変態先生の秘密を見てしまった私(JK)がとった行動
登場人物は3人のみの、サラッと読める短編小説です。
みんなどこかおかしい。
見てはいけないものを見てしまったとき、人はどうするだろうか。見なかったふりをしてその場を立ち去るというのもひとつの手かもしれない。でもあんな面白い場面、私は見逃せなかった。
試験期間は部活動も無く、試験も午前中で終わるため、大抵の生徒は通常より早く帰る。しかし一部の生徒は弁当を持参し、試験が終わった後も教室に残り勉強をする。家では勉強に集中出来ないミヤもその一人だった。
キーンコーンカーンコーン……。
下校時間を知らせるチャイムが鳴る。夏の間は少し遅めの19時と設定されている。周りの生徒はいそいそと片付けを始め、ミヤも負けじと急ぐ。この学校では、最後に教室を出た者が教室の鍵を閉め、職員室へと持って行くことになっている。面倒を避けたい気持ちはみな同じだった。しかし残念なことに、ミヤの席は教室の出入り口から一番遠い位置にあり、最後になるのは明白だった。
「はー、めんどくさっ……」
窓の施錠をし、電気を消して教室を出る。鍵を閉め職員室へ向かおうとしたとき、担任教師がミヤのもとへとやってきた。
「中原が最後か。先生少し教室に用があるから、鍵預かるわ。このまま帰っていいぞ」
「ありがとうございます」
職員室へと寄る手間が省けたことは嬉しかった。誰しも積極的に行きたい場所ではない。
下駄箱に着き、今から帰る旨を親に連絡しようとしたとき、忘れ物に気がついた。
「……あ、スマホ」
大抵の忘れ物はどうでも良いが、さすがにスマホは取りに戻るしかない。今ならまだ担任が教室にいるだろうから、むしろこのタイミングで気づいて良かったというものだ。
階段を上がる。教室の扉は閉まっていた。そのとき、中から何かうめき声のようなものが微かに聞こえることに気づいた。担任の体調でも悪いのかと思い心配になったが、すぐに違うと分かった。
「うっ、はぁっ……、中原……っ」
(えっ、私の名前?)
なんとなくこのまま扉を開けるのは良くない気がした。中を覗きたかったが、ミヤの身長では上の窓からは覗けない。そのため、地面すれすれにある下の窓から覗こうとミヤは地面に這いつくばる形になった。
(先生?)
教室の中を覗くと、担任がミヤの席の近くでしゃがみ込んでいた。目を細めると、その姿はよりはっきりと見えた。
(……!)
そこにあったのは、ミヤの椅子の座面部分を舐めながら自慰をする担任の姿。
(え、なにこれ、どういうこと?見ちゃいけないやつだ、気づかれないうちに帰ろう。スマホなんてもうどうでもいい)
そう思うのに、なぜか見続けてしまう。そして、どこか興奮している自分に気づいてしまった。
どれくらいの時間が経っただろうか。そんなに長い時間ではなかったように思う。担任が達するところを見てふと我に帰ったミヤは帰ろうと思ったが、手が勝手に教室の扉を開けていた。
ガラガラ。
「先生、何してるの?」
「あっ、な、中原。違うんだこれは、椅子に不具合がないかを見ていたんだ」
ゾクゾク。
焦った担任の姿に嗜虐心が煽られる。
「へぇ、椅子を調べるのに舐める必要、あるんだ?」
悪い笑みを浮かべているのが自分でも分かった。
「……見てたのか」
「うん。でも大丈夫、別に誰にも言うつもりないから。私はスマホをとりに来ただけだし」
「あ、あぁ、そうか……」
(ふふっ、先生今頭の中真っ白なんだろうな)
ミヤは机の上に置きっぱなしになっていたスマホを手に取ると、そのまま教室を去った。
(良いもの見れたなぁ今日は。明日の学校が楽しみ)
翌日も試験は続いていた。試験監督は基本担任が行う。
試験問題を解き終わり、見直しも終えて暇になってきた頃。
(良いこと思いついた)
ミヤは教卓にいる担任の方を見つめる。
(小さいころたまにやったなぁ、少し離れたところにいる友達をじーっと見つめて、相手がいつ視線に気づくかっていうゲーム)
昨日の今日ということもあって担任もミヤのことを気にしていたのだろう、わりかしすぐにミヤの視線に気づいたようだ。
(今だ)
ミヤはシャープペンシルを手に持ち、それをなまめかしく下から上に向かって舐める素振りをする。
担任は少し気まずそうに目を逸らした。
(何、つまんないの)
キーンコーンカーンコーン……。
試験とHRが終わり、帰ろうとしたミヤのところに担任が近づいてきた。
「中原、ちょっと」
「はい、何ですか?」
担任は手招きをしながら歩いていく。着いて来いということだろう。
ミヤは担任に言われるがままについて行き、2人は人気のない廊下までやってきた。
「お前、さっきのあれはなんだ?」
「……あれって何ですか?」
「とぼけるな。俺への当てつけか?」
「そうですけど何か?」
「……はあ。俺のことを言いたきゃ親にでも校長にでも言えばいい。もう関わらないでくれ」
「言いませんよ、そんな酷いことしませんって。ただちょっとイタズラしただけじゃないですか。そんなに反応するなんて、先生、もしかして童貞ですか?」
「そんなことお前には関係ないだろ。もういい、帰れ」
