第45話 くれぐれもよろしく
「勝手に自分を聖女だと言い出すのも問題ですが、学園の生徒たちがそれを信じることも問題ですね」
心底わからないといった顔をしたエイブラムが、腕を組んでうなった。
「聖女判別式を経なければ聖女と認められないことも、聖女を騙って金銭を得ようとする聖女詐欺のことも周知されていると思っていましたが」
啓発活動がどこかでおろそかになっていただろうか……とエイブラムが首を傾げるのを見て、グロリアはふと気づいた。
〝メロディ=聖女〟と認められるこの流れを、今までグロリアとA子はゲームの強制力ではないかと思っていたが、そうではないのかもしれないと。
実は同年代にグロリアが導き手として教会に認められたことこそ、生徒たちがメロディを聖女だと認める原因の一端なのではないだろうか。
聖女も導き手も、本来ならばほとんど伝説の存在だったのだ。
それがなんと同じ学園に導き手が通っている。もしかしたら本当に聖女だって……という気にもなるだろう。
「もちろん胡散臭いと思う生徒もいる」
そういう者たちは、紫の導き手のグロリアへ確認しにくる。そしてグロリアが「彼女は聖女判別式を受けていない」と言うと納得した顔をして、メロディが聖女であるとは二度と口にしない。
メロディの話が教会にまで伝わっていないのは、聖女を信じている生徒たちのなかにも一抹の不安があるからではないだろうか。
もしも学園の外へ広めてしまったにもかかわらず教会から「メロディ・フォン・ソールズベリーは聖女ではない」と断言されてしまった場合、聖女詐欺の片棒を担いだことになる。
話を学園の中で収めていれば、ただあだ名を呼んでいただけ……で済む。
もちろんただの女子生徒にそんなあだ名をつけることは不敬であるし、教会からの注意の対象にもなる。しかし注意で終わるだろう。
聖女詐称は重罪であり、偽聖女は死刑に処される。場合によっては祭り上げた周囲の人間も斬首されることがある。
危機感を持つのも道理だろう。
「これ以上騒ぎが大きくなる前に、教会で呼び出して儀式を受けさせてほしい」
本当に聖女ならば慶事だし、違ったなら違ったで学園の混乱を収めることができる。
詐欺師のせいで人生を失うかもしれない多数の生徒を救うこともできる。
そう言うと、エイブラムは気を引きしめた表情でうなずいた。
「導き手として、いち信徒として、私は神を利用し承認欲求を満たす輩を許すことはできない」
グロリアの言葉は正論である。
そして教会としては、導き手にそう言われたらしっかり調査をしないわけにはいかない。
「セドリックにくれぐれもよろしく」と告げて、グロリアは教会を後にした。
エイブラムは引きつった顔をして深々と頭を下げ、グロリアを見送った。
ハトルストーン家にとってこの言葉は痛かろう。次男がグロリアに大きな迷惑と損失を与えているのだ。
挽回するためにも厳しく事に当たるだろう。
これで聖女は教会からも、教会派閥の貴族たちからも厳しい目で見られることになった。




