第53話 なら仕方ない
首の傷は治ったが、導き手のペンダントがまだ直らない。
それが手元に届くまでは心の傷も癒えていないということにして自宅療養を決め込み、数週間経った。
抗議文を送った各所からは責任者が謝罪に飛んできたが、導き手襲撃のことはそれぞれが公にしたくないと口を閉ざしているせいで、今のところ世間は落ち着いている。
とはいえバーナードが言うには、あれから王太子やメロディたち、彼女を聖女だと言っていた一部の学生の姿を見かけないらしい。
学園は妙な静けさに包まれているようだ。
「昨日は殿下の側近候補の方から――あ、エンベリー先輩ではない方から、お義姉様宛の手紙をいただきました」
朝食をとっていると、同席していたバーナードが今さっき思い出した、といったふうに軽い口調で言った。
「差出人が無記名でしたので、そのような正体不明の手紙を導き手たるお義姉様に渡すのは防犯上よろしくないとお返ししました」
にこーっという文字が頭上に出そうなくらい笑って、バーナードが続けた。
正義感が強い彼は、今回のことでメロディをつけあがらせたエドワードたちにかなり怒っているようだ。
(ねえそれってもしかしてエドワードからの手紙じゃ……)
「なら仕方ない」
「ですよね。ちょっと怪しいと思いましたので、事件を調査している騎士にその側近候補の名前をお知らせしておきました。……怪しいものはとことん調べて、場合によっては罰せねばなりませんから」
真面目なバーナードらしい言葉に、グロリアはうなずき微笑んだ。
口に含んだ朝の紅茶が、爽やかに鼻に抜けていく。
なぜかA子だけが脳内で慄いているが、朝食の席にはこれ以上ないほど和やかな空気が流れている。
が、その雰囲気をぶち壊すように眉間にしわを刻んだ叔父が乱暴に扉を開けて入ってきた。
「神の涙の聖地が暴徒に襲われた。負傷者も出ていてひどい状況らしい」
叔父の言葉に驚いて立ち上がったバーナードに合わせて、グロリアは紫色の瞳を見開いてみせる。
けれど内心は、襲われたのはそちらか、と鷹揚にうなずいていた。




