48話 後戻りはできない
「あれ……? ここは……」
友也の大声に反応するかのように少女は目を覚まし体を起こす。その時に服の上に掛かっていた衣装がずり落ちる。
少女の上半身が露わになる。雪のような白い肌に淡い赤色の下着。フリルがビル風に揺らされる。
「えっ……何でわたし服を……」
彼女の顔はみるみるうちに下着同様の色に移り変わっていく。無言で俯き衣装を抱き抱え胸を隠す。
「あ、あのっ……」
「あなた達誰ですか!? 何でわたしはひん剥かれて……!?」
少女は状況を飲み込めておらず、いきなり衣服が剥がされ目の前には大柄寄りの男が二人いる。混乱してしまうのも仕方ない。
「まさかわたしを無理やり……そんなまだ彼氏もできたことないのに……!!」
少女はこちらの話を聞こうとはせず涙目で語り出す。
「だっ、誰か助け……」
「ちょ、待って待って待って!!」
大声を出そうとしたので俺と友也は咄嗟に彼女の口を手で塞ぐ。
「これは俺達がやったことじゃないんだ。ほらこの衣装」
少女が持っている彗星が脱ぎ捨てたのであろう衣装に視線を誘導させる。すると意表を突かれたのか数回瞬きし思考を停止させる。
「あれ……? 何で彗星ちゃんの衣装がここに?」
「と、とりあえずオレの上着貸すからはい」
少女は友也から上着を羽織らせてもらう。体格差のおかげで前を閉めれば下まで隠すことができる。
「違う……お兄さん達じゃない。確かわたし女の子に首を絞められて……」
「女の子!? それってどんな子だった!?」
俺は食いつくように身を乗り出し目の前にある情報源に縋る。
「す、すみませんそこまでは……急なことだったので顔までは……」
自信のない返事だがこれだけで十分だ。彗星がここを通ったことは確定した。ならこの付近を捜索するのが定石だ。
「とりあえずはいこれ」
友也は自分の財布から一万円札を抜き少女に手渡す。
「これで近くの服屋でとりあえずはなんとかなるはずだよ。帰り道気をつけてね。情報ありがとう」
「あっ、あの……もしかして彗星ちゃんに何かあったんでしょうか? だってこの衣装……」
彼女もライブに来ていた人間だ。その衣装が彗星が着ていたもので、何かトラブルがあったことくらいは察しがつく。
「何もないよ!」
俺はまた食いつくように、前のめりになり言葉を被せる。それは明らかに不自然なものであり不安を煽る結果になる。
「大丈夫だよ……彗星は戻ってくるから。だから君は気にしないで」
「は、はい……」
気の弱さからかそれ以上は何も聞き返してこず、俺達は彼女と別れ路地裏で苦虫を噛み潰したような味を口の中に広げる。
「夜道くん……絶対に彗星ちゃんを見つけて……説得して考え直させよう」
「もちろんだ。絶対に助けてみせるさ」
俺は霧子と花華にもこのことを伝え、二人が来るまでにここら辺を重点的に捜索する。少女に聞いておいた服装の女の子が通らなかったか聞き込みをし、順々に目撃者を見つけて追っていく。
やがて俺達は山に入り上へ上へと登っていく。
「あっ、そんな子いたわ! 山を駆け上がっていったけど……ついさっきのことよ!」
山菜採りに来ていたおばさんから彗星を見たという証言を得られる。写真を見せたらより反応が大きくなったので確定だろう。
人気のない山に入り込んで何をするつもりなのか分からないが、このまま逃したら最悪の結果になることは容易に予想できる。
被害を出さないためにも、なにより取り返しがつく内に人間として生きれるよう説得するためになんとしてでも話し合える場が欲しい。
「ありがとうございました! 行こう夜道くん!」
「あぁ!」
俺達二人は彗星の名を呼びながら山道を駆け上がる。
段々と息も上がり始め一旦歩を止めようかと考えた時横から異音がする。ミシミシという木が軋む音が。
「夜道くん止まって!!」
俺は友也に服を引っ張られその場に急停止する。それとほぼ同時に鈍い衝撃音と大きな揺れが俺の体を襲う。
木が倒れてきたのだ。もしあのまま進んでいたら押し潰されていたかもしれない。
「あーあ。これで足でも怪我してくれれば良かったのに」
彗星が険しい顔をしながら木々の合間から出てくる。こちらに対する慈悲はない。
眼球がグルグルと蠢き出し哺乳類のものから化物のそれへと変わる。皮膚が灰色に変色していき魔物の姿へと変貌するのだった。




