第44話 王太子の理想の女性像と、挟まる異物とブライアン
〝王太子の理想の女性〟とは。
一般的な貴族女性よりも表情が豊かで、小柄でかわいらしい顔立ちをしている。
王太子という肩書ではなくエドワード本人をちやほやし、ほめそやし、次期国王としてのプレッシャーや出来の良い婚約者と比較されて傷つき疲れた自分を優しく癒してくれる女のことである。
コツを掴めば心を掴むのも簡単だったと、メロディと同じく王太子の好みのタイプを演じるケイトは言っていた。
もしもメロディに転生者としての知識があるならば、ケイトよりさらに簡単に王太子を転がせたはずだ。
そしてこれがエドワードの理想だというのなら、さぞかしグロリアは的外れだっただろう。
前世では〝褒められたいならそれなりの成果を目の前に持ってこい〟という態度を隠しもしなかった。露骨に表に出すことはないが、今世でもそう思っている。
処刑されるほど嫌われるのもさもありなん。
「お怒りはもっともです。教会は聖女判別式をしないかぎりどんな女性も聖女と認めることはありませんし、導き手様以外の者が未来の王妃になることを良しとはしません」
ゆっくりと話すエイブラムの口調に、ケイトは急上昇した血圧を下げるよう大きく深呼吸してから口を開いた。
「殿下がはっきりとソールズベリー嬢を遠ざけてくださればよいのですが、その気はないようです。むしろエンベリー様によって私のほうが遠ざけられそうで……」
うんざりした様子で、ケイトはそばかすの散った顔をしかめた。
エドワードは両手に花でご満悦だが、どちらかといえば聖女であるメロディを寵愛している。そして騎士の卵であるブライアンは、将来の主であるエドワードの意を汲んで同じようにメロディを大切に扱っていた。
そんなブライアンにとって、ケイトは聖女様とご主人様の間に挟まる異物でしかない。
ただしケイトのことは嫌っているが、グロリアのことは認めているらしい。
血統の正しい(しかも導き手として教会に認められた善良で神聖な)女性が王太子の婚約者であることは納得していて、敵意はないようだ。
これは前世との明確な違いだった。
前世では王太子がグロリアに罪を突きつけた瞬間に問答無用でグロリアの腕をねじり上げ、床に引き倒して牢獄へと引きずっていったのだから。
騎士ならば、王太子に命じられれば従うのは当然のことだろう。しかしそのやりようは決して騎士ではなかった。
彼はただ、ご主人様と聖女様の間に挟まる異物であるグロリアが、親愛なる聖女の顔を傷つけたことが許せなかっただけだ。
そしてそれを公の場で隠すこともできなかった、ただの未熟者がブライアン・フォン・エンベリーという男だった。