そう言うと担任は教室の方へと歩いて行った。
(……私はもしかしたらSなのかもしれない。今この状況を楽しんじゃってる自分がいる)
試験期間後も、ミヤは同様のことを繰り返すようになっていた。もちろん他のみんなにはバレないよう、細心の注意を払いながら。
「中原、ちょっといい?」
そう声をかけてきたのはミヤの右斜め後ろの席の黒田だった。
「なに?」
(前にもあったなぁこういうの)
2人がやってきたのは、4階から上へと続く階段の最上段だった。ミヤの通う高校は4階建で、屋上は閉鎖されているためこの先は行き止まりだ。そのため他の生徒は滅多に来ない。
「お前、最近何やってんの?」
「何って?」
「……授業中。たまに先生の方見て何かやってんだろ」
(バレてたか)
「やってたとしても黒田には関係なくない?」
「……関係なくねーよ。お前のせいで授業中勃つんだよ。どうしてくれんの?」
「はっ、キモっ、知らないし」
「お前のせいでこうなってるんだから、お前がどうにかしろよ、あぁ!?」
(何だこいつ。だりー)
ミヤが階段を降りようとしたとき、黒田の手がミヤの腕を掴んだ。
「っつ……。何すんの、離して」
ミヤが手を振るものの、簡単には解けない。
無理やり引き寄せられそうになったそのとき、下から誰かが登ってくる音がした。その瞬間、黒田の手がミヤの腕から離れた。
「あれ、こんなところでなにやってんだお前ら?」
(はぁ、助かった……)
「いや、別に何も……」
そう言うと黒田は1人階段を降りて行った。
「はっ、先生に助けられるとは。まぁ、ありがとうございます」
「お前、もうああいうことするなよ」
「……うん」
「『うん』じゃなくて『はい』だろ」
「はい」
道中、2人の間に会話は無かった。
教室に戻ると他の生徒は既に帰ったようで、2人きりになった。
「ってか先生こそあんなところに何しに来たの?」
「いや、珍しい組み合わせで出て行ったもんだから何か気になって。い、いや、別に普段からお前のことを見てたとかそういうわけじゃねーよ!?」
「ふふっ、いや私何も言ってないんだけど。先生、ウケる」
「……ウケんなよ」
(なんだかんだ言ってこの先生のこと、嫌いじゃないんだよなぁ。むしろ……)
この日からミヤは授業中にあのようなことをしなくなった。まあアレを目撃する以前の状態に戻っただけだ。
(そういえばあれからも先生はあんなことしてるのかな。ていうかなんで私の椅子を舐めてたんだろう。それに私の名前も呼んでたよな……。椅子フェチ?なのか、それとも別の理由があるのか)
アレ以来ミヤが先生の秘密を再び目撃することはなかったが、あの時の光景が頭の中から離れないでいた。
あれから数ヶ月が経った今、先生からは避けられるようになり、特にミヤから話しかけることもない。元々ミヤは教師という生き物に懐くタイプではないのだ。むしろ教師は嫌いだ。いや、嫌いだった。
学年末の離任式で、担任が紹介された時は驚いた。
その日のHRにて。
「せんせー異動しちゃうんですか!?」
少し涙目になりながら先生に話しかけるのは、教卓の目の前の席の女子だ。
「いやー、なかなか言うタイミングが掴めなくて、ごめんなぁ。」
その後もところどころから落胆の声が聞こえる。
(へえ、先生意外と人気あったんだな。まあおじさんおばさんの教師が多い中に、若めで清潔感のある教師がいれば多少はモテるか)
その日の放課後、最後の1人になるまでミヤは待っていた。
「先生」
「おう、中原。どうした?」
(何事もなかったかのように話すんだな、この人)
「次の学校、どこ行くの?」
「俺がどこに行こうが、お前が通うのはここだろ?……お前には変なもん見せて悪かった。もう俺のことは忘れろ。じゃあ、そろそろ帰れ」
「……はい」
(異動先くらい教えてくれたっていいのに)
その後、クラス内で異動先を聞かれている先生を何度か目撃したが、はぐらかすばかりで、結局最後までどこへ行くのかは分からずじまいだった。
学年が上がり、先生はこの学校を去った。
(あーあ、つまんない)
せっかくつまらない学校が楽しくなりかけていたのに。最初、先生のことは暇潰しくらいにしか思っていなかったけど、少し寂しさを感じる程度には先生のことを好きだったのかもしれない。
珍しく物思いに耽っていると、今日も最後の一人になってしまった。窓を施錠し、電気を消そうとした時、とある席にまだ荷物が残っていることに気づいた。
(あれ、荷物残ってるじゃん。鍵、開けといていいのかな。まあ席離れてるってことは貴重品は置いて無いってことでしょ。鍵は任せよう)
教室を出て下駄箱まで行った時。
「あ……またスマホ。デジャヴじゃん」
階段を登り、教室へと向かう。
扉は閉まっている。
「うっ、はぁっ……、中原……っ」
(えっ、先生!?)
ガラガラ。
思わず勢いよく扉を開ける。
そこにいたのは、ミヤの椅子の座面を舐めながら自慰をする黒田だった。
(ふふっ、次の暇潰しみーっけ)
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