42話 守る者。壊す者。叶える者
「彗星ちゃん可愛かったな……あっ、でも一応アイドルなんだし告白とかしたら迷惑になるからするなよ!?」
「しないよ。弁えてるさそれくらい」
花がなくなったが俺達は案外楽しく話しつつ夜道を歩く。
保志町彗星。プロデューサーの言葉から何か暗い秘密を抱えているのかと思ったが、話してみれば普通の夢見る女の子だった。ちょっと傲慢なところが鼻につくが。
とはいえ本来の仕事を忘れるわけにはいかない。細かく見れば不審な所もないわけではない。そういった所は切り分けて、あいつの言葉を借りるのもなんだが私情は入れず調べていくつもりだ。
「ねぇ夜道くん。彗星ちゃんが居るところだと聞けなかったんだけど、本当の仕事って何? ボディーガードじゃないよね?」
「……案外察しがいいんだなお前」
「そりゃ頭良いからねオレ。それに大体想像はつくよ。だって探偵の仕事なんだし」
馬鹿な言動と行動に油断していたが、こいつも霧子と同じところの研究室の助手をやっている。馬鹿に見えても察しの良さは霧子並だという訳だ。
「別に君の邪魔をしたいわけじゃないんだ。でも一つだけ約束してほしい」
「約束?」
「たとえどんな真実が見つかっても、あの子の夢だけは守ってあげてほしいんだ」
☆☆☆
駅から降りて夜道を歩く最中。彗星は帰り道にある唯一のコンビニに寄り晩御飯を調達する。
ツナマヨのおにぎり二個にサラダチキン、申し訳程度のカップに入ったサラダ。追加で天然水を買ってから袋に詰めてもらい再び帰路につく。
足音が一つだけではなくなる。人気の少ない道に入った途端それは確定的なものになる。誰かにつけられている。
「ちょっと待ちなさい」
薄っすらと聞き覚えがある声に引き止められ振り返るとそこには彗星と同じ事務所のアイドル数人が立っていた。
最近人気が伸び悩んでいる子達だ。特に接点はないし帰り道も教えた覚えはない。
「葉月ちゃんだっけ? 何か用?」
「あんた最近調子乗ってない? ちょっと来なさい」
「は? 何で……」
彗星の背後、帰り道の方向から数人の高身長の男子が現れ迫ってくる。手には金属バットやスタンガンなど物騒な物を持っている。
「大人しくついてくる方が賢明だと思うけど?」
葉月は自分が完全に優位に立ったと思い、舐め腐った態度で接し彗星を廃工場へと連れていくのだった。
☆☆☆
「夢ねぇ……何か急に真面目になったな」
先程の話を弾ませ駅近くのコンビニで買った炭酸飲料を飲み干す。
「実はさ……オレ昔家族を火事で亡くしてるんだ」
「えっ……?」
家族を亡くしていることに驚いたのはそうだが、なによりこいつが俺と似たような境遇だという事実に驚愕する。
ここまで違う人柄でも似通った部分はあるのだと自覚する。
「その時に妹と両親どっちかしか助けられない状況で……オレは両親だけを選んでしまったんだ」
「そうなのか……」
責めることなどできない。俺は両親を見殺しにして妹を助けたのだから。彼を責める権利などあるわけがない。
「だから妹みたいな歳下の女の子を見るとどうしても助けたくなるんだ」
☆☆☆
葉月に連れて来られ廃工場に着くなら彗星は金属バットで背中を小突かれ地面に倒れ伏す。
「あんたのそのスカした態度が気に入らないのよ!」
葉月は倒れた彗星に追い討ちをかけるようにして顔面を強く蹴り上げる。靴の先が顔にめり込むが彗星は痛がる様子はない。あくまでも飄々としている。
「はぁ……本当にウザいわあんた。まぁいいわ今から私達でめちゃくちゃにしてあげるから。あっ、ちなみに後で警察に逃げ込んでもダメだからね。
