た"負ける"の言葉に、極めて部下は現実を疑った。
これまでバルバラス帝国軍はベルジア大陸において正に無敵であり、どれだけ敵が小賢しい戦法を使って来ようが圧倒的な物量と技術力の差でねじ伏せて来たのである。
その帝国軍が本気で戦って勝てない相手など超大国ぐらいの物であることが常識であり、いきなり湧いて出た帝国よりも強力な敵の存在に、彼等はただ理不尽を感じる他無かった。
「何か策は有るのですか?」
「無論、ルイスの二の舞は御免だ。我々は夜襲で敵に攻撃を加える。」
「夜襲ですか?ですがそれでは大砲の精度は著しく低下します。」
「それは敵も同じだろう。闇夜に紛れて有る程度まで接近出来れば、此方にもまだ勝機はある筈だ。」
「それはつまり、接近戦をするおつもりですか…。」
部下はヴァイアスの考えを察し、露骨に苦い表情を見せた。
「致し方あるまい...。数は此方が上だ、物量で押し潰す。」
ヴァイアスは自分で言っていて、とても屈辱的な戦い方であると感じていた。
まるで彼自身が今までの戦争で相手にしてきた格下の蛮族達と同じ戦い方を強いられている状況であると。
彼は内心でどうしようも無い苛立ちを積もらせていた。
日が沈み、辺りが暗闇に包まれた頃。
「あれか...。」
ヴァイアス率いる3万の帝国軍は、ソーヤ平原手前の森林で歩みを止めていた。
草木に身を屈めながら彼等が見据えるのは、遠くの平原の中央部に展開している大規模な敵陣地であった。
「随分と奇妙な作りの陣地だな、それに妙に明るい。」
視線の先の陣地からは夜であるにも関わらず、眩しいほどの光が周囲一帯を灯していた。
未だランプが主流の彼等に電気の光などと分かる筈も無かった。
ヴァイアスは振り返り、後ろに控えている兵達へ再度説明する。
「いいか?ここから先は遮蔽物がなにも無い。背を低くし茂みに隠れながらある程度近づいたら突撃だ…。いいな?」
兵達の表情は緊張感に包まれていた。
ヴァイアスの耳には、兵達が固唾を飲み込む音が絶え間なく聞こえていた。
彼らは覚悟を決める。
「よし......。行くz...」
ヴァイアスが言いかけたその時だった。
帝国軍の潜む森林の辺り一面が光に照らされる。
『うぉっ!!!』
全員が驚いて辺りを見渡す。
「な、何事だ!」
「空です!!空中に光る何かが!!」
横に居た部下が空を指差して訴えた。
そこには、真っ暗な夜空に輝く光の球弾が辺りを照らしていた。
「あ、あれは一体.....はっ!」
ヴァイアスはふと気がつき、辺りを見渡す。
闇夜に隠れていた彼ら帝国軍の姿が夜空から照らされる光によって完全に露わになっていた。
「これは!!不味い!!」
『ドオーーン!!!!!』
彼が叫ぶと同時にすぐ近くで爆発が鳴り響く。
密集して隠れていた帝国兵が爆発四散する。
「な!!何が起きた!」
「司令!危ないっっ!!...ぐぁっあ!!」
『ダダダダダダ!!!!』
爆発が起きたすぐ後に、戸惑っている帝国軍に向けて部隊の後方から大量の銃弾が飛んでくる。
「てっ、敵の攻撃だ!!」
「敵は何処だ?!」
「ぐぁっあ!」
