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グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐(書籍版:悪役令嬢グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐)  作者: 万丸うさこ


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第20話 問題外です

 「平民に酒など必要ない!」


 グロリアが父の執務室を訪れ報告書を渡すと、父は目をつり上げて怒鳴った。


 「下手をすれば教会ににらまれかねないではないか!」


 父が怒りに任せて握りつぶしたのは、新たな酒開発を任せたポールからの報告書だった。

 あれから三ヶ月で必要な施設を全部作り終え、研究に着手した。とはいえ答えはすでにA子の知識からまとめたものがあるのだから、さほど苦戦はしなかったようだ。


 叔父にも話をし、できる限りのサポートをするように一族に通達したうえで使えそうな人材も送り込んだ。ついでに稲作の研究も始めたそうだ。


 A子の知識だと米作りや収穫を抜かすと、日本酒は約二ヶ月でできるらしい。

 〝おいしい日本酒〟は、無理にしても〝日本酒っぽい酒〟は王太子の茶会までには間に合うだろう。


 平民に向けた新しい酒造りは、今のところその全てが順調である。

 そして父はそれが気に入らない。


 たとえば酒造りの発案が父であったなら、きっと上機嫌でこの報告を受け入れただろう。

 もしくはこの企画の関係者がグロリアと現場の監督をしているポールだけだったら、もう少し聞く耳を持ったかもしれない。


 ただその計画が自分の全く知らないところで決まり、その計画の中枢に大嫌いな弟もいて、着実に結果が出ていることが気に食わないのだ。


 丸めた書類をグロリアに投げつけると、激昂して立ち上がっていた父は大きく肩で息をしてから椅子に座った。


 書類をよけた拍子に見えたのは、グロリアの背後に控えたケイトだ。彼女は父以上に大きく肩をいからせていた。


 「報告書にもあったように、現地の教会は新しい酒を歓迎しています。叔父上も教会伯爵と何度かお会いして悪くない感触だとおっしゃっていましたが?」


 父が何を不満に思っているのか、わかっていてあえて首を傾げる。父の顔にさっと朱が走った。


 「まだ若いのでどこまで話が通じるかはわかりませんが、私も今度の茶会で教会伯爵の次男、セドリック殿に話す予定でおります。よほどのことがなければ、教会からにらまれる事態にはなりません」


 グロリアよりも青みが濃い父の紫の瞳が、煮えたぎるようにぐらっと揺れた。


 「コードウェル家の娘が、王太子殿下の婚約者選びの茶会で金儲けの話などするな。ハトルストーン卿も迷惑だろう!」


 「金儲けではなく、信心の話です。それに、伯爵から叔父上に〝当日は次男をどうぞよろしく〟と挨拶されたとうかがいました」


 本来ならば教会伯爵ことハトルストーン伯爵からの挨拶はコードウェル公爵家の当主である自分が受けるべきなのに、弟が受けていたこと。さらには大事な王家の茶会で、自分の娘の行動予定まで組んでいること。

 これらの屈辱に唇を引き結んだ父が、口の端から絞り出すような声を上げた。


 「お前は……殿下の婚約者の座を爵位の足らん他の娘に譲ってもいいのか」


 「私に殿下の婚約者の座を狙え、と? 父上、それは無理でしょう」


 思わず鼻先で笑ってしまった。


 「我が家には私しか後継者がいないのですから」


 なぜなら……と、笑顔でグロリアは続けた。


 「父上の愛人は貴族への傷害罪で捕まったと聞きました。さすがに犯罪者の息子を我が公爵家の次期当主として迎え入れるわけにはいかないことくらい、おわかりですよね?」


 叔父上も問題外だとおっしゃっていましたよ。


 わざとそう付け足すと、父の口から砕けんばかりに歯を食いしばった音がした。


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