農家のおっさん(本人「おっさんじゃない!!!」)はバトル漫画的な世界観でもなんとか生き抜きます
令和XX年、神を名乗る何者かの手により、突如として世界に新しい秩序が追加された。
それは…………『なんか全体的に異能バトル漫画的な世界観になる』というものだった。
人々は与えられた力に戸惑いながらも、大多数は今までの社会生活に順応して、日常時々バトルの生活に馴染んでいった。
そんな世界で、若い頃は(「まだまだ若いがな………」本人談)バトルジャンキーとして鳴らした俺も今では親の農家を継いで働いている。
あの頃の俺は向こう見ずで、馬鹿で、だけども最高に充実した日々だった。
今となっては守るべき家族がいるから、もうあの頃には戻れないし戻る気もないが、あの頃がどうしようもなく懐かしいのもまた事実。
日々割り切れない思いを整理しながら農作業をする俺だが、そんな俺にも悩みの種がある。
『カァーーーーーー』
こいつだ。
鳥類スズメ目カラス科カラス属ハシブトガラスのアンチクショウである。
こいつらが畑に植えたばかりの苗を荒らしていくからその対策を色々考えているが、今の世界は野生動物ですら何かしらの異能を持つ『超異能社会』、そういう訳でなかなか上手くはいかない。
「失せろッ!!!」
威嚇の為に、生分解性プラスチックのBB弾を装填したエアガンを撃ち込んでやった。
『カァーカッカッカ!!!』意訳∶貧弱貧弱ゥ!!
野郎…………此れ見よがしにバレルロールしたりして神回避しながら煽ってやがる。
というか、明らかに重力やら物理法則やらを無視した挙動じゃあないか??
その時、俺にもヤツ自身にも予想外な事が起こった。
『カァ!?』 意訳∶何ィィィィィィィィ!?
その辺の石に跳ね返ったBB弾が、カラスの野郎に直撃したのだ。
『カァーーーーーーーーー……………!!!!』 意訳∶お前は俺を…………………怒らせた!!!!
カラスの野郎の姿が一瞬消える。その後、俺の肩がざっくりと切り裂かれた。
「ッ!?」
思わずバックステップで距離を取り、構えるがその時には既にヤツは次の攻撃に移行している。
『カァーーーーーーーーー!!!!!』 意訳∶死ねェ!!!おっさん!!!!
「おっさんじゃない!!!」
何故かカラスの野郎に『おっさん』と呼ばれた気がしたので脊髄反射で即答しつつ、地面を転がりながらカラスの突撃を躱す。
次の瞬間、先程まで俺の頭があった位置をカラスの嘴が貫いていった。
……………あんなモン食らったら顔面に風穴空いてたな………
思わず身震いしながらも、バトルジャンキー時代の癖なのか俺の頭は最速でヤツに勝つ為のプランを組み立て始める。
俺の能力は『ダメージ反転』、受けたダメージを蓄積して能力発動のタイミングで一気に放出してカウンター攻撃とする能力。
とはいえ、俺自身は別に不死身でもなんでもないので行動不能になる程のダメージを受けてしまえばどうしようもない。
ヤツのスピードに対抗するのは俺の能力では不可能。
ここはやはり、為すすべもなくやられているように見せかけてギリギリまでダメージ管理しながらヤツの攻撃を受け続け、最後ヤツが勝ち誇ったところでカウンターで一気に仕留めるしかない。
ここからが踏ん張りどころだ、俺。
俺はヤツの攻撃を、致命傷になりそうな物は確実に回避あるいは防御して、それ以外は不自然にならない程度にあえて受けながら予定通り満身創痍となる。
『カァーカッカッカ!!!!』 意訳∶どうやら手も足も出ないようだな………次の一撃で終わりにしてやる!!!
『カァー……………………カァーーーーーーーーーーーーー!!!!!!』 意訳∶S•B•A•S、躱せるカァーーーーーーーーーーーー!!!!
錐揉み回転しながら超高速で迫りくるカラスの嘴攻撃、まともに食らえば人間の胴体くらいは貫通しそうだ。だが、
「待っていたぜ……………この瞬間をよォ…………!!!」
俺はカラスの突進攻撃に対してただのパンチで応戦する。
当然、肉は抉れ裂けて骨にもヒビが入る。だが、計画通り……………!!!
「ダメージ反転…………!!!反転式クロスカウンターだァァァァァァァァァ!!!!」
先程まで充分に蓄積したダメージの放出と同時にカラスの野郎を殴り飛ばす。
これこそが、俺がまだバトルジャンキーだった頃に多くの戦士を沈めた、俺の唯一の必殺技…………
『カァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーー!?』 意訳∶馬鹿な…………この黒羽のクロウ様が…………この俺がァァァァァァァァァァァ!?
カラスの野郎が地面に落ちる。すると、先程まで様子を伺っていた取り巻きのカラス共が集まってきた。
『カァー』
『カァー』
『カァー』
『カァー』
『カァー』
「やれやれだぜ…………」
これは、打ち切り漫画とかでありがちな『俺達の本当の戦いは、これからだ』パターンだな…………
だが、俺には畑を守る責務がある!!!
「俺は、俺の責務を果たす!!!全員まとめてかかってきやがれ!!!」
俺が覚悟を決めたその時、
『カァーーーーーーーーーーーー!!!!』 意訳∶やめろ、テメェら!!!そのおっさんに手を出すのは、この黒羽のクロウ様が許さねェ!!!!
先程倒したカラス(黒羽のクロウとやら)が一喝して、仲間のカラス共も攻撃をやめた。
というか、おっさんじゃないわ!!!
『カァーーーーーー…………?』 意訳∶なぁあんた、何故俺にトドメを刺さない?お前程の男ならば、畑を荒らす害獣に容赦などしないはずだ………
カラスが何か問いかけてきたような気がする。おそらく、『何故トドメを刺さない?』辺りだろうか?(間違ってたらスマン)
「何も死ぬ事はねー、そう思っただけだ。もう畑を荒らすなよ?」
俺ははっきりとそう答える。
その後、カラス共が去っていくのを確認した上で俺は家に帰る。
(その後、嫁に救急車呼ばれて病院に搬送されたのはまた、別の話)
外でカラスを見かけた時に、『カラスが錐揉み回転しながら超高速で突進してきたら面白くね?』というカフェインキメてそうな思いつきで書いた短編です。
なんだこれ?(自問)
ちなみに、黒羽のクロウ(カラスのボス)の能力は『自由飛行』、重力や物理法則を無視して自由に飛べるだけの能力です。
つまり、カラスのくせにハヤブサより強いです。
そして、このカラスの脳内CVは緑川光。