「隠れろ!」
突然浴びせられる猛烈な銃撃の嵐に、多くの帝国兵たちが混乱した。
「クソッ、各自応戦せよ!魔導師隊は防御魔法詠唱を開始せよ!!」
ヴァイアスは必死に状況把握に努めながら指示を飛ばす。
混乱していた多数の兵士がハッとなり、各自動こうとするものの、未だ多くの兵士が訳もわからず攻撃に晒されている。
だがそんな中でも、一部の練度の高い部隊は攻撃に怯む事なく、冷静に隊列を整えて反撃を開始していた。
敵の姿が見えないため、銃声の聞こえる方向へ何となくの感覚で射撃する。
「狙えっ!!撃てーっっ!!!」
『パーン!』『パーン!』『パーン!』
士官の掛け声に応じて、帝国戦列歩兵による一斉射撃が放たれる。突然の攻撃にも怯まずに隊列を整えて反撃が行えたのは、正に連戦連勝の帝国軍の練度を示す統率だった。
だが、無情にも戦列歩兵隊の銃声をかき消す勢いで、すぐに倍以上の連続した銃撃が仕返しとばかりに放たれる。
『ダダダダダダダダ!!!!』
「ぐぁ!!」
「助けてくれ!!」
そこに再度大規模な爆発が帝国軍を襲った。
『ドカーーーン!!!』『ドカーーーン!!!』
各所で数十人単位の兵士が吹き飛ぶ。
「一体、何と戦っているのだ!!」
敵の姿が見えない中、ヴァイアスは自らに浴びせられる圧倒的な攻撃に呆然としていた。
その頃、
平原の日本軍陣地にて、山下大将とエレーネ等は、遠くの森林で今行われている戦闘の一部始終を眺めていた。
「よし。この調子で削っていくぞ。」
「こ、これは.....」
山下大将ら日本軍幹部が平然と眺める中、エレーネら王国側は青ざめた表情で戦闘を観ていた。
この地の地形に詳しい王国軍が日本軍との連携の元で各所に監視を配置していたため、割と早期に行軍中の帝国軍部隊は発見されていた。
その報告を元にして、日本軍は森林に別働部隊を展開させ、陣地からの支援砲撃の準備も整えていたのである。
運良く帝国軍が密集した絶好のタイミングで攻撃を仕掛けたため、帝国軍は前と後から挟まれる形で攻撃に晒されていた。
彼ら王国軍の視線の先では、日本軍将校から説明された夜空に光輝く「照明弾」によって完全に姿が顕になった帝国軍が、日本軍の砲兵陣地から放たれる無数の砲弾によって、森林ごと無惨に吹き飛ばされる姿があった。
あれだけ脅威に感じていたバルバラスの大砲ですら届かない長距離からの一方的な砲撃は、今まで剣や弓で戦ってきた彼等に対して無力感と畏怖を感じさせるには十分過ぎる光景であった。
そんな彼等の心情を横目に、砲兵陣地からは絶え間の無い砲音が鳴り響いていた。
山下は双眼鏡を覗きながら側の参謀に訊ねる。
「遊撃部隊の方は大丈夫か?」
「は。上手く敵軍後方に回り込んで攻撃中との事です。」
「今の所は順調だな。」
山下は何処か含みの有る様子で呟く。
それを感じ取った参謀が訊ねる。
「何か懸念でもあるのですか?」
「いや、なにせ辻だからな。また無茶な事をしでかす様な気がしてならん。」
「あぁ、その事ですか。確かに辻大佐は無茶苦茶ですからね。」
その頃、当の本人はと言うと....
