第十四話 派遣部隊
バルバラス帝国による王国への侵攻が確認され、レイネティア王国より正式な参戦要請が日本政府へ届いた。
それを受けて大本営はあらかじめ用意していた派遣部隊をレイネティアへ送るのだった。
レイネティア王国・港町タール
現在タールの港には日本海軍の輸送船が数隻入港していた。
その輸送船からは大量の陸軍兵と戦車などの兵器が陸上げされていたのである。
住民たちは初めて見る得体の知れない兵士たちや兵器に困惑した表情で観察しながら感想を言い合っていた。
『おい、あれ馬も無いのに勝手に動いているぞ』
『唸り声みたいなのを上げているな。』
『どうやらあれ全部が鉄で出来ているらしいぞ...』
そんな声を上げる住民達とはまた別で、陸上げ作業を見守る者が一人いた。
「とりあえずは予定通りだな。
それにしても、フィリピンの次は異世界で戦う事になるとは。」
副官にそう呟くのは、今回のベルジア大陸派遣軍の総司令官を務める山下奉文・陸軍大将であった。
彼は大東亜戦争初期に行われたマレー作戦を指揮し、イギリス軍を撃破した事でマレーの虎との異名で国民に広く知られた将軍であった。
彼は今回のベルジア大陸派遣部隊の指揮官に抜擢されたのだった。
「それにしても、大本営は思い切った行動に出たな。資源の供給の為とはいえ、いきなりこの規模の軍を派遣するとは。」
「そうですね、おまけに本土防衛用に温存されていた最新式の兵器も幾つか含まれています。」
派遣軍の陣容は以下の通りである、
・兵力3万
・戦車152両
・自動車や装甲車等235両
・火砲120門
戦車には75ミリ砲を搭載した三式中戦車が16両含まれていた。
更にこの後には王国内で現在建設中である飛行場が完成した後、戦闘機も多数配備される予定であった。
「この後は、アスターと呼ばれる町に移動した後に王国側の司令官との調整があります。」
「そうか。それにしても異世界人に日本語が通じるとは不思議な物だな。まぁ通訳が必要ないのであれば、それに越した事はない。」
レイネティア王国・交易都市アスター
山下将軍率いる派遣軍がタール港から上陸して2日がたったこの日。
王国の中では中部に位置する交易都市アスターへ、遂に日本軍が到着したのであった。
「あれが国王陛下がご期待の日本軍とやらか。」
王国の中では王都の次に栄えていると言われている都市アスター。
街の中心部にある三階立ての建物から、続々と門を潜り入城してくる日本軍を観察していたのは、歴戦の猛者感漂う王国軍第2軍団長のハウザーであった。
「随分と貧相な格好だな、バルバラスのように全ての歩兵に銃を待たせているのは驚いたが、まだバルバラスの奴らの方が品がある。」
「団長、王都からも彼らへ協力するように釘を刺されているのです。関係が悪化するような事は慎みませんと。」
隣にいた副団長を務める女騎士のエレーネが注意する。
「あぁ、上手くやるさ。だが国王陛下が我等を差し置いてあんな奴らに期待を寄せているのが気に食わない。王国を守るのは他でもない我々王国騎士なのだ。お前もそうは思わんか?」
「それは・・・」
エレーネは押し黙った。
彼女も本音は複雑な心境であった。
ハウザーの不満は彼に限らず、王国軍の将兵の中に少なからず同様の思いの者が多数存在していたのである。
思わず本音を彼女にぶつけてしまったハウザーであったが、自身が軍団長と言う立場の人間であると思い返すと、頭を冷やした。
「ふぅ... いや、何でもない。
そういえば向こうの指揮官との調整があったな。そろそろ会議室へ向かおう。」
「そうですね...」
彼らは微妙な空気感で会議室へと向かい、日本軍指揮官との調整に備えるのだった。
会議室にて、
コンコン
「失礼します、日本軍の指揮官がお越しになられました。」
「お通ししろ。」
ハウザーとエレーネは立ち上がり日本側指揮官を迎える。
入って来たのは軍刀を携えた一人の巨漢と、参謀の2名であった。
彼らはハウザーらの前で立ち止まると敬礼して自己紹介をした。
「大日本帝国陸軍ベルジア大陸派遣軍司令官の山下奉文です。」
それに対しハウザーらも答える
「レイネティア王国第2軍団長のハウザーと申します。」
