第十六話 戦闘
バルバラス帝国軍
「ん?なんだあれは??」
ルイスは異変に気がつく。
目の前のレイネティア軍の遥か後方から土煙と共に何かが高速で向かってきていた。
「敵の騎馬隊か?」
「いえ、何か箱の様な物体が高速で向かって来ています!数は約40程です。」
視力の良い部下が声を上げる。
「箱の様なだと?馬車か?大砲発射準備だ!」
ルイスは大砲で迎え撃つよう命じた。
その間にも物体は凄いスピードで土煙をあげながら平原を駆け抜けてくる。
やがて物体が十分大砲の射程圏内に入いり、砲撃を命令しようとしたその時、
『ドーーン!』『ドーーン!』
突然遠くから発砲音が聞こえたと思ったその時、
自軍陣地で爆発が響いた。
「何が起きている!!!」
ルイスは叫んだ。
「目標より攻撃を受けています!!」
「なに?!」
彼は部下からの報告に耳を疑い、敵を凝視した。
確かに、敵の物体から突き出た砲身の様な短い筒から、砲煙が上がっているのが目に見えた。
砲音の度に前列の戦列歩兵が吹き飛ばされる。
敵は爆走しながら此方に対して砲撃を行っていた。
「反撃しろ!撃て!!」
『ドーン!』『ドーン!』『ドーン!』
ルイスの命令の下、100門の大砲が火を吹いた。
砲弾は敵へ降り注ぎ大量の舞い上がる爆炎と煙に包まれた。
「やったか!!」
帝国軍は敵を見据える。
だが、彼らの期待通りには行かなかった。
「な!何故だっぁ!当たった筈だ!!!」
煙の中から何事も無かったかのようにして姿を見せたそれに、多くの帝国兵が絶望感に包まれた。
レイネティア軍
「副団長!!あれ!!」
部下が後ろを指差して叫んだ。
エレーネはその方向に目を向ける。
「あれはっ!・・・日本軍!!」
エレーネが驚愕に満ちた表情で呟いた。
突然後方から現れた物の正体は、アスターに居たはずの日本軍であった。
日本軍はレイネティア軍の真横を通り過ぎると、そのまま帝国軍へ突撃していった。
するとまもなく日本軍が爆走したまま砲撃を開始した。
帝国軍の陣地で多数の爆炎が吹き荒れる。
エレーネ達は希望を持って突撃する日本軍を見守っていた。
「何とか間に合った...とは言い難いか..」
爆走する九七式中戦車の車内で戦車隊の隊長は呟く。
彼の視線の先には無惨にも横たわる多数の王国兵の亡骸が転がっていた。
「仇を打ってやらねばな。攻撃開始せよ!」
40両の九七式中戦車や九五式軽戦車は走行を止める事無く主砲を放った。
砲弾は広く平原に展開するバルバラス軍の至る所で炸裂し、生身の戦列歩兵たちを容赦なく葬る。
特に九七式の放つ57ミリ戦車砲は対歩兵用の榴弾と言うだけあって、密集する戦列歩兵を一撃で大量に吹き飛ばしていた。
多数の爆炎が敵軍を包むのが見てとれた。
「あれだけ広く展開してるお陰で何処に撃っても当たるな。」
猛訓練を積んでいた戦車隊は行進間射撃で正確にバルバラス軍を蹴散らしていた。
するとその時、敵軍の大砲から砲煙が上がった。
「反撃がくるぞ!」
戦車長が叫ぶ。
次の瞬間、戦車隊の周辺を大量の爆炎と土煙が覆った。
だが、骨董品の大砲から放たれた榴弾の爆炎は戦車を貫く事が出来ないでいた。
戦車隊は問題無く煙の中から姿を現し、お返しとばかりに戦車砲と機銃による攻撃を開始した。
バルバラス軍
「なんでだ!何故無傷なんだぁ!」
ルイスは目前の得体の知れない敵に帝国軍の砲撃が効かない事実が受け入れ難かった。
彼は帝国の大砲に絶対の信頼を寄せていた。
他の蛮族が使う様な精度が劣悪で炸裂すらしない大砲と比べて、
高い砲精度と魔力で炸裂力が増した砲弾は正に帝国の強大な軍事力と技術力結晶と言うべき物であった。
だが、それがまるで通用しない。
砲弾が弾かれる度に彼のプライドには傷がついていった。
「うぉっっっ!!!!」
戦車隊の砲弾がルイスの近くに着弾し、周囲の部下達が吹き飛んだ。
「司令!無事ですか?!」
「な、なんて威力だ....」
彼は目の前で炸裂した戦車砲の威力に腰を抜かした。
周囲を見てみると、密集した戦列歩兵たちが敵の砲弾とあり得ない程の連射速度の銃弾によって、バタバタと薙ぎ倒されていた。
横を見ると、先程までは強気だった魔導師ザーラも近くで着弾した爆炎を前に膝を付き顔を真っ青にして怯えていた。
「お、おい!お前の精霊兵でさっさとアレを倒せ!!」
「わ、分かってるわよ!!」
お互い敬語も忘れて叫ぶ様に怒鳴った。
