第31話 変わらぬ性質と形相
不満というよりも、反省点があると言ったほうが正しいだろうか。
まさかここまでアランのこらえ性がないとは思わなかったのだ。
予定では我が家の使用人として親子を雇うつもりだった。もちろん父の子供としての貴族的な権利は一切与えずに。
そして叔父の息子、バーナードを父の養子にして次期公爵とし、アランをその下につける。
本来だったらバーナードの持つ物は全部自分の物だったのに、母の過ちのせいで平民の使用人として何も持たない日々を送るのだ。
養子にすぎないバーナードへ頭を下げ続ける。当主の血を引く自分が。
老いて死ぬまで。
はたして一瞬で首を切られて死ぬのとどちらが苦痛だろうか。
死に救いがあることを、二度目の人生を送るグロリアは知っている。
だが得られたものもあった。
父もアランも、一度目の人生で彼らの中に見た性質は何も変わっていなかった。
前世で父は公爵家当主という己の地位が危ぶまれた途端、グロリアを切り捨てた。
グロリアを確実に処刑したいがために王太子たちがコードウェル公爵家の捜査を計画していることを知り、父は娘に自分の罪を着せて彼らに差し出したのだ。
コードウェル公爵家の面子を考えたなら、投獄されたグロリアを助けるために戦うべきだった。
聖女を傷つけたとはいえ本人が〝平等〟を謳っていたのだから、聖女を理由に罰を与えることの矛盾は明白だし、彼らの不貞を問うという正当な反撃もできたはずだ。
ただ唯々諾々と罪と罰を受け入れた公爵家を尊敬する貴族はいないし、戦わない当主を畏れる者もいないだろう。
小規模ながら、今回ほとんど同じことを父はした。
自分の愛人がどこかの貴族を傷つけた犯罪者となったこと、その息子を公爵家の跡継ぎにと推していたことで、当主の資質を問われると思ったのだろう。さっさと彼らを切り捨てた。
アランのこともグロリアのことも、ついでにシンディのことも、父は自分の立場が悪くなったら切り捨てる人だった。
前世のアランも父によく似ていた。彼は義姉が父の罪を着せられ斬首されると知っていながら無視をした。
そうすれば新たな愛人の子供を次期当主に……などと言い出すことなく、父は必ず当主の座をアランに渡すだろうし、その間の自分の願いを二つ返事で叶えるだろう。
そして望むものを差し出した父と黙認したアランを、王太子たちは悪いようにはしないはずだ。
今世のアランも同じことをした。
執務室に入ってきた時、グロリアがいるとわかっていて無視をした。いつも通り父が自分の望みを叶えるだろうと思って、見せつけるようにグロリアを無視して父に甘えてみせた。
誤算だったのは面倒ごとから逃げを打つ父の薄情な性質に気づけなかったことだ。
屈辱と後悔。その原因となるのはグロリアではなく、彼らの変わらぬ性質であるべきだ。そうなるように計画を立てている。
アランがさっさと死んでしまったのは残念だったが、今世でもその性質は変わらないのだということが確認できただけでも良かったと思おう。
父にペーパーウェイトを投げつけるに至るまでの間、それなりに屈辱は味わっただろうし、死刑の瞬間は後悔もしたはずだ。
死刑は二人並べて行われ、先に逮捕されたほうから順に執行されるのが通例だ。
憲兵は罪が重いアランのほうから首を切るかどうかお伺いを立ててきたが、グロリアは特に口出しをしなかった。
だからアランの目の前でシンディは首を切られたはずだ。
自分の短慮のせいで母親の首を切られた、自分のせいで母親は死ぬのだ。それを見届けてからアランは首を切られた。
死後硬直で固まった生首の形相は――。
思い出して、グロリアは鏡へ優しく笑いかけた。
A子が震え、黙ったのがわかった。




