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第十一話 交渉




レイネティア王国・王都ケーシル






王都の中央部に位置する、青と白で作られたシンプルながらも伝統を感じさせる王城が聳え立っていた。


その王城の一室にて、王国の未来を左右する会議が行われようしていた。



部屋には中央に縦長のテーブルが置かれ、それぞれ王国の重鎮が席に連ねていた、そしてテーブルの中央奥にはレイネティア国王が座っており、とても険しい表情をしていた。


会議の出席者は、


宰相、外務卿、財務卿、内務卿、法務卿などの主要な行政のトップに加えて、

軍からは、海軍の大提督と陸軍の大将軍が、そして竜騎士団長と、近衛騎士団長が参加していた。


そして、今回の会議には特別にリーア姫と王国海軍第5艦隊司令のライロス・レオルドも参加していた。


議題としては、近く予想されるバルバラス帝国の侵攻への対処。

そしてもう一つが、リーア姫やレオルドが遭遇した巨大鋼鉄船の事についてであった。




「では会議を始める。まず、バルバラス帝国の動向を報告してくれ。」


国王がそう言うと、陸軍の大将軍が報告を始めた。


「現在、帝国は我が国との国境付近に、大量の陸軍の配置をしており、その数は少なくとも11万との事です。」


「11万か... 敵の海軍にも何か動きはあるか?」


続けて海軍の大提督が答える。


「はい、帝国内に放っている密偵より情報が届きました。バルバラスの港湾都市であるメリルに少なくとも400隻の戦列艦隊を確認したとの事です。」



「・・・なんて数だ...」


宰相が真っ青な顔で小さく呟いた。


予想はしていたものの、あまりの敵の物量に対していきなり会議室内の空気が重くなったのを国王は感じた。


現状の王国軍は陸軍兵力が全軍で8万である、そのうち即座に帝国との国境防衛に当てれる数は多くて4万が限界であった。

一方で海軍はと言うと、王国第1〜第6まである艦隊のそれぞれに40〜50隻程の船が配備されており、単純な数の上では拮抗しているものの、単艦での性能差では決定的に劣っていた。


