第34話 四年後
アラン親子が処刑された日から四年が経った。あと二ヶ月後には一度目の人生を終わらせた場所、〝乙女ゲームの舞台〟である王都の国立学園へ入学することになる。
前世ではこの頃、王太子の婚約者教育とその先の王太子妃教育を受けていた。しかし今世でその学びは不要である。
一度会得したものを斬首されたくらいで忘れるようなグロリアではない。
王家の教育係からさっさと合格点をもぎ取って自由に動き回る様子を見ていたA子が、「転生チートだ!」と喜んでいたのが印象深い。
そしてつい先日、グロリアが開発した酒が〝神の涙〟として教会から正式に認められた。
この酒を開発した目的が〝神の教えを平民にも行き渡らせること〟であったと世間に広まると、グロリアの評判は前世よりもはるかに高くなった。
A子の世界と違ってこちらの世界の宗教は、ホワイトホープ教しか存在しない。
世界中の人間が属する宗教に認められたグロリアは、今世において前世の聖女に勝るとも劣らない名声を得た。
王太子の婚約者としてグロリア以上の人物を見つけることは、それこそ聖女でも現れない限りは不可能である。しかしメロディが聖女になる芽はすでに摘んでいるし、ユニコーンのように伝説上の存在である聖女をまじめに探す者はいない。
前世ではグロリアに対し〝後ろ盾になり得る高位貴族の娘〟程度の扱いだった我が国の王族も、グロリアを得ることで教会の力を取り込むことができるとあって今世では下にも置かぬ扱いだ。
その違いに苦笑を禁じ得ない。
そんなグロリアに対し、いまだに「押し付けられた婚約者だ」「王太子という肩書に惹かれた女だ」と不貞腐れた態度をとるエドワードの評判は、はっきり言って悪い。
婚約者選びの茶会で初めて会った時から、その態度は変わらない。
茶会の席でグロリアがエドワードを放りセドリックと酒の話ばかりするので、彼の機嫌は目に見えて悪くなった。
グロリアのことなど視界に入れるのも嫌だという態度をとるくせに、こちらが同じように全く相手にしていないといじけたように見てくるのだ。
エドワードは前世と変わらず状況を把握できず、己の心情を律することもできない未熟者であった。王太子の教育係は何をしているのか。
だからうっとうしいことこの上ないエドワードの相手は、子爵令嬢として茶会に来ていたケイトにさせた。
ケイトが茶会で着たドレスは前世で聖女が着ていたものだ。今世ではアランとシンディの転落のきっかけとなった、あのピンクのドレスである。
あんなことがあったのでグロリアが着るのははばかられるが、せっかく作ったものだしグロリアよりも似合うだろうという理由であのドレスはケイトに下げ渡した。
グロリアと違って子リスのようにちょこまかと動き表情をくるくると変えるケイトに、エドワードはすぐに夢中になった。
その時はただ友達として仲良くなっただけといった様子だが、そのうちケイトを恋心をもって見るようになるだろう。
なぜなら元孤児で男爵家に引き取られたメロディと、元平民で子爵令嬢になったケイトは系統がよく似ているからだ。
前世ではケイトはグロリアが連れていたメイドの一人でしかなかった。
王太子と聖女が最も接近することになった学園では、グロリアが授業を受けている間に聖女と密会し、友情を深めつつ情報をやり取りしていたようだ。
今回のケイトは貴族として入学するので授業も受ける。自由に動くことはできないだろう。
聖女になり損ねた孤児は貴族しか入れない学園には入学できないのだから、今世で聖女を警戒する必要はない。
だが聖女がいない学園では、エドワードが別に〝真実の愛〟を見つけてしまう可能性もある。
学園でエドワードがどう動くかわからない、というのは避けたい。
彼を監視する人物がいる。監視、つまりスパイが必要だ。
だから聖女によく似ているケイトは、エドワードにあてがうのにとても都合がいい相手だった。
ケイト本人は尊敬するお嬢様への王太子の態度に怒りを覚え、嫌っているようだが、そのグロリアから頼まれてしぶしぶ嫌いな相手に笑顔を見せている。
気が強いくせにナイーブな権力者の相手など面倒だろう。
さて、ケイトは不本意な相手に対してどこまで自分を殺して尽くすだろうか。




