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30話 オンオフ


「兄さん。アタシ危ないことはしないでって言ったよね?」


 川に飛び込んで一時間後。俺はなんとかあの青年を助けることができたものの服はびしょ濡れで体を打って痣もできてしまった。

 青年からは感謝されたものの、びしょ濡れ傷だらけで帰ったため風呂から上がるなり説教だ。


「人を助けようとするのは兄さんらしいけど……でもそんな自分の命も危険に晒すような助け方しなくても」


「俺も分かってたよ。何か長いもので引っ張ったりした方が良いって。でも体が勝手に動いたんだ」


「兄さん……」


 霧子は唯一俺の過去を知る人間であり理解者だ。注意するべきと分かりつつも黙ってしまう。

 

「でもそうだな……お前を一人にさせるわけにもいかない。約束もあるし……俺は絶対死なないから。

 それじゃ明日早いからおやすみ」


 明日朝から探偵事務所のアルバイトがあるので話を切り上げて俺は自室に行きベッドに横たわる。

 

「もし寿命があと少しだったら……か」


 シャーロットに今日された質問。果たして本当にそうなった時俺はどんな答えを出すだろうか?


「分かるわけもねぇか」


 答えなんて見つからない上にそもそもそんな事態になった時には考えや性格自体大きく変化している可能性もある。変わらないものなんてこの世に存在しないのだから。

 天気が移り変わり雨が降り始め、ゲリラ豪雨なのか俺の睡眠を雨音が妨害する。

 

「はぁ……」


 溜息を吐きながら布団を頭まで被り意識を睡眠へと引きずり込ませるのだった。



☆☆☆



「失礼しまーす!」


 翌日の朝。探偵事務所の扉をノックしベラドンナが開けてくれる。


「やあやあおはよう夜道君」


 ベラドンナは掃除でもしていたのか衣服は整っており手からは石鹸の匂いがする。

 一方シャーロットは今起きたのか髪が跳ねており紅茶を優雅に飲んでいる。服は可愛らしい苺のパジャマだ。


「夜道さん。早速仕事を頼みます。アタシは所長の衣服を整えますのでお風呂掃除を。

 あっ、所長は綺麗好きなのでかなり念入りにお願いします」


「おう任せとけ!」


 俺は風呂場に赴き、ベラドンナはすぐ側の洗面所に彼女を連れてく。

 風呂場にはシャンプーにリンスにボディソープ。その他にも様々な石鹸や高級そうなタオルが置かれている。


「探偵ってこんな儲かるもんなのか……?」


 海外の大きな建物を買うのにも相当な額が必要だというのに、内装まで高そうなものばかりだ。探偵はそんな儲かるイメージがないため首を傾げてしまう。

 

 しばらくして浴槽の掃除が終わった辺りでチャイムが鳴る。


「夜道君! わたしの代わりに出て応接間に通してくれないかい?」


「はい!」


 俺はシャワーで手足についた石鹸を洗い流し、上がって靴下を履いて玄関まで向かおうとする。


「あっ、今からわたしが着替えるから掃除はベラドンナ君に任せて君は依頼人の相手をしててくれ」


「……いくら所長が魅力的といっても覗かないでくださいよ?」


 ベラドンナはその巨体でシャーロットを覆って素肌を隠す。


「見ないよ。じゃ行ってくるから」


 ベラドンナのジト目からくる疑惑の視線を受け流し、俺は扉を開けて依頼人と対面する。 

 三十代くらいの若い女性で、疲労かはたまた違う理由か目の下には深い隈ができている。


「所長が来るまでこちらにどうぞ。何かお飲み物とかは……」


「いえ大丈夫です。それより早く駿を探さないと……」


 駿。男の子……彼女の息子の名前だろうか?


「すみませんお待たせしました。わたしが所長のシャーロット・テイラーです。今回はどのようなご用件で?」


「息子が行方不明になって……探して欲しいんです」


 女性は数枚の写真と地図を取り出し机の上に広げる。写真に映るのは五歳くらいの元気いっぱいの男の子。

 地図はここの近くの山に赤いペンで丸がつけられている。


「行方不明になった時の状況を教えていただけるでしょうか?」


「五日前のことです。山に遊びに行ってちょっと目を離したらどこかに……」


 印がついているこの水澤山で遭難した可能性が高いということだろう。この山は中々広く道を外れたら遭難しやすい。

 恐らくは迷子になって奥へ奥へと行ってしまったのだろう。幸いこの山は危険な野生生物などはあまりいないので五日なら川の水などを飲んでいれば腹を壊すことはあれど生きている可能性は十分にある。


「警察には言ったのですか?」


「それが……言って捜索が始まったんですが……警察の何人かが山で連絡が取れなくなってしまったらしく捜索が難航していて……」


 その言葉にここら辺に詳しい俺は妙な突っ掛かりを覚える。あの山は樹海でも何でもなく一人ならともかく何人も圏外なり、ましてやプロが複数人遭難だなんて不自然だ。

 

「これは人為的な誘拐もあり得るかもね……分かりました。ぜひウチで受けましょう。依頼料の件ですが……」


 そこからはお金の話となり、一般的な額で住所や電話番号なども書いてもらい依頼を受けることとなった。


「所長。掃除が終わりました」


 女性が帰り入れ違いとなる形でベラドンナが応接間に来る。


「あぁ。今回の件はハズレだね。身なり的にも金は持ってなさそうだし二桁前半が限界だろう」


 窓から外を見て依頼人が遠くに行ったのを確認するなりシャーロットは膝を組み悪態をつく。


「えっ……どういうことだ?」


 俺はその取り憑かれたかのような豹変具合に戸惑うのだった。

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