表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/85

第18話 心の天秤

 夜、グロリアはコードウェル家の騎士と憲兵からの報告書に目を通していた。

 寝る直前なのでグロリアはベッドに腰かけナイトウェア姿だが、その報告書を持ってきたケイトはきちんとメイド服だ。


 「ふむ……」


 急いだらしくやや乱れ気味の文字を追いかけながら、グロリアは顎に手を添えてうなずいた。


 「シンディという針子が〝貴族の令嬢を傷つけた〟と店のオーナーに付き添われ出頭してきたそうだ」


 「私は納得できません! お嬢様のお肌を傷つけておいて、針子のクビひとつで許すなんて!」


 差し出された報告書を受け取りながら、ケイトはふんっと鼻息荒く言い放つ。


 「そう言うな。貴族に対する平民の犯罪は重罪だが、自首があれば罪を軽くしてやれと憲兵に根回しをしたのは私だ。あれらのドレス作りの腕は、廃業に追い込むには惜しい」


 「それにしても温情をかけすぎでは……。ほかの貴族家だったらその場で切り捨てられていても文句は言えないんですよ! 平民にはそのくらいのことなんですから!」


 前世ではその身分差が嫌で、平等を謳う聖女に味方しグロリアを裏切ったのではなかったか。ケイトは唇を尖らせてドレスメーカーの罪をなじった。


 「しかもしばらく牢屋に入ったあとはもう一度雇ってもいいだなんて、それも甘いと思います」


 「だが、平民は職がなければ困るのだろう?」


 平民が罪を犯して失職しようが、そのせいで再就職もできなかろうが、グロリアには全くどうでもいいのだが、グロリアは内心を隠して慮る。


 首を傾げるグロリアに、ケイトはむぅ……っと喉の奥で潰れたような声を上げた。


 とはいえ、シンディがもう一度古巣のドレスメーカーに雇われることは簡単ではない。


 彼女たちは〝元犯罪者〟を雇う店が、貴族たちからどんな目で見られるかをわかっている。それがシンディの刺繍の腕では補いきれない損失を生むことも。

 しかしオーナーやその他の針子たちには、シンディを人身御供に差し出して自分たちは罪を免れたという罪悪感もある。


 損失と罪悪感。

 天秤はどちらに振れるだろうか。


 どちらにせよ、再雇用には心理的にかなり困難が伴うはずだ。


 「不祥事が他の貴族様の……それどころか旦那様の耳にまで入らないように、公爵家の関係者や憲兵たちに口止めもしたと聞きました」


 父は平民には厳しいからな。と、グロリアはうなずいた。


 「悪意があったわけではないし、あれらの服作りの腕を私は買っている。会ったことはないが、あのドレスの刺繍をした針子の腕もな。可能ならその腕を潰すようなことはしたくない」


 シンディが職にあぶれたら、グロリアは()()()()()()優しく彼女を公爵家の針子の一人として雇うつもりだ。

 当然その息子のアランも一緒に面倒をみようではないか。


 路頭に迷わせたりはしない。ずっと手元に置いて管理する予定だ。


 「……お嬢様は、優しすぎます」


 目を潤ませたケイトに白けた視線を送りそうになったが、耐えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
義弟はともかく、シンディは主人公が復讐するほどのキャラかな? 大貴族の父親がシンディを見初めたんだろうし、シンディからしたら不可抗力では? 義弟は価値観が凝り固まってるらしいから仕方ないとして、シ…
[一言] >それにしても温情をかけすぎでは……。 その「温情(実際は打算)」で母親(平民)を救ってもらったのは誰? コイツも順調に「高位貴族令嬢の専属メイド(平民出身)」としてのプライド(優越感)で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