「同じく副団長のエレーネと申します。」
彼らもそれぞれ王国式の敬礼で答えた。
「では単刀直入で申し訳ないが、早速会議を始めさせていただく。」
それぞれ席に付き会議が始まった。
「ではエレーネ、頼む。」
「はい。」
ハウザーがそういうとエレーネは地図を開いて説明を始めた。
「現在バルバラス軍の攻撃により我が方は前線が各地で突破されました。
我が国へ侵攻してきた敵戦力は総勢で11万に上ります。
敵の動向からして、その内の半数の5万程がこの先のソーヤ平原で集結した後、この王国最大の交易都市であるアスターに纏まって総攻撃を仕掛けてくると予想されます。」
「我々王国軍はこのソーヤ平原を決戦の地と捉え、3万の兵力で迎え撃ちます。」
語られた戦況は既に絶望的であった。
王国軍が当初前線の防衛に当てていた4万の兵力はその殆どが既に全滅しているため、ハウザー等が率いる3万の王国軍は残った王国のほぼ全軍と言っても過言ではなかったのである。
既に国土の3分の1程を奪われた王国にとっては後に引けない状況であった。
極めて説明されると、あまりの劣勢具合に王国側幹部は少し苛立った表情をしていた。
「日本軍の方々には・・・、この貿易都市アスターの防衛に着いて頂きたいと思います...」
エレーネの説明に今度は日本側の参謀2名が顔を顰める。
このような劣勢の中で日本軍を後方に退けようとする王国側の意図が分からないと言う様子であった。
これに対し山下大将が発言した。
「我々も平原での戦闘に加わらなくていいのですか?」
エレーネが答えようとしたが、それを遮りハウザーが立ち上がると発言した。
「ご心配は無用です。我が王国軍が平原で敵を粉砕して見せましょう。もし撃ち漏らした敵兵がアスターに向かったその時は貴殿らにお任せしたい。」
ハウザーの言に参謀が反論しようとするが、それを山下は制止して言う。
「わかりました。後方は我々が担いますので、街の安全は我々にお任せください。」
そういうと山下は一礼し、未だ不満げな顔の参謀らと共に部屋を後にした。
残った部屋でエレーネは不安を口にする。
「・・・団長、本当によろしいのですか?彼らの支援無しに。」
「心配するな、策はある。
それに国王陛下に王国騎士の力を認めていただく為には、我々単独で敵を退ける事が重要だ。」
「分かりました...。」
ハウザーは自信の籠った声で答えるのだった。
「閣下、わざわざこの地まで来た我々を街の防衛に当てるなど、彼奴ら我々を舐めています。よろしかったのですか?」
部屋を出た廊下で参謀が食い下がる。
「我々は王国側の要請で派遣されているからな。向こうがそう望むなら仕方ない。」
「ですが...」
「だが、いつでも出撃できる準備は整えておけ。」
山下がそう言うと、参謀は意図を理解したかのようにして引き下がった。
バルバラス帝国軍・レイネティア攻略軍
同時刻頃、ソーヤ平原に到達しようとしていたバルバラス側でも作戦会議が開かれていた。
赤い軍旗が大量に旗めくバルバラス軍の一際大きい天幕にて、
5万の先遣隊を率いる攻略軍のルイス司令は参謀の報告を聞いていた。
「斥候からの報告ですと、この先にある王国の交易都市アスターにて3万程の王国軍を確認しました。」
「この地で決戦に持ち込むつもりか。
好都合だな、向こうから纏まって来てくれるなら、敵を袋のネズミにして殲滅するだけだ。
これで街を一々しらみ潰す手間が省ける。」
ルイスは笑みを浮かべながら、城郭都市アデスの時のような一方的な戦闘を思い浮かべる。
「ですが交易都市アスターにて、王国軍とは別と思われる集団を2〜3万ほど確認したとの報告も入っております。」
「王国軍ではない?では何処の軍だ?あれだけ裏で他の小国共を脅したのに、王国へ援軍を送った国がいるとでも?」
「それが、国籍までは掴めておりません。」
「ふん、まぁいい。蛮族がいくら集まろうが遅かれ早かれ全滅する運命だからな。皆殺しにした後で国籍は調べればいい。」
「分かりました。」
「よし、後続が来る前に我々のみでこのまま王国を落とすぞ。全軍に決戦の準備だ。」
こうして、レイネティアの存亡が掛かった戦闘が幕を開けようとしていた。




