第47話 メロディ・フォン・ソールズベリー
「そんなふうに権力にたよって上から目線でいじわるばっかり言うから人望なくしちゃうのよ!」
絶句。
周囲が……エドワードやブライアンでさえも、凍りついたように動きを止めた。
言われたグロリアはといえば、常日頃から脳内の亡霊が同じような口調でやいやい言ってくるのに慣れていたため動揺はない。
(や、やめて! あんなんじゃないよさすがに!)
ヒーッ! とA子が悲鳴を上げた。
「エドワード様の婚約者だからって、あなたが偉いわけじゃないんだから! カン違いしていばっちゃダメ!」
メロディは突きつけた人差し指をピッピッと振って続けた。
「アクセサリー禁止、華美な格好禁止! みーんな校則を守ってガマンしてるのに、グロリアだけルール破っちゃダメじゃない!」
前世でも聖女は似たようなことを言っていたが、さすがに一定の礼儀は守っていた。王太子に対しては馴れ馴れしかったが、あれはそれを許したほうが悪い。
「私はお前に名を呼び捨てることを許した覚えはないが?」
「校則違反する悪い子に、そんないじわる言われたくないわ!」
腰に手を当ててもう一度ぷくっと頬を膨らませると、ハッと何かに気がついたように「あ、そっかー……」と悲しそうに目を伏せた。
「そうやって違反ばっかりしてるから、何が悪いのかわかんなくなっちゃったんだね。だからグロリアは王子の婚約者って立場を利用して横領なんかする子になっちゃったんだ……かわいそう」
(ね、この子なに言ってんの? 頭ヤバない?)
何かしらの共感性羞恥が働いたのか、そわそわしながらA子がメロディにつっこんだ。
まあな、と脳内のA子にうなずく。
だがこれでメロディがA子と同じ、ゲームの知識を持った転生者であることが確定した。
ただし、このメロディの中の亡霊はA子の言うようにだいぶヤバい。……A子が使う特殊な言語にもだいぶ慣れた。
このヤバい言動を自由にさせているということは、聖女本人の意識はないのだろう。
この世界や貴族社会の常識を全く知らず、学ぼうという気もない。今世の物事の流れを掴むどころか見もしていないのだから。
彼女は――転生者のメロディは、目の前の人間を頭の中で知っている情報でしか見ることができないようだった。
たとえば〝グロリア・フォン・コードウェルは公爵家の権力を使ってわがまま放題するお嬢様であり、自分を飾り立てるために公的資金を横領している悪役令嬢である〟と。
まさか「校則違反」と指摘した装いが、紫の導き手としての正装であり国家間の重要な式典でも通用するものだとは思いもしていないし、さらにまさかグロリアが〝紫の導き手〟だとは考えもしていない。
だってグロリアは悪役令嬢なのだから、平民のためにひとつだって良いことをするわけがない。
もしかしたらグロリアの善行は彼女の耳に届いてすらいないのかもしれないし、〝紫の導き手〟という存在自体を知らないのかもしれないが。
メロディの頭の中には〝乙女ゲーム〟のエピソードしか詰まっていないのだ。
自分が聖女になれなかったこと。
一学年下に入学してくるはずのアランが、バーナードだったこと。
ケイトが自分を助けてくれないうえに、貴族の令嬢になっていること。
セドリックが眼鏡をかけておらず、なぜか登校してこないこと。
数え上げればきりがないゲームとの差異を、彼女は全く気にしていない。
周囲の絶句を意にも介さずグロリアに大きな態度で接するのは、自分はこの世界のヒロインなのだからどんなことをしても最終的にはハッピーエンドを迎えられると信じているからだろう。