こっちの……私の彼氏、親が警察のお偉いさんだから」
葉月は金髪でチャラそうな男の腕に抱きつく。
「なぁ葉月? こいつ本当に俺らでヤっていいのか? 一応事務所の仲間なんじゃないの?」
男はヘラヘラと薄ら笑いを浮かべつつも彗星の上に乗っかり服に手をかける。もう既にズボンにテントを張っておりあんなことを言いつつも準備はできている。
「いいよ。寧ろこいつがいなくなればその分私達が目立つし」
「じゃあ遠慮なく……おいお前らやるぞ脱がせ!」
男は友人と思わしき同年代の男達に声をかけて慣れた手つきで彗星の服を脱がしていく。
「ねぇ葉月……あんたのやってること、別に間違ってないよ」
ブラのホックまで外されパンツを脱がされかけているがそれでも冷静な態度を崩さない。
「へぇ。犯される気にでもなった? 随分と淫乱だったんだね」
後ろの取り巻きの子達も嘲るように笑うがそんなこと関係ない。彼女らはもうすぐ死ぬのだから。
「違うよ。アイドルでも何でも、トップに立つ人間はこうやって誰かを犠牲にしてその上に立ってる。だからあんた達のやり方も別に間違ってない」
パンツが半分脱げかけたところで彗星は男の腹に拳入れ二メートルほど宙に打ち上げる。
地面に鈍い衝撃音が鳴り響き男の手はあらぬ方向に折れ曲がってしまう。
「トップなんてみんな心を捨てて、人間性を捨てた奴らだよ」
最後に残った下着すらも脱ぎ捨て彗星は自分のありのままの姿をここにいる全員に見せつける。その姿に興奮する者はいない。明らかに人間のものではない力を見せられ畏怖し何人かは腰を抜かす。
「肉体だけじゃダメだ……夢のためには、心も人間を辞めないと……」
彗星の裸体が肌色から暗い灰色へと変わっていく。爬虫類の瞳に全身にある無数の口。彼女は見るだけで寒気がするような魔物へと変貌するのだった。
☆☆☆
「そういうわけで何か見つかるにしても、そうじゃないにしても彗星ちゃんを、あの子の夢を叶えさせてあげてくれないかな?」
そこには俺が霧子へ抱く想いと似たようなものが含まれている。自分を諦め他人に賭けるその自己犠牲精神が。
「言われなくても俺はあの子の味方だよ。それにしてもお前案外良い奴なんだな」
「案外って何だよ酷いなぁ……」
「それはそれとして霧子へのストーカー行為は許さないけどな」
「だからストーカーじゃないって!!」
秘密を話されてからは打ち解けた雰囲気となり、そのまま明るい気持ちのまま途中で別れ一人夜の街を歩く。
「夢か……」
あの水難事故以来夢なんて考えたことなかった。でもできたかもしれない。その夢とやらが。
霧子や彗星のような誰かの夢を守りたい。そう強く想うのだった。
☆☆☆
「や、やめっ……!!」
彗星は最後に葉月の両目を肩の口から飛び出た鋭利な舌で突き刺す。脳をも貫きぶらりと彼女の手足が垂れる。
「いただきます」
全身にある口が一頻り大きくなったかと思えば、舌がこの場にある死体を巻き取り口へ運ぶ。
「痛い……やめっ……」
まだ生きていたのか、一人がか細い声を上げるもののそれは無視されて牙を通され絶命する。
静寂に包まれたこの空間で彗星は人間の姿へと戻り返り血がつかないよう捌けていた服に手を伸ばす。
「ふぅお腹いっぱい」
服を着終わり、少々膨らんだお腹を摩り工場を後にしようとする。
「あっ……これもういらないか」
地面に落ちていたおにぎりが入ったレジ袋を回収しようとするが、もうそんな必要はなく足で踏み潰し気にすることなく工場を出ていく。
自分の夢のために誰かの夢を潰し前へと歩んでいくのだった。




