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グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐(書籍版:悪役令嬢グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐)  作者: 万丸うさこ


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第68話 グロリアの慈悲

 A子が(めずらしいね)とグロリアに言った。


 (復讐は屈辱と後悔って言ってたのに、わりとあっさり? メロディを退場させた気がするから)


 首を傾げるA子に、グロリアは串焼きの匂いに空腹感を覚えながら答えた。


 それはA子のいうメロディがグロリアの復讐対象ではないからだ。

 復讐したかったのは〝聖女〟であって〝ヒロイン〟ではない。


 ただし邪魔だったので消した。

 その言動には煩わされもしたので、ただ消すだけではなく多少痛い思いもしてもらった。


 A子に「復讐とは何か」と問いかけた時、彼女は真っ先に肉体的な痛みと恐怖、苦痛、そして死を挙げた。

 A子と同郷の同性であり、言動から推測するにさほど年齢も変わらないであろうヒロインも、きっとされて嫌なことにそれらを挙げるはずだ。


 聖地のために徒党を組み、特に背後関係を洗うでもなく短絡的に聖地に押し入って、そこを守る人間を殺す。

 信仰という錦の御旗のもとならば何をやっても許されると思っている、浅慮で猪突猛進な人間たち。その群れに聖女を騙る詐欺師を投げ入れたら、きっと()()なるだろうと思って聖女判別の儀式の地をここに指定した。


 しかしこれはグロリアの慈悲でもある。

 屈辱を引き延ばされながらずるずると生き永らえるよりは、暴力の嵐に揉まれてもさっさと死ねたほうがよかっただろう。


 どうかなあ? とA子が首を傾げる気配をみせたのと同時に、嗚咽とともにずっと聖女への思いを吐き出していたブライアンが頭を下げた。


 「学園での、メロディの数々の非礼を……今は亡き彼女に代わって謝罪したい。申し訳ございませんでした……」


 ただ……と、ブライアンは頭を下げながら続けた。


 「聖女判別の儀式で癒しの力こそ発現しませんでしたが、怪我人を彼女なりに、一生懸命癒そうと看護したのは確かです。……俺は、彼女の一生懸命なその心には、ちゃんと聖」


 「エンベリー様、それ以上は……!」


 悲鳴のような声を上げてブライアンの言葉を遮ったのは、グロリアの背後で青ざめた顔をしたケイトだった。


 無残な最期を遂げたことでメロディをすっかり許す気になってしまったのか、はたまた残酷な結果にもかかわらず惚れた女に寄り添い続けるブライアンにほだされたのか。それ以上は不敬になるであろうブライアンの言葉を、すんでのところで止めたのだ。


 グロリアの背後から身を乗り出すように言ったケイトに、ポールは鋭い視線を投げつけた。

 詐欺師を聖女だと認める男を庇ったのだ。部下として信頼を置いているカイラの娘とはいえ、その言動を鷹揚な気持ちでは見られなかったのだろう。


 敬虔な信者でありこの地の領主であるポールが、余計な仕事を増やした詐欺師を許せるはずもない。

 しかしグロリアは、ケイトのその反応を面白いと思った。


 本当に心の中身も導き手であったなら、ブライアンとケイトの発言を神への不敬と問題視したかもしれない。けれどグロリアは彼らが誰を信奉していようが全く興味がないうえに、使えると思ったものは容赦なく使う主義である。


 「癒しの力がない以上は聖女とは認められないし、普通に弔うこともできない。聖女を騙った罪人の首は王都で(あらた)めることになるから、この地に埋葬もできない」


 そう言うと、頭を下げたブライアンの左拳の甲に血管が浮き上がった。


 串焼きの匂いと一緒に子供の声が風に乗って聞こえてくる。

 その元気な声に紛れるように声を潜め、「けれど確かにお前の言うとおりなら、彼女は人の役に立とうと努力したのだろう」と、グロリアは続けた。


 「だからただのメロディとしてなら、慰霊碑に名を刻むことはできる。救護活動中に暴漢に襲われ命を落とした、殉教者として」


 ブライアンの赤毛がパッと跳ねて、青い目がグロリアを見返した。

 信じられないものを見るような目で見てくるブライアンにゆっくりうなずくと、彼は顔をくしゃくしゃにして地面に膝をつき、泣き崩れた。


 「なあブライアン」


 ありがとうございます、ありがとうございます。泣きながら感謝を述べる男に、グロリアは紫の目を細めて言った。


 「お前さえよければ、慰霊碑を守る護衛として我が家に雇われないか?」


 「……っ!」


 彼がこれにうなずけば、エンベリー侯爵家の跡継ぎとしての華々しい未来は閉ざされる。


 導き手に無礼を働いた女を慕っていた。そのせいで教会に睨まれたにもかかわらず、聖女判別式の立会人になった。結局そうまでして信じた女は聖女を騙る詐欺師であった。

 あげくにその詐欺師が死んでも彼女を信じることをやめず、聖女を騙った女の名が刻まれた慰霊碑を守るために他家に雇われる男。


 誰がそんな醜聞まみれの男を跡継ぎにしたいと思うのか。

 王太子の側近にもなれないだろう。


 ここで見捨てるのもいいが、ケイトの反応を見て気が変わった。


 グロリアはそんな男を大事に飼ってやることにしたのだ。

 いつか役に立つその日まで。


 精神的に弱い男の一人や二人、飼い続けることなどなんの苦もない。

 そしてそんな男がグロリアの役に立つよう、破滅の舞台を整える時間もたっぷりある。


 はたしてブライアンは感激に頬を紅潮させ、背中を丸めて何度もうなずいた。


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