このままでは敗戦は確実と言って過言ではない状況である。


「我が軍の配置状況はどうだ?」


「現在、陸軍は各地から国境の防衛線へと部隊を集結させており、兵力は4万であります。」


「海軍は第1艦隊から第6艦隊の全てを集結中であり、300隻の艦隊で敵海軍を迎え撃つ構えです。」



「うむ... 外務卿、周辺国への参戦要請の方はどうか?」


「芳しくはありません。メース公国は既に要請を拒否して来ました。アラスタ王国やカイネリア国も...あまり期待は出来ないと思われます。」



「まだ他人事の姿勢でいるのか... 我が国が滅べば明日は我が身だと言うのに.....。」


内務卿が呆れと怒りの混じった声で呟く。



現在大陸には王国の他にも帝国の侵略から逃れていた国が幾つか存在していた。

だが、とても帝国に単騎で戦争を挑める程の国は既に無く、ほとんどがレイネティア程の国力か、それより劣るレベルの国々であった。

王国はバルバラスの侵攻に対して、その周辺各国に対し共同戦線の要請を出していたのである。

だが当然、帝国からの圧力が掛かっているため、どの国も提案を飲む事はしなかったのである。




「我が国単独か...、仕方ない。

内務卿、直ちに戦時体制への移行を開始してくれ、各地の予備役も纏めて召集しろ。」


「は!」




バルバラスへの対応は大方定まった後、

議題は巨大鋼鉄船の事に移って行った。





「大日本帝国?彼らはそう名乗ったのか?」


国王がレオルドに聞く。


「はい、陛下。」


「大日本帝国と言う国名を聞いた事がある者はいるか?」


国王が全員に問いかけるが、誰も聴き覚えがないという様子であった。



「それにしても、250mを超える巨船とはな。俄かに信じ難い話だが...」


「本当でございます、お父様。私と提督のみならず艦隊の皆様方も目撃しました。」


「うむぅ...」


「そもそも、我が国よりも北には国は元より、陸地すら存在しない筈では?いきなり出現した訳でも無いでしょうし。

それにバルバラスの艦隊を全滅させる事の出来る国など、世界に超大国しかありえません。

やはり、超大国の艦隊か何かでは?」


外務卿が疑問を呈する。

それに対してレオルドが、


「いえ、あの様な巨大船は超大国でも保有していないでしょう。それに彼らは全員が黄色人種でありました。」


「黄色人種だけの国だと?ディアス大陸の方に幾つかあったが、そこまでの国力など待ち合わせてはいなかった筈だ。ますます分からん。」


リーア姫とレオルドの説明にも、未だ全員半信半疑の様子であった。

ここで、国王が口を開いた。


「兎も角、その大日本帝国の正体を突き止めてくれ。例え正体が超大国であったとしても、上手く行けば協力を得られるかもしれない。」


「了解致しました。」


会議も終盤に差し掛かろうとしていたその時、


コン、コン、コン、


会議室のドアが叩かれ、外務庁職員が入ってきた。


すると外務卿が、


「会議中だぞ!後にせんか。」


と部下を叱るも、国王は職員に対して言う。


「よい、その場で話してくれ。」



「はっ!たった今、港町タールより魔導通信が入りました。

内容によると大日本帝国と名乗る国の外交使節団が、5隻の巨大な鋼鉄船を率いて現れたとの事です!

現在は領主であるタール伯爵が対応に当たっております。」



「な!・・・」



驚きのあまりに、室内の時が一瞬止まったかのように、皆固まってしまったなか、レオルドとリーア姫はお互い顔を見合わせた。



そんな中、国王は口を開いた。



「な、なんという偶然か。・・・よし、外務卿!直ちに外交官をタールへと向かわせ、彼らとの交渉に当たらせるのだ。」


「畏まりました。」


そういうなり、外務卿は足早に会議室を後にしていった。




「なんとか、道が開けるかもしれんな。」


国王は一人呟くのであった。







レイネティア王国・港町タール



美しい海の景色と、港に停められている小さな小舟や漁船が並ぶ港町タール。

さほど大きくは無いその町の沖合に、周囲の光景とは不釣り合いな灰色の厳しい軍艦が5隻ほど停泊していた。


その町にある、周りの民家よりも立派な屋敷にて、

大日本帝国外交使節団の堤とその部下の松岡は、メイド服を着た使用人からのもてなしを受けていた。


「うん、美味い菓子ですね。それにメイドさんも美人さんが沢山ですよ。」


「おい松岡、外交官なんだから少しは慎みを待て、あれだけ重要任務だと偉そうに口を叩いていた奴が、情けないぞ。」


「すいません、ですが本当の別世界に来たと思うと気持ちが高揚するといいますか...感動してしまって。」


「まぁ、気持ちは俺にも分からなくは無いがな、だが少し落ち着いて...」


「そういえば見ましたか?さっきの!町を馬車で移動していた時に、耳の長い白人や、尻尾の生えた獣のような人間が歩いてましたよ!!!

後で聞いたら、別の国から来たエルフとか獣人てっ言うんですって!

凄いですねこの世界は!」


「・・・(コイツは何で外交官に成れたんだ?)」


堤が呆れてある中、松岡は上機嫌であった。


時は少し遡る、





当初沖合の艦隊を目撃した町の住人や警備兵は当然、見慣れない巨大船の出現にパニックとなったものの、

すぐに町の小型船が巨船へと向かい、正体を尋ねたところ、大日本帝国の外交使節団だと語ったのだという。

その後すぐに巨船から小型ボードが分離し町へと上陸してきたのである。


最初に彼等を出迎えた町の役人は、おっかなびっくりな表情で上陸してきた使節団と対面したという。彼らは外交交渉が目的との事情を話したため、急遽この町の領主であるタール伯爵が自身の屋敷に迎入れ対応に当たっていた。



