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グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐(書籍版:悪役令嬢グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐)  作者: 万丸うさこ


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第58話 ハトルストーン

 「……セドリックが」


 眼鏡の奥の瞳に無念さをにじませて、エイブラムが弟の名を呟いた。


 「導き手様のご領地であるはずの〝神の涙の聖地〟を、自分のものであるかのように偽造した書類を所持しておりました」


 カッとなって一歩足を前に踏み出したのはケイトだ。紅茶をいれたあとは静かにグロリアの背後に立って控えていたが、エイブラムの言葉に拳を握りしめた。


 それを片手を上げることで抑えると、グロリアは口を開く。


 「それで?」


 「……一報をもたらした者によれば、暴徒たちは聖地を導き手様へお返しするために襲ったようだ、と」


 「では教会としては咎められぬな。剣の導き手様と同じことをしているだけなのだから」


 ぐっと喉の奥から空気を潰したような音を出してエイブラムが黙った。


 剣の導き手――かつて聖人ホワイトホープがその生涯を終えたとされる聖地、ホワイトホープ山を蛮族から奪い返した他国の騎士である。

 セドリックはさしずめ蛮族だろうか。


 「死者は?」


 「報告では、どちらの陣営にも数名。父が現地に到着し、説得が成功するまではもっと増えるかもしれません」


 グロリアは口元に微かな笑みを浮かべた。嘲笑だ。


 「どうだかな。暴徒といってはいるが、彼らは聖地を取り戻すべく命がけで決起した敬虔な信者たちだろう。聖地を侵奪した男の父親の話に耳を傾けるか?」


 エイブラムが肩を落とした。グロリアの指摘はもっともだと思ったのだろう。


 セドリックがコードウェル公爵領の一部を自分のもののように振る舞って金銭を得ていたことを、グロリアは知っていた。

 それがよりにもよって、聖地に認定された場所であることも。

 知っていて止めなかった。


 そして知っていたからこそ、王太子の婚約者としての仕事で他国の大使たちと会った時に、その不安を少し漏らした。

 その不安はそよ風のように静かに他国へと広がっていったようだ。


 前世で聖女が抱いた王太子への恋心と恋敵への嫌悪をうまく利用して、政敵の娘(グロリア)を処刑させたように、ハトルストーン家は自分たちを〝管理する側〟だと思っている。


 本気で神を敬い教会とともに生きていながら、ホワイトホープ教という宗教も、その奇跡の力も、自分たちのために使うことができると思っている。


 今世ではその傲慢な万能感を手放してもらおうではないか。


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