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第十七話 敵の正体




城郭都市アデス




王国軍の一大拠点であった城郭都市アデスも、今現在はバルバラス軍の前線基地として利用されていた。



戦闘により至る所が廃墟と化した都市アデスの中で、比較的健在な民家の一つに攻略軍後続部隊の前線司令部が設置されていた。


司令部の中では攻略軍後続の6万を率いるヴァイアス司令官が部下と討論していた。



「司令!今すぐにでも攻勢を開始して仇を取るべきです!」


「その通りです!我々帝国軍を苔にした王国を打ち倒しましょうぞ!!」


血気盛んな士官達の言は、椅子に座り腕組みをしている一人の中年の将に向けられていた。

彼、後続部隊司令官のヴァイアスはいい加減疲れたと言う表情で反論する。



「何度も言うが、5万の帝国兵の内2万が討ち取られたか行方不明となった。その上指揮官のルイスも戦死し、精霊兵も撃破され、その召喚者の魔導師も行方不明になっている。

これほどの被害を被ったのは前代未聞だ。

無闇に攻撃する訳にはいかん。」


「で、ですが!このまま引き下がる事など出来ましょうか?!」


「何も逃げるとは言っていない。敵の正体を掴んでから攻撃すると言っているのだ。

ルイスは傲慢な奴だったが、王国軍程度にやられる奴ではなかった。

何か異常事態が発生したに違いない。」


「例の大砲を搭載した鋼鉄の馬車ですか?