「あのような巨大な軍艦でいきなり乗り付けて来たんだ、大日本帝国と言う国名は聞いた事がないが、きっとどっかの覇権国家に違いない。

王都から外交官が来るまでに、精一杯もてなして機嫌を取っておかなくては大変な事になるやもしれん。」


そう屋敷で秘書官に語るのは、他でも無いここ港町タールの領主であるタール伯爵であった。


彼はそう語るように、沖合の軍艦の危険性をいち早く察知し、自分に出来るだけのもてなしを堤と松岡の考えとは裏腹にしていたのである。


実際にそれで上機嫌になっている者が居たのだが、タール伯爵には彼らの考えを知る由は無かった。



その後、タールの屋敷へ王都から馬車が到着した。

そこから降りて来たのは、王国外務庁に務める外交官のヘンスとその補佐のカーネであった。


「ヘンス様、大丈夫でしょうか?あのような巨船であれば帝国の艦隊を滅したとの報告も理解出来ますが、いきなり巨船で来たとは、砲艦外交の意味合いも有るのでは無いですか?」


「確かにその可能性もある。だが相手の態度を見てから判断するのが我々の仕事だからな。

兎も角、一筋縄では行かない相手だろうから油断するな。」


ヘンスとカーネは警戒心を持って交渉に挑むこととなった。


彼らとの交渉は必然的に、この町で一番豪華とも言えるタール伯爵の屋敷で行われる事となった。








レイネティア王国・港町タール

タール伯爵屋敷


「初めまして、私は大日本帝国外務省の堤と申します。こちらは私の部下の松岡です。宜しくお願いします。」


日本側二人が自己紹介する


「私はレイネティア王国外交庁のヘンスと申します。こちらは補佐のカーネです。こちらこそ宜しくお願いします。」


王国側も自己紹介を行い、両方ともに席に着いた。


「早速ですが、今回のご来訪の理由をお尋ねしても宜しいか?」


「はい。まず我々、大日本帝国政府は貴国との国交の開設を目的に来た次第です。」


「国交開設ですか。失礼ながら我々は貴国についての知識がありません。なので貴国についての説明を願えますか?」


「はい、ではまず此方の資料をご覧ください。」


堤がそう言うと、松岡はあらかじめ準備していた日本についての資料を取り出して、ヘンスに渡した。


「!!人口が7000万人!」


まず最初のページの人口数に驚愕したヘンスであった。


現在のレイネティアの人口がおよそ500万であり、ベルジア大陸最大の大国であるバルバラス帝国でも人口が5000万人であったためである。


だが、それよりも驚くべき事がさらに判明した。




「国ごと転移ですと!?」


「はい、我が国は突然この世界へ、国土ごと転移してしまったのです。」


「確かに今まで北の海域には陸地は有りませんでしたので、辻褄は会いますが。

少し俄には信じがたい話です。」


急に突拍子もない話が出てきたため、ヘンスは取り乱したものの、すぐに冷静になり話を続けた。


「確かに我々としても原因は未だ究明できて居ませんので、信じられないのも無理は無いでしょう。」


堤はヘンスの反応は最もだと言わんばかりに答えた。



「改めて確認したいのですが、我が国の艦隊が貴国の艦隊と初めて接触した際に、その場に居たバルバラス帝国の艦隊を滅したと言うのは、事実なのですか?」


「はい、確かに我が国の艦隊は、突然バルバラス帝国から砲撃を受けたため、反撃してこれを撃沈しました。」



極めて日本の外交官の口から、帝国の戦列艦隊を全滅させたと言う言葉が出たことに、ヘンスとカーネは衝撃を受けた。


目の前の日本人は巨船があるとは言え、バルバラス帝国を敵に回すような事を平然と語ったためである。


その他資料には、国家の制度や国土の紹介の他、中世の王国人には理解し難い技術についての簡単な説明が書かれているのみであり、軍事力についての具体的な記載はなかった。

だが、日本がバルバラスの様な覇権国家では無いという事は、なんとなく理解したのであった。




「ありがとうございました。貴国については軽く理解出来ました。国交開設の件に付きましても、前向きに検討させていただきます。少し休憩を挟んでも宜しいですか?」


「そうですね、一旦休みましょう。」



その後、ヘンスは持って来た魔導通信で王都へと詳細を報告し、それを聞いた国王は日本との国交開設の交渉へ入ることを命じたのであった。





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