表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/85

第14話 ドレス

 ドレスの製作は順調である。


 デザインを決めて採寸してから約三ヶ月、工程ごとに何度か公爵家で試着をしている。

 なにせ三着も作るので、ドレスメーカーが公爵家に来る頻度も高い。


 今日は前世で聖女が着ていたドレスの、本縫い前の試着をする日だ。他二着はすでに別日に試着を済ませ、本縫いに入っている。


 オーナーと針子たちも何度か来ているので、最初に公爵家を訪れた時ほどの緊張感はない。むしろ公爵家に来る機会を逃すまいとしている者が多いほどだ。


 オーナーに提出させたリストを参照に人数と顔を把握し、別室にティーセットと菓子を用意して自由に休憩できるようにしているからである。

 忙しいのに三着も作るわがままの詫びだと言えば、彼女たちは緊張しながらも受け入れた。今では上位貴族しか食べられない高級菓子を肴に話に花を咲かせている。


 若い女性たちのぽんぽんと弾けるような笑い声が、いつもは厳粛な雰囲気を保つ公爵家にはめずらしかった。


 一回の訪問で店に所属する針子たち全員が来るわけではなく、ドレスによって、あるいは針子たちの予定によってその都度メンバーがかわる。

 毎回見る顔もあれば、リストに名前はあるのに一度も公爵邸に訪れたことがない者もいる。


 一度も公爵家に来たことがないという針子はわずかだが、その中にはシンディもいた。


 グロリアとしては、もしも彼女がこれを機に父へ復縁を迫ろうというならそれでもよかった。

 そのやりようによっては公爵家の騎士に不審者として切り捨てられるだろうし、店のオーナーや同僚の針子たちにも多大なる迷惑をかけるだろう。

 騎士に切られなかったとしても、職場はクビになるに違いない。


 しかしシンディは職と人生をかけた博打を打つよりも、口を閉ざし今の生活を守ることを選択したようだ。


 オーナーを含めた針子たちの誰も、彼女が取引先である公爵家当主の愛人をしていたということは知らないようだった。


 知っていて隠しているという様子でもなく、話の中でオーナーから「シンディという、うちの店で一番の刺繍の名手をぜひともお嬢様に紹介したかった」ということを今日まで何度も聞かされている。


 事情を知っていてそんなことを言ってくる胆の太さは、このオーナーにはない。


 なにせ彼女は前世で聖女と心を通わせ年の離れた親友となり、教会の後ろ盾があるとはいえ男爵家では到底仕立てられないようなドレスをパーティーのたびに親友価格で作ってあげる、心優しい女性なのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