第56話 最も答えにくいこと
「さて。ではちょうど話に出たことだし、お前にとって最も答えにくいことを聞こうか」
と、グロリアは居住まいを正して言った。
「神の涙の聖地は、なぜ襲撃された?」
グロリアの言葉を聞くや否や、エイブラムは顔を強張らせた。そして間髪入れずにテーブルの天板に額が付きそうなほど頭を下げる。
「当主は事態の収束を図るため、夜明け前に聖地へと発ちました。代わりに私が、ハトルストーン家を代表してお詫び申し上げます!」
「……ケイト、茶を」
質問に答えではなく謝罪をしたエイブラムに沈黙を返し、グロリアは背後に控えたケイトへ声をかけた。
この部屋は、簡単には人の入退室を許さない作りになっている。
この一室だけで何もかもが完結するようにできていて、トイレもあるし、簡易的なキッチンもある。人目をはばかって隠し事を話すための部屋だった。
さっと一礼してキッチンに立ち湯を沸かし始めたケイトを目で追いながら、エイブラムの後頭部にやや大きめなため息を落とした。
「ハトルストーン家を代表して、か……」
エイブラムは微かに肩を震わせたが、それ以上は反応しない。
余計なことを言わないように気を付けてはぐらかそうとするその態度は、全てをあきらめたからこそのものなのか。
はたまたたとえ紫の導き手に嫌悪を抱かれたとしても、いくばくかでも寛恕を引き出そうと腹を決めたからなのか。
「神の涙の聖地襲撃事件とでも言おうか、私はこの事件の原因に思い浮かぶものがあるが、当たっているか?」
「……おそらくは」
頭を下げたまま、うなずきとともに返事があった。くぐもった声は歯を食いしばっているからかもしれない。
「セドリックだな」
「……」
しゅんしゅんと、音が部屋に響く。
もうすぐ湯が沸くだろう。
黙って先を促せば、無念さを滲ませた低い声がうなるように答えた。
「――はい」
茶葉の用意をするケイトはこちらに背を向けていて、頭を下げるエイブラムは自分のつま先しか見えていない。
「で、どうする?」
緩んだ口元を引きしめて問う。
A子が頭を下げたままのエイブラムをそわそわと気づかう様子を見せたが、グロリアは頭を上げろとは言わなかった。エイブラムも望んでいないだろう。
「まずご説明をさせていただきたく存じます」
「いいだろう。だが」
頭を下げたまま言ったエイブラムのつむじを見ながら、グロリアは少しだけ身を乗り出し、マホガニーの天板を人差し指の爪先で叩いた。
コツという小さな音に、エイブラムのつむじがわずかに揺れる。
「私はこの件について怒っている。暴徒に襲われた聖地の者たちにとって、お前たちの事情などなんの関係もない。だからひとつも隠し立てせず、何も取り繕うことなく、誰をかばうこともせず――全てを話せ」
コツ、コツ、コツ……天板を叩くたびに、銀髪が揺れた。




