第23話 仲良し
アランは相当以前からこの屋敷に通いなれているようだ。
それは執事のアランへの態度、護衛騎士や侍女たちのアランへの慣れ、迷う様子を見せずに父のもとへと直行するアランの態度からよくわかる。
彼の母と一緒に、父とこの屋敷で何度も過ごしたことがあるのだろう。
父に付いている使用人たちが当主と愛人との子供の訪問を当然のように受け入れているのに、当の父がまるでおぞましいものを見るかのようにアランを見ている。
捨てたはずの人形がいつの間にか手元に戻ってきてしまった。そんな怪奇現象を目の当たりにしているような表情だった。
「おい、誰がここに入れた? 入れるなと命じていただろう」
頭痛をこらえるように目頭を揉みながら、父は吐き捨てた。
飛び回る羽虫を追い払うように手を振る。
父親の冷たいその態度に、アランの目はこぼれ落ちんばかりに見開かれた。
アランは当然いつものように、父に歓迎してもらえると思って来たのだろう。
急にコードウェル家に行かなくなった母から何かは察してはいたかもしれないが、顔を出せばある程度の許容はみせてくれるはずだ。
そして困っている自分たち親子の力になってくれるだろう、と。
「つまみ出せ」
父の言葉に、アランは何かを大事そうに抱いていた両手を胸に寄せ、見開いた目に涙をためて声を詰まらせた。
薄い肩をぎゅっと縮こまらせて父親の容赦ない言葉に耐える子供の姿に、壁際に控えた侍女たちから小さくため息が漏れる。
彼女たちはアランが来るたびに彼の世話をしていたのだろう。
「そう冷たくせずともいいではないですか。父上の子なのでしょう?」
グロリアがそう言うと、侍女と執事がパッと顔を明るくさせた。
本妻の子供と愛人の子供が意図せず出会うという、本来あってはいけないことが起こってしまった。だがそれを彼らは何も疑問視していない。
そして何よりも問題なのは、自分たちの好意が公爵家の正当な跡継ぎであるグロリアではなく愛人の子供であるアランに向かっていることを、当人たちが自覚していないことだ。
その疑問すら持てないのは、この家の当主の好意がグロリアよりも愛人との子供に向かっていたことが原因だろう。
当主である父がこれまでアランを特別扱いしていた。当主の意向を汲んで行動しているのだから使用人たちは疑問を持たない。
前世にすんなりシンディが後妻として納まったことも、アランが家中からなんの反対もなく後継者の座に座ったことにも合点がいった。
「跡継ぎにしようとすら考えたかわいい息子が、わざわざ会いに来たのです。話くらい聞いてやるべきではありませんか」
前世であればこの礼儀知らずな子供を追い払うよう真っ先に護衛騎士へ命じたはずだが、今世では一目で彼を嫌っているとわかるような、そんな直接的なことはしない。父の代わりに悪役になってやる気はないのだ。
処刑台に乗せられたグロリアを、二人は寄り添うようにして見下ろしていた。
父の不正に気付いていないはずがないのに見逃していた息子。
娘に己の罪を着せて当主の座を守った父。
それを知らないはずがないのに見て見ぬふりをした息子。
黙っていた息子に満足げだった父親。
ずいぶんと仲が良い。
きっと今世でも仲良しだったはずだ。
だから、じっくりと、この二人の親子の絆を見せてもらおうではないか。




