第十話 帝国と王国
ベルジア大陸・バルバラス帝国
帝都・バレル
「クソッ、何故こんな事を私自ら皇帝陛下に報告せねばならんのだ!!」
バルバラス帝国の帝都バレルにある豪華な城の廊下を、位の高そうな服を来た男が部下に文句を言いながら歩いていた。
帝国外交庁局長のリゼルである。
彼は今、リーア姫捕縛作戦が失敗した事に対する、説明(弁明)を皇帝に報告するため、自ら足を運んだのである。
「仕方ありません、局長自ら外交庁からの姫の捕縛作戦実行を推したのですから」
「ぬぅ、分かっとるわ!クソッ、なんとか私に矛先が向かないように誘導せねば...」
赤を基調とした美しい街並みと人々の賑わい、そしてベルジア大陸中から掻き集められた大量の富が潤うその都市、
ベルジア大陸の内陸に位置するバルバラス帝国の帝都バレル。
そしてその中でも一際大きく帝国の威厳を示すかのような豪華な城の一室で、
バルバラス帝国皇帝・バルバラス5世は、部屋の一番奥の豪華な玉座に座りながら、帝国外交庁の局長リゼルとその部下の報告を聞いていた。
「…ですので、此度のリーア姫捕縛の現場責任者である外交官の男については厳重な処分を..」
「たわけがぁっっ!!!」
皇帝の怒号が鳴り響く。
「無能者の処分など後で勝手にやっておけ!それよりも問題は帝国兵を動かしてしまったせいで、帝国の関与が確信されてしまった事だ!
その上に姫の捕縛が失敗し逃亡された今、帝国が捕縛を計画していた事が世界に露見してしまう。
この後始末は外交庁が責任を持って尻拭いする事だ。分かったなら下がれ。」
「は、ははっぁ!」
リゼルは声を震わせて、顔を真っ青にしながら部屋を退出していった。
その後皇帝は横に控えていた宰相に対して愚痴をこぼした。
「全く。外交庁が必死になって姫の捕縛を任せて欲しいと言うから任せたらこのザマだ。」
「局長のリゼルは日和見な男です。今回も自身の保身の為に動くでしょうな。」
「使えないと分かればその時は取り替えるだけの事だ。
兎も角、捕縛が失敗し人質として脅す計画が台無しになった以上、多少は被害が増えるだろうが、本来の計画通りに軍を進めるしかあるまい。
軍務局長に伝えろ、戦争の準備をしろと。
不幸中の幸いに、王国の艦隊がこちらの領海に侵入したから、それを口実に攻めれるな。」
「分かりました。王国との国境付近に軍を配置し、いつでも攻め込める準備を整えさせます。
ただ、一つだけ気になる事がございます。」
「なんだ?」
「メリル駐留艦隊が領海を侵犯してきたレイネティアの艦隊と接敵した後に、魔道通信が途絶した件でございます。
艦隊は通信可能範囲から外れていた為連絡を寄越すことがなく、恐らくは全滅したと考えられますが、一隻残らず壊滅したとの事が少々気がかりであるのです。」
「練度の低い地方隊で、しかもたったの12隻であろう?
