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グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐(書籍版:悪役令嬢グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐)  作者: 万丸うさこ


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第38話 信用と信頼、パンと紙切れ

 今世のセドリックが変わったところは裸眼になっただけではなく、貯蓄の対象が知識から金に変わったことだ。


 「今日の装いも見事なものだな」


 地味だが最上級の生地を使った服を着て、時計や靴などの小物も手抜かりがない。

 昔父が大威張りで見せてきた腕時計よりも高級だろう。当主として差配していたときの父よりも、今のセドリックのほうが大きな金庫を持っているようだ。


 「ありがとうございます。今日のあなたの良き日のために、特に色にこだわったんですよ」


 ちらりとみせた腕時計の文字盤は派手すぎない紫で、黒い服の袖口を彩る刺繍は金糸だ。セドリックの銀髪に似合ってはいる。

 婚約者であるエドワードよりも、きちんとグロリアの色を取り入れた装いであった。


 (婚約者じゃないのに、それはちょっと、どうかなって思う……)と、しゅんとしながら思わずこぼしたA子の言葉に賛成しつつ、グロリアはセドリックのこだわりに鷹揚にうなずいてみせた。


 「その信仰心の厚さには驚くばかりだ」


 「あなたのおかげです」


 にこにこと音が出そうなほど機嫌よく笑うセドリックの顔立ちは、今日の式典で裏方として走り回っていたハトルストーン伯爵や、新司教の側についてグロリアに微笑みかけていた嫡男のエイブラムと比べてずいぶんと俗っぽい。


 「紙幣とはただの紙切れでしかないのに、書かれた数字と同じだけの価値が存在するのは、そこに信頼と信用があるから……あなたがあの日におっしゃった言葉が、僕の信仰の在り方を強固にしたのです」


 茶会で初めて会った日にグロリアに言われた言葉が、幼いセドリックにはかなりの衝撃だったらしい。ただ、神のために作られた酒を〝売る〟という行為に抵抗感も覚えたようだ。

 二度目に会った時に「神の教えを広めるために作った酒を、なぜ無料で配らないのか」と聞いてきた。あまりに間抜けな問いだった。


 セドリックは与えられた課題のその先の問題を考えることができない人間だったのだ。

 考えることができないのならばせめて知識を蓄えよ、と聖女が助言したくなるのもよくわかる。


 だから〝紙幣と信頼〟の話をした。

 理想だけがあって自分でものを考えることができないのならば、その思考を誘導するのは簡単だ。


 神の存在は目に見えない。けれどその偉大な存在を疑うことがないのは、神が創ったという人間や動植物、大地や海がこの世界に存在しているからである。


 紙幣も元はただの紙であり、本来ならば素材の価値しかないはずだ。

 それなのにただの紙きれ以上の価値が存在するのは、それで同価値とされる物を買えるからである。

 

 紙切れにお金としての価値があると信用し、信頼があるからこそ、人はパンと紙切れを交換するのだ。


 そしてその信用と信頼は、それを発行した国への信用と信頼であり、その国を国として承認した教会への信用と信頼であり、教会が崇める神への信用と信頼である。

 つまり神への信用と信頼が目に見える形で現れた物が、紙幣で交換したパンなのだ。


 紙幣を――もっといえば金を集めてそれで物を買う行為は神への信用と信頼、つまり信仰を可視化させる行為である。


 人は目に見えないものには不安を感じるが、はっきりと見聞きできるものは信じることができる。


 「信仰や信頼は目に見えないが、だからこそ目に見える形で民に示すことが重要だ。私が神の涙で得た利益を病院の建設や研究所への投資といった目に見える形で還元するのも、セドリック殿がその装いに気を使うのも、信頼の可視化という部分で根は同じだ」


 ……と、こちらの世界よりも通貨や経済というものの仕組みがはるかに進んだ世界で生きていたA子が思わず眉に唾をつけたくなるような意見を、グロリアは大真面目な顔をしてセドリックに告げる。


 「このような素晴らしいものをいただいておいてこんなことを言うのはなんだが、私にとって神の涙は結局のところ多くの資金を集め、それ以上に多くの信仰の証を可視化させるための手段に過ぎない」


 首からさげた導き手のペンダントを両手でもてあそびながら、グロリアは困ったように眉を下げた。


 「誤解を恐れずに言えば、金を集めることは信仰を集めることだ。神のために作った酒を販売し、流通させることは巡り巡って信仰を集めることになる」


 「もちろん承知しています」


 秘密を共有するように声を潜めれば、セドリックも同じように密やかな声で同意した。


 「大事なのは集めた資金を……信仰を、誰のため、何のために使うかだ。だから大いに金儲けをしてもらいたいと思っている」


 大きく「お任せください」とうなずいたセドリックの緑の瞳は、父が健康だったころ、うまい話があるといってすり寄ってきていた胡散臭い投資家たちと同じような笑顔に歪んでいた。


 知識を蓄えることに夢中になって視力を落とし眼鏡をかけていたセドリックは、その知識を聖女と王太子の不貞の隠蔽と父の罪をグロリアに着せるために使った。


 眼鏡をかけずに胡散臭い投資家と同じような顔つきで笑うようになったセドリックは、何のために集めた()()を使うのだろうか。


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― 新着の感想 ―
まあ、紙幣が信用と信頼ありきの存在だというのは間違ってはないのでよろしいのではないでしょうか。 A子ちゃん、他人に冤罪かけるようなクズに眼鏡は勿体無いって思いましょう! と、同じ眼鏡キャラ好きとして…
努力も出来て記憶力も有るタイプの馬鹿か…
投資家「トンダトバッチリダ」
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