第17話 だ、あ、れ?
「お前たちは私の無茶な要求にもしっかりと応えてみせた。このドレスもそうだが、他の二着も見事なものだった」
この世界は……少なくともグロリアが生まれてから卒業パーティーで断罪されて処刑されるまでの期間は、乙女ゲームをベースにした世界なのだ。
実感はないし、一度何も知らずに生まれて殺された身としては全く納得できないが、ここまできてグロリアはA子の言葉と知識を疑ってはいない。
前世に依頼したドレスメーカーも良いドレスを作ったが、この世界が〝ヒロイン〟のためにあるのならば、〝悪役令嬢〟であるグロリアのドレスは引き立て役でしかない。
今真っ青な顔をして頭を床にこすりつけている面々こそが、この国一番のドレスの作り手なのだ。
流行の最先端をいく美しいドレスは聖女の武器であった。
彼女たちが親友のためにせっせとドレスをプレゼントしていたおかげで、元孤児の男爵令嬢は各パーティーで王太子を隣に留め置くことができたのだ。
だからグロリアは、彼女たちのドレス作りの腕を素直に評価している。
今より少しだけ先を生きたことがあるグロリアにとって、どうせ十歳の時のドレスはどれも古臭いものに見えるのだ。身にまとうドレスがどんなものであっても、今世のグロリアにとってはみな同じ。
品格さえあればどうでもいいなら、〝世界〟が聖女のために用意したドレスメーカーを手元に置いておくのもいい。
「お前たちにはこれからも私のためにドレスを作ってほしいと思っている。こんなことでその職人生命を絶たれるのは惜しい」
微笑み、グロリアは額ずくオーナーの側に寄って屈んだ。
その動作を止めようとするカイラと医師たちを手で制し、オーナーの顔を上げさせる。
「ケイトが騎士を呼んだというのなら、同時に憲兵にも通報しているだろう。我が家の騎士たちは勤勉だからな。しかし……この怪我は、」
と、グロリアはオーナーの前で白い布を巻かれた指先を振る。
「私も不注意だった」
少しだけ血の気の戻った顔でオーナーがグロリアを見た。
わずかな希望にすがるようなその視線を真正面から受け止め、グロリアは続けた。
「けれどお前たちもドレスに針を残すというあってはならない失敗をした。我が家にも面子がある。誰にも罪がなく、何も起こらなかった……というわけにはいかない」
オーナーは唇をわななかせ、首を小刻みに上下に振った。
「ただしこの場にいるお前たちに刺繍の担当がいないことは、受け取ったリストで確認している。ゆえに、お前たちには罪がないことを、このグロリアが証言しよう」
針子たちから息をのむ音が漏れた。
自分たちだけは、首の皮一枚繋がったことがわかったのだろう。
「針があった場所の刺繍をしたのは、誰だ?」