軍も敵の物量で押されたとの分析であったし、心配はいらんだろう。
まぁ、レイネティアが新兵器でも使用した可能性も視野に入れるよう警告を出す程度はしておけばいい。」
「分かりました、ではそのように。」
宰相が部屋から退出し、一人残った部屋で皇帝は呟く。
「いずれ我が帝国はベルジア大陸を統一した後、"ディアス大陸"の気取った超大国共を追い抜き、
未踏の"第三大陸"を手中に収めて、いずれは世界を一つに纏める事こそが使命なのだ・・・」
皇帝は胸に秘めたる壮大な野望を一人想像していた。
レイネティア王国・王都ケーシル
中世ほどの文明レベルで、青の建物を基調とした、程よく川や草木の自然と融合した美しい都市、
レイネティア王国の王都ケーシルの王城にて、レイネティアの国王は娘のリーア姫と再会していた。
「リーア、お前が無事で本当によかった・・・。お前を行かせてしまった私の責任だ。すまなかった」
国王はとても安堵した様子で娘に話しかけた。
「いえ、元より私が危険を犯して向かった事です。私が無事に戻れたのも、全て私を守って下さった兵士の皆様のお陰です。」
「あぁ、皆の懸命な護衛と、命を落とした兵士たちのおかげであったな。
ガルズ、お主もよく生きて帰って来てくれた。リーアを守り切ってくれた事、この娘の父として深く礼を言う。」
国王は側にいたガルズに対しても、礼を述べた。
咄嗟にガルズは膝を付き、
「勿体なき御言葉です。我々近衛部隊は王族の皆様方を護る事こそが使命でありますので。」
「ガルズ!こう言う時は素直に受け取るものよ。
・・・ありがとうね、ガルズ・・。」
リーア姫は少し頬を赤らめながら礼を述べていた
「あ...は、はい!」
ガルズも何処か照れくさそうな表情で、それに応えていたのであった。
国王はそれを微笑ましい目で眺めていた。
だが、それとは別に国王は内心で不安げな心境をしていた、
(今回の一件を口実にして帝国は仕掛けてくるだろう、それが帝国のやり方だからな。
果たして私は王国を守り切れるだろうか...)
レイネティア国王は自身の国の行く末を考えるのだった。
だが、そんな王国へ向けて、接触を図ろうとしている国がいた。
レイネティア王国・近海
波の少ない穏やかな海を、数隻の鋼鉄船が航行していた。
それは、日本政府から派遣された外交使節団を乗せて、レイネティア王国を目指している日本海軍の艦隊であった。
彼らの目的は第二艦隊より存在が確認された、レイネティア王国との国交の樹立であり、それと同時に貿易により、食料や資源を得ることが最大の目的であった。
だが、レイネティア王国と共に確認された、バルバラス帝国という非常に好戦的な国家の襲撃にも備えて、護衛に海軍艦艇が複数隻同行していた。
内訳は、
重巡・足柄
軽巡・五十鈴
駆逐艦・磯風、浜風、雪風
・・・であった。
外交使節団にしては物々しい程の護衛と、生き残った健在の艦艇と残り少ない燃料を動員して行われた今回の使節団派遣は、まさに日本政府の期待が重く賭けられた重要任務であった。
「うぅ、気持ちが悪い...」
重巡洋艦足柄の甲板で一人、手すりに掴まりながら船酔いに耐え苦しむ者がいた。
彼は、今回の使節団派遣に抜擢された内の一人である、堤 淳平と言う外交官である。
「また船酔いですか?相変わらず弱いですね揺れに。」
堤にそう半笑いで話しかけてきたのは使節団の一人で、彼の部下でもある、松岡 圭司であった。
「俺からしたら、お前が平気なのが気に食わない。」
「逆恨みは良くないですね、今回は政府からの期待も高いので、着くまでには回復されてないと困りますよ。重要な任務ですから。」
「分かってる!全く。
第二艦隊が得た情報や捕虜の情報があるとは言え、
まるで相手方の文化や常識や考え方などは掴めない。
こんな相手との交渉に国運が掛かっているとは、胃が痛くなってくる。」
現在、異世界について判明している大まかな情報は以下の通りである。
文明は中世から近世の国が多い、何故か日本語が通じる、魔法という非科学的な現象の存在、伝説上の生物の実在、
・・・などである。
「少なくとも、文明水準が我々より低いのであれば、多少技術力を盾に進められますかね。」
「まぁ、相手からしたらこの陣容でいきなり押しかけられる訳だからな。技術の差は嫌と言うほど感じるだろう。」
堤は、自身が乗っている足柄や周りの艦艇を眺めながら言った。
それに対し松岡は、
「まるで、ペリーや黒船の状況に似てますね。今の我々。」
「もっとも、相手は異世界人だがな。」
彼らは自身の責任の重みを感じるのであった。