ザーラは震えた手で杖を構えると詠唱を始めた。
すると精霊兵の持つ剣先から大量の光の矢が出現し、戦車隊に向けて放たれた。
日本軍・戦車隊
「ん?なんだあれは?」
隊長は敵軍の後方にいる6m程の光り輝く物体に視線を送る。
鎧姿のそれは一瞬神々しい光を強めると、そこから光る矢が大量に放たれた。
「なにっ!来るぞ!」
眩い光を放つ矢は、まるで銃弾の様なスピードで向かってきた。
彼は焦ったようにして身構える。
『カキンッッ!』『カキンッッ!』
戦車の至る所から銃弾が弾ける様な音が鳴り響く。
幸いに装甲を貫通することは無かった。
背後を見渡すと、殆どの車両が無傷であったが、
装甲の薄い九五式軽戦車が数両被害を負っていた。
当たりどころが悪いと貫通する位の威力であり、脅威度が高いと判断した彼は即座に攻撃を命令する。
「あのデカいのを仕留めるぞ!撃て!」
九七式や九五式の主砲が多数精霊兵に向けて放たれた。
広い平原に軽く浮遊するデカい的に、多数の砲弾が正確に着弾する。
だが、砲弾が精霊兵に直撃する寸前で薄く光る壁のような物が出現し砲弾がぶつかり爆発する。
「...どういう事だ?」
不可思議な現象に疑問を呟く。
徐々に煙が晴れてきた。
そこには無傷の精霊兵が未だ佇んでいた。
精霊兵は咄嗟に防御魔法を展開していたのである。
「・・・アレも魔法ってやつか?戦車砲が効かないとは厄介な硬さだな。チヌなら行けるか?」
戦車隊の後列から4両の三式中戦車が前に躍り出る。
他の車両よりも一回りデカい三式中戦車の主砲は、米軍のM4中戦車に対抗するようにして搭載された75ミリ砲を装備しており、本土決戦用に温存されていた日本陸軍の切り札であった。
砲身を精霊兵に向けた4両の三式が射撃を開始した。
『ドォーン!』『ドォーン!』
九七式や九五式よりも強力な三式の砲弾は正確に精霊兵に放たれた。
75ミリ砲弾は先ほどとは打って変わって防御魔法を容易く貫き、その先の精霊兵の鎧を貫いて炸裂した。
精霊兵が爆炎に包まれた次の瞬間、煙の中から眩い光が煌めいた。
精霊兵の中心部を貫いた砲弾が決め手となり、コアを破壊された精霊兵は大量の魔力を撒き散らしながら消失したのだった。
煙が晴れたその場所には精霊兵は跡形も無く姿を消していた。
バルバラス軍
『・・・精霊兵がやられた...』
『もう無理だぁ!』
『逃げろ!』
最大戦力であった精霊兵がやられた事により、
士気が崩壊したバルバラス兵は散り散りに逃げ惑っていた。
「に、逃げるなぁあ!敵前逃亡は許さん!!」
自身も怯えながらもルイスはプライドと誇りを盾にして部下たちに訴える。
だが既に彼は混乱した部下を纏める術を持ち合わせては居なかった。
「これまでか...こんな事に...」
彼は怒りと恐怖と困惑の入り混じった声を呟く。
腰に掛けてあるホルダーから銃を抜き取ると、彼は自分の頭に銃口を押し付ける。
正体不明の敵とは言え、5万の軍勢が居ながら惨敗を喫した彼には、このまま逃げ帰る選択肢など眼中には無かったのである。
ルイスは逃げ惑う自身の軍勢を眺めながら引き金を引いた。
「まさか、勝ってしまうなんて...」
日も沈み、薄暗くなってきた平原で、敵の捕虜と負傷者への対応の指揮をしていたエレーネは、援軍に来てくれた日本軍に視線を向けながら呟いた。
自分達が敵わないほど強大なバルバラス軍を容易に蹴散らしてしまう日本軍の強さに、彼女は何かとんでもない勢力を味方に付けてしまったと内心怯えていた。
だが、日本軍のお陰で命拾いして部下も救われた事に、同時に感謝もしていたのだった。
「あの、貴殿が指揮官でしょうか?」
エレーネは日本軍戦車隊長に話しかける。
「えぇ、そうですが」
「私は王国軍第2軍団副団長のエレーネと申します。貴殿らのお陰で助かりました、感謝申し上げます。」
「いえ、山下閣下が攻撃を決断されましたので、我々は任務を果たしただけです。それに団長殿は戦死せれたと聞いています...」
「貴殿らがお気に病む事ではありません...。あのままでは我々は全滅する運命でした。それにバルバラスを退けてくださったお陰でアスターも救われました。改めて感謝を。」
エレーネは王国騎士の敬礼をした。
それに対して戦車隊長も敬礼で応えるのだった。
更新スピードが少し落ちぎみですが、自分のペースで頑張りたいと思いますので、これからも何卒よろしくお願いします。




