第一話 瀕死の帝国
1945年4月6日 正午
日本・九州 飛行場
桜が咲き誇る季節の中、とある飛行場から緑色の美しいフォルムを備えた航空機が続々と、日の丸を振る大勢の婦女子達に見守られながら、今飛び立とうとしていた。
「ん?… あいつ、来てたのか…。」
ある20歳になったばかりの海軍パイロットは一人狭い機内で呟いた。
愛機である自身の零戦に乗り滑走路から離陸しようとしていた時、ふと気になり、滑走路脇の女子集団へ視線を向け、偶然目に止まった人。
そこには彼が想いを寄せていた幼馴染が、必死に涙を堪えようと顔を歪ませながら手を振る姿がそこにあった。
「せめて、想いだけでも伝えたかったな…」
両手で握っていた操縦桿から右手だけ離すと、サッと彼女へ向け敬礼してみせた。
一瞬、彼女の目から涙が溢れ落ちたのが尻目に見えたのと同時に機体はフワッと浮き上がり、徐々にスピードを上げて飛び立った。
程なくして、彼の機は上空にいる味方機の元へと合流し、編隊を組み遠くの空の方へと飛び去って行った。
彼ら、『神風特別攻撃隊』の向かう先は沖縄近海に居るであろう米空母艦隊である。
この日発動された「菊水一号作戦」により、陸海軍合わせて300機近い航空機が九州と台湾の飛行場から出撃し、体当たりして敵を食い止めんとしていた。
同時刻・九州 豊後水道
九州と四国に挟まれた狭い水道を密かに一隻の巨艦と複数の小型艦艇たちが航行していた。
それは、世界最大最強の軍艦。
『戦艦大和』を旗艦として、軽巡や駆逐艦などを含めた計11隻からなる第二艦隊であり、実質的に日本海軍に残された最後の艦隊でもあった。
作戦目標は神風特攻隊の突入を少しでも容易にするため、米軍の気を引き付ける囮役としての意味と、沖縄にたどり着いた場合に砂浜に乗り上げて浮き砲台として活用するという水上特攻作戦であった。
艦隊は米軍に察知されぬよう、航路を偽装しながら航行していた。
「どう思う?艦長。もうそろそろ発見される頃合いかな。」
「どうでしょう、この辺りも米潜がうろちょろしていますので、いつ見つかっても不思議ではないでしょうな。」
旗艦大和にて、司令長官である伊藤整一と艦長の有賀は艦橋で互いに艦前方を見据えたまま話していた。
伊藤が周りに視線を配ると、艦橋内では皆どこか最期を悟っていながらも、すでに覚悟を決めた表情をしていた。
その光景を見て、伊藤の心には再度自責の念が込み上がってきた。
「君たちには正直悪いと思っている。不満はあるだろうが…」
「長官。もう皆腹は据わったのですから、長官がお気に病むことではありません。」
「すまんな…」
時は大東亜戦争末期。
世界各地で枢軸国が迫り来る連合軍を相手に敗戦を繰り返す中、極東に位置する瀕死の帝国は国家存続を守るため、多くの将兵の命を代償として一撃講和を果たすべく、残った水上艦艇や航空機など陸海軍の持てる戦力を注ぎ込んだ大規模な作戦が行われる予定であった。
だが、神の仕業かはたまた偶然の仕業か、彼らに死に場所が与えられることは無かった。
一話目なのでだいぶ短くなってしまいました。
ここから面白くなってくると思いますので、飽きずに観ていただけるよう頑張りたいと思います。