「まさか向こうから夜襲を仕掛けて来るとは思わなんだ。だがこれは絶好の好機である!」
バルバラス軍の後方から現在攻撃を仕掛けている遊撃部隊を率いる辻政信は、部下の静止を振り払って前線で部隊の指揮をしていた。
「参謀殿!流石にここは危険であります!どうか下がってください。」
銃声が鳴り響く中で必死に部下は辻を説得する。
「何を言う!あの様な骨董品の兵器に怯える必要など無い!・・・おい!そこの貴様!もっと腰を据えて撃たんか!」
辻は威勢よく答えると、今度は兵士に直接指導をし始めるのであった。
その一方、あり得ない程の敵の火力を前に釘付けにされていたバルバラス兵達は反撃もままならず、ただ草木に伏せて隠れる事しか出来ないでいた。
だがそんなバルバラス兵を嘲笑うかの様に、草木ごと吹き飛ばす勢いで投射される砲撃の嵐によって、次々と帝国兵たちは数を減らす。
「なんて火力だ…」
ヴァイアスは目の前で斃れていく帝国兵達を見て立ち尽くす。
前方から放たれる砲撃と、後方から浴びせられる銃撃により、逃げ道を絶たれていた帝国軍は身動きが取れない状況で数を減らしていた。
「司令!ご指示を!」
「くっ!・・・突撃せよ!接近戦に持ち込めば敵は同士討ちを恐れて、砲撃も止むはずだ!!」
「と、突撃だ!!」
既に混乱状態の兵達は、発せられた突撃命令によって我武者羅に敵の居るであろう方向へとひた走り始めた。
「?なんだ、突撃してきたな。」
辻は隠れもせずに堂々と双眼鏡で敵を見据えていた。
見れば、未だ大量に残る敵軍が一斉に突撃を開始していた。
「存外肝が据わっているようだな。未だ数は向こうの方が多い、一兵たりとも接近させるな!」
「は!」
機関銃を放つ兵士の横で辻は大声で指示を出していた。先程まで彼の心配をしていた兵士は無駄だと悟ったのか後ろに控えているが、時々放たれる敵の銃弾が辻の近くを掠るため、まるで祈る様な表情で辻を見守っていた。
バルバラス軍のヤケクソの様な突撃に対して日本軍の砲火は、より一層激しく投射される。
「何をしている!!防御魔法を展開して味方を援護しろ!!」
ヴァイアスは怯んでいる魔導師隊に喝を飛ばす。
魔導師隊たちは慌てて我に帰り、体制を整えた。
各所でも突き進む歩兵隊を援護しようと、生き残った魔導師達がそれぞれに防御魔法を展開させ、バルバラス軍の周囲には、ほのかに光る壁が形成される。
だが一度に大量の銃撃による攻撃を想定していない防御魔法は、術者からの魔力供給よりも早い速度与えられ続ける銃撃により、わずか20発前後の被弾で砕け散っていた。
「なんて連射だ!魔導師隊の防御魔法がこうも簡単に破れるとは!」
魔法も通用しない敵を相手に、帝国軍の戦列歩兵は雄叫びにも悲鳴にも聴こえる様な声をあげながら、生身の体で銃撃の中を走り続ける。
少しでも敵にこちらの攻撃が届けば、敵の攻撃力も弱まり、そこからなし崩し的に物量で押し通せるという希望的観測にヴァイアスは賭けていた。
だが、彼が知らなかったのは、目の前で対峙している敵がフィリピン戦や日中戦争という悲惨な激戦を体験した生き残りの猛者達で編成されていたという事である。
圧倒的な技術格差に物を言わせた勝ち戦しか経験の無い彼らと、地獄の地上戦を経験した日本軍とでは比較にならなかった。
やっとの思いで接近出来たごく僅かのバルバラス兵は、接近戦に持ち込んだつもりが、逆に銃剣で突き倒されるなど、殆ど日本軍に被害を与える事が出来ないでいた。
一向に弱まる気配の無い攻撃の中、ヴァイアスはなす術無く呆然としていた。
「司令っ!このままではっ!」
「……。」
部下がすがるような表情でヴァイアスに指示を促す。
まるで弱まる事のない銃撃によって次々に斃れる帝国兵達の光景がヴァイアスの脳裏に強く刻まれていた。
「……降伏だ。これ以上の戦闘は最早無意味だ。」
ヴァイアスは搾り出す様な声で命令を発したのだった。
程なくして、バルバラス軍から白旗が掲げられた事を認めた日本軍は射撃を停止し、各自バルバラス兵の武装解除を行っていった。
この日行われた夜戦において、バルバラス軍3万の内、戦死又は行方不明が1万人。司令官であるヴァイアス含め2万人が捕虜となった。
一方で、日本側の損害は戦死58名、負傷214名と決して少なくはないものの、バルバラス軍の被害からすると、ごく僅かな損害に留まった。
後日エレーネ等、戦闘の一部始終を観ていた王国軍から、王都に向けて報告書が送られた。
それに目を通した王国首脳部は、想像以上の日本軍の戦闘方法に極めて畏敬の念を抱く事になる。




