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グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐(書籍版:悪役令嬢グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐)  作者: 万丸うさこ


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第19話 羽音

 (あのさ……)


 報告書を読み終えケイトを退出させ、ベッドで目を閉じたら、A子がおずおずと話しかけてきた。

 ルール違反だが、まあ日中に口をムズムズさせながらも黙っていたので、A子としては我慢したほうだろう。


 グロリアに叱られないとわかったA子は、少しほっとしたように言った。


 (今日着てた普段着? の、ドレスの袖……フリルのやつ)


 パッと脳内に今日の装いが映像として流れる。


 袖のフリルに隠すように打たれた銀色の針。

 ドレスを触る時にわからないよう花の刺繍に針を埋もれさせたグロリアの指先。


 ケイトとカイラの引っ越しで引き取った荷物。

 古い裁縫箱。

 一本だけ抜き出された針。


 (どうして……?)


 指先に膨らんだ血液。

 青ざめて頭を下げる針子たち。


 グロリアは巻かれた布の上から傷ついた人差し指をぐっと押した。

 微かに違和感を覚える程度で、今はもう痛みはない。


 もしも……と、グロリアはA子の疑問に頭の中で答える。


 もしもシンディがグロリアの厚意を利用して父へ復縁を願いに来るなら、それでもよかった。

 A子の世界ではストーカーというらしいが、捨てられた平民女が貴族男に執着し、追いかけ回すのはこちらの世界でもよくある。もちろんそれが男女や階級が逆でもよくある話。


 そしてそれを咎められて切り捨てられることも、ありふれた話だった。

 それならそれで、アランにそれなりのダメージを与えられただろう。


 ある意味一本気で融通が利かない前世での自分の性質を、今世のグロリアは反省したのだ。


 一つきっかけさえあれば道筋はいくらでも付けられる。そして相手がどの道を選ぼうが、確実にグロリアが望む結末を用意する。

 そういう機転の利く人物を目指すグロリアにとって、シンディはいい実験台だった。


 いかなグロリアとて練習なしでワルツを完璧には踊れない。


 (でもそんな……濡れ衣を着せることまでしなくても)


 針でチクリと刺すような非難がましいA子の言葉を、暗闇の中でグロリアは笑った。


 「私はそれで処刑されたが?」


 断頭台で聞いた蠅の羽音が耳によみがえり、A子がぐっと黙った。


 耳障りな音だったが、不思議とよく眠れた。


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