ですが、王国にその様な兵器が作れる筈がありません。あの話はあまりにも無茶苦茶です。

幻想魔法の類でも掛けられたのでは?」



日本軍戦車隊と交戦し、結果敗走し散り散りとなった帝国軍先鋒部隊の5万の内2万が戦死か行方不明、3万程がアデスの後続部隊に合流していた。

だが、生き残りから語られた情報は後続部隊からは荒唐無稽と判断されていた。



「その様な幻想魔法など帝国魔導師でも不可能だ。だからこそ、敵の正体は確認しなければならない。

もしかすると他国軍の介入も視野に入れる必要が有るかもしれん。」


「ま、まさか、超大国が介入していると...」


「分からん。とりあえずは偵察部隊を編成し敵を探る。その後十分な対策を講じた上での攻撃だ。いいな?」


「了解しました…。」





士官達が去った後の部屋で一人、ヴァイアスはため息をつく。


「全く。最近の士官は理屈で納得させるのも一苦労だな。

・・・それにしても、大砲を搭載した鋼鉄の馬車か。

仮に本当だったとして、もし交戦でもしたら勝ち目は無さそうだ。」


彼は生き残りの兵士の証言が心に引っ掛かるのだった。









レイネティア王国・ソーヤ平原



あれから平原に野戦陣地を構築した日本軍は、再度侵攻してくるであろうバルバラス軍に対しての防衛計画を立てていた。


簡易的に作られた天幕の中で、日本側司令官の山下大将と参謀が数人に、王国第2軍団団長に新たに就任したエレーネを交えた会議が開かれていた。



「バルバラス国内からこの地までは相当な距離があります。恐らく敵は航続距離の問題で、ここまでワイバーンを飛ばす事は出来ないでしょう。」


エレーネが地図を見ながら山下等に説明する。


「では、我々はここで防御を固めて飛行場が完成するまでの間、敵を撃退すれば良いか。」


「そうですね、飛行場が完成し制空権が取れた時点で城郭都市アデスの奪還を計画しましょう。」



現在日本軍はレイネティア国内に急ピッチで飛行場の建設作業を続けていた。

近世ほどの文明レベルの国であるにもかかわらず、ワイバーンという航空戦力が敵に存在する以上、迂闊に攻撃は出来ないと言うのが現状であり、

そのため、いち早く飛行場を建設し制空権を確保する事が最重要課題であった。



それまでの間は敵の侵攻を食い止めるという流れで会議は終盤となっていたその時、

一人の日本軍参謀将校が天幕に勢い良く入ってきた。

天幕を潜るなり、その人物はテーブルを叩いて演説がかった声で話始める。


「防御を固めるですと?とんでもない。今この勢いで攻勢に出ないでどうしようと言うのです!」


いきなり現れた人物にエレーネや王国側は困惑し、山下を始めた日本側は頭を抱えていた。

それを他所に大声で話している人物は、陸軍参謀大佐の辻政信であった。


「いきなり来てその態度はなんだ。会議に遅れて何処に居たんだ。」


温厚な山下大将が厳しい表情で言う。


「兵達と共に汗水流して陣地を設営していただけであります。

それより、敵が多くの敗残兵を抱え込み混乱している今!攻撃を仕掛ければいとも容易く撃砕が可能であります!」


悪びれの表情も無く自論を訴える辻に山下は呆れながら説明する。


「敵に航空戦力が有る以上は迂闊に近づくべきではない。飛行場の建設を待ってから攻勢を開始する。」


「暗闇に紛れた夜襲を仕掛ければワイバーンなどと言う生物などまったく恐るに足らないのであります。

我が軍の機動力と火力を持ってすれば近世の軍など簡単に瓦解できるのです。」


「一参謀がこれ以上作戦に口出しはするな。これは決定事項だ。」



山下大将がそう言うと辻大佐は反論を辞めて引き下り天幕を後にした。



「ヤマシタ閣下、あのお方は確か...。」


エレーネが戸惑った表情で聞いてきた。


「辻政信という参謀の一人です。作戦によく口出しする者でして、困ったものです。」







天幕を一人後にした辻は不満を呟く。


「山下閣下は我が軍がマレーで上げた戦果をお忘れなのか?マレーの虎と言われた人間が随分弱気になった。」


彼はかつて山下大将と共にマレー作戦に参加しており、その時に上げた戦果から『作戦の神様』と異名を付けられた人物であった。

だが、参謀本部の人間と言う肩書きを利用して独断専行を働く人物でもあったため、山下大将ら今回の派遣部隊将官からは煙たがれる存在でもあった。



「さてと、もう一汗流すか。」


辻は気分転換もかねて、兵士らが陣地構築作業をする現場へと足を運んだ。


「さ、参謀殿!!貴様ら!参謀殿に敬礼っ!」


突然現れた参謀で大佐階級の辻に兵達は驚き慌てて敬礼する。


「よろしい!どうだ?作業は順調か?」


「はっ、予定通りに進んでおります。」


「それは何より。では私も諸君らと共に汗水流そうではないか!」


そう言うと辻は自らスコップを手に取り、作業に参加し始めた。


辻が前線や現場の兵の元に姿を見せるのは日常茶飯事であり、それ故に現場の兵士たちからの信頼は厚かった。


「ふぅ、まだ4月だというのにここは暑いな。・・・ん?今あそこで何か光ったか?いや、気のせいか。」



辻の目線の先にある遠くの森林の茂みから僅かな光が一瞬見えたように思えた。









バルバラス軍・城郭都市アデス


「・・・以上が偵察部隊より届いた情報です。」


「王国軍とは別の謎集団か...。」


ヴァイアスの手元には偵察隊の報告書が纏められていた。


「こんな格好の軍は見た事が無い。それに黄色人種のみの軍など世界に片手で数える程度だぞ。」


「やはり正体は王国軍なのでは?」


「だが、あれだけの装備を備えるのは王国では無理だ。どこかの国が支援しているのかも。」


「本当に超大国が参戦しているのか...。」


幹部らが口々に疑問を呟く中、

ヴァイアスが発言する。


「兎も角、敵は我が軍のように全員に銃を待たせて大砲も装備した近代軍だと言う事だ。おまけに我が軍ですら持っていない謎の兵器も所有している。」


「それは・・・とても厄介な敵ですな...。」


「航空支援があれば楽に戦えるのだがな...。」



幹部達は突如出現した謎の軍の存在に頭を悩ます。

おまけに本国からの竜騎士団の航続距離もアスターまでは不足している今、自分達だけで対抗するしか無い状況であった。

彼等が対抗策を考えていたその時、





『失礼します!帝都より第一命令伝が届いております。』


「命令伝だと?寄越せ。」


入って来た連絡士官により手渡された文書にはこう書かれていた。



・『これ以上の作戦の遅滞は許容出来ない。攻略軍はその総力を挙げて直ちに交易都市アスターへ攻撃を開始せよ。』



「?!クソッ、何故このタイミングでこんな物が届くんだ!.....まさか...。」


ヴァイアスは執拗に攻勢を進言していた若い士官達を思い返す。


「あの中に督戦隊の連中が紛れ込んでいたのか...。」


「司令...。帝都からの命令伝は皇帝陛下のご意志でもあります。従わなければ最悪...。」


「分かっている。.....仕方ない。明日までに出撃準備を整えろ。」


「分かりました。」


幹部たちは慌ただしく部屋を退出する。




「くっ...このままではルイスの二の舞になってしまう...。」



ヴァイアスは必死に作戦を考えるのだった。






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― 新着の感想 ―
陸大の成績とかみても辻は天才だったんだと思う。問題は辻をおさえる人がいなかったこと
前線の状況を知らずに無茶な命令を出す上官と、自身の失墜を恐れて、敗北を上に報告できない前線指揮官……というわけですね。
楽しみだな〜機関銃とかにビビり散らかすのが 転移ものの醍醐味だからね〜 ゆっくりでいいので頑張ってください
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