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第11話 知っていること、知らないこと

 自室のソファで、グロリアはドレスメーカーが置いていった画帳をめくっていた。

 約半年後に行われるエドワード王太子の婚約者選定ティーパーティーで着るドレスのデザイン画である。


 子供用のアフタヌーンドレスは全体的に無垢とかわいさがテーマに作られているためか、過度なフリルと刺繍で窒息しそうなものばかりだ。


 前世では念入りにデザインを考え、王都で一流のドレスメーカーをいち早く押さえて制作した。

 しかし今は、公爵家としての品格さえあればフリルの有無などどうでもいい。


 それなのにグロリアが熱心に画帳を見ているのは、そのなかに前世で聖女メロディが着ていたドレスのデザイン画があると知っているからだ。

 そして聖女のドレスに刺繍をしたのが、前世で義母となった父の愛人、シンディであることも。

 だから今世では店を変更した。


 王太子の婚約者選びとあって、王太子と釣り合う年齢の娘を持つ貴族たちはみなドレスに力を入れている。

 付き添う保護者たちのぶんも作るため、王都では針子不足が起きていた。


 前世、教会から聖女のドレスを依頼された店でも、針子不足で間に合いそうになかった。

 そこで仕方なく、店は父の後妻となってすでに退職していたシンディに助けを求めたのだ。彼女は刺繍が得意な針子だった。


 義娘グロリアの陰湿な虐めに疲れていた時、偶然の出会いから元気づけてくれた少女が聖女となったことを知った彼女は、メロディのためならと快く針仕事を引き受けたのだった。


 「――という筋書きだったな?」


 グロリアはソファから姿見を見つめて問いかけた。

 ケイトもお茶の準備のために退室していて、人払いをした部屋にはグロリアしかいない。


 (なんで知ってんの⁉)


 せっかく特ダネを教えてあげようと思ってたのにー! と、脳内で唇を尖らせるA子に、グロリアは〝聖女のドレス〟のデザインが描かれたページを開いてみせた。

 淡いピンク色のドレスで、右肩からスカートの裾にかけて花の刺繍がされている。


 A子がデザインを見て(これこれ!)と肯定した。


 A子の〝乙女ゲームの知識〟は聖女周辺の情報に限定すればこれほど詳細なものはない。

 彼女が以前語った〝ケイトと聖女の繋がり〟はとても興味深かった。ゆえに、主導権を持つグロリアはA子の知らないうちに〝乙女ゲーム〟の記憶と情報を少しずつ引き出したのだ。


 以前は他人の情報など集めようとは思わなかった。その人物のことを知っていようがいまいが、邪魔なら消せばよかったからだ。


 ただ、こちらをよく知るケイト(スパイ)に抜かれた情報をもとに消されたグロリアは、〝知らない〟ことの危険性と〝知っている〟ことの有用性に目覚めたのだった。


 「私のドレスを制作する針子のリストを、オーナーに提出させた」


 針子たちは今、目の回るような忙しさだろう。

 そんななかグロリアは「王太子殿下の好みがどれであってもいいように、雰囲気の違うドレスを三着作る」と無理を言った。


 ついては針子たちをねぎらうために特別に報酬を用意したい。と、針子の名前と特徴、ドレスを作る際の担当を書いた書類を提出させたのだ。


 (な、なんで?)


 恐る恐るA子が問いかけてくる。


 リストは店にシンディがいるかどうかの確認だ。


 前世でも彼女は父の後妻になる直前まで針子として働いていた。

 愛人関係を打ち切られた今世ならまだ店で働いているだろうと思っていたが、やはりリストの中にシンディの名前を確認できた。

 九歳の息子がいるシングルマザー。髪と瞳の色も記憶と一致した。


 使うのはA子の情報のほうである。

 それとケイト親子の引っ越しで、グロリアが彼女たちに家具や生活雑貨をプレゼントした際に引き取った、古い裁縫箱。


 (何する気なの?)


 決まっている。と、グロリアはデザイン画の刺繍部分を指でなぞった。


 「貴族の仕事はドレスを注文すること。針子の仕事は、ドレスを作ること」


 仕事をするだけだ。グロリアも、シンディも。


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