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はじまりはその門から  作者: 四条奏
第一章  王国動乱編
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第八話 騎士団長と新たな出会い

 日が落ち、戦闘でボロボロになったエディバラはどんどん暗くなっている。


 そんな中、俺は紅蓮の炎を纏った騎士と俺は対峙(たいじ)していた。


 どうすればこの状況をひっくり返せる?


 みんなのいる方へ逃げるか?


 エクターですらあれだけ苦戦を強いられた。


 そのエクターを満身創痍であったとはいえ、一撃で倒したこいつに勝つことができるのか?


 嫌な汗が頬をつたり落ちる。


「逃げなくていいのか? その格好、騎士じゃないな。町人...ならここにいないか。もしかしてお前が噂の“勇者”ってやつか」


 ルーガンの顔が、満面の笑みに変わる。


「じゃあ、お前もここでくたばれ! あのエクターが身を挺して守ったお前を。ここでぶちのめしてやるよ!」


 紅蓮を纏った騎士が動き出す。


 俺が気づいた時には、紅色に燃え盛る剣が真横から振り払われていた。


 咄嗟に身をかわすが、背中を焼けるような熱さが襲う。


 反撃の間なんてどこにもなかった。


 次々と繰り出される超高温の斬撃。


 当たったものは溶け出し、周囲を火の海へと変えていく。


 斬撃をギリギリの位置でかわすので手一杯だった。



 やばい......逃げ場がっ!


 まったく気づかなかった。俺の周りは炎で囲まれ、地獄のリングはすでに完成していたのだ。


 紅蓮の騎士はようやく立ち止まり、高笑いをしている。


 あぁ......ああああああああああああ⁈


 俺は言葉にならないうめき声をあげていた。


「ようやく気がついたか! 自分が絶望のどん底にいることに! もっと叫べ! 弱者が泣き叫ぶのを見るのが一番楽しいんだよ」


 エクターとは違う......こいつは本気(マジ)のサイコパスだ。


 俺がやるしかない。


 ここで倒さないとアーキスをまた傷つけてしまう。


 両手に力をこめる。一撃でも通ればいいんだ。

 一撃でも通せれば、俺の剣は必ずアイツを仕留めてくれる!


「目つきが変わったな。悪くない目だ。こちらも本気でいかせてもらうぞッ!」


 ルーガンは1メートルくらいまで短くなった剣を軽く払う。


 それが開戦の合図になった。


 2つの剣がなん度も交差し、浴びるほどの火の粉が夜空を舞う。


 だが、それは一進一退の攻防ではなかった。言うなれば一方的。俺の防戦一方だった。


 単純な力比べじゃ勝てない。一瞬の隙さえあれば......



 その音は、突然街中に響き渡った。大地を震わせる謎の咆哮に、ルーガンが後ろへ飛ぶ。


  ―――今しかない!


 震える足に精一杯の力を込め、体勢を崩した騎士へと突っ込む。


勇者の一撃(ブレイブ・スラッシュ)!』


 エクターを一撃で倒したこの技なら、勝てる!


 そのはずだった。壁を切り裂き、黒羽の騎士を優に50mは吹き飛ばした一撃はさも当然かのように止められたのだ。


 馬乗りのような状態で、鍔迫(つばせ)り合いが続く。


「所詮お前はその程度だ」


 盤面をひっくり返すことも、ほんの少しの傷をつけることさえできなかった。


 怖い。怖い。怖い。


 剣を持つ手が震える。力が入らなくなる。


 ルーガンの一振りで、俺は剣ごと容易(たやす)く吹き飛んだ。


 瓦礫(がれき)に背中を強打し激痛が走る。腹の奥から赤黒い塊が込み上げてくるのがわかる。


 剣を落とし地面に倒れたまま俺を、今度は紅蓮の炎を纏った騎士が見下す。


 襟首(えりくび)を掴まれ、そのまま宙へと持ち上げられる。


 ルーガンの手を俺も掴み、離そうとするが無駄だった。


「なあ勇者。お前は何のために戦った。何のために俺と戦う道を選んだ」


 質問の真意は分かりそうもない。

でも、どこまでもまっすぐ俺を見つめる奴の質問に答えないという選択肢はなかった。


「俺は...アーキスを守るって決めたんだ。たとえ相手が強大でも、どんなに傷ついても、あの子だけは守り切って見せる!」


 喘ぐように答えた俺に、ルーガンは少しだけ手の力を緩める。


「バカバカしい。たった1人のためだけに、お前は俺たちに刃向かうのか」


 だが、そうひと息置いた騎士の目は少しだけ笑っているようにも見えた。


「その堅牢(けんろう)な意思だけは認めてやろう。私がそうであるように、お前もアーキス姫を守り抜いてみろ」


 紅焔を纏ったその騎士は、俺の首から急に手を離した。


 ひとりで立つことも(まま)ならない俺は、その場で尻もちをつく。


 騎士の剣が紅色に染まる。

 その剣は俺に牙を剥こうとしている。


紅焔の奏でる鎮魂歌イグニアス・レクイエム


 そっと目を(つぶ)る。終わりが来るのをじっと待った。


 ――――避けて!


 心の中で誰かが叫ぶ。その声に突き動かされて瓦礫の上を全力で転がる。


 直後、耳を貫くような咆哮と共に巨大な何かがルーガンを襲った。


 見惚れてしまいそうなほどに美しいそれは、無類の強さを誇る紅蓮の騎士を軽く数十メートル上方へ飛ばした。


 真っ白な体。


 所々に入った金色。


 一瞬だけ見えた目は、透き通った青だった。


 これが...ドラゴンなのか。10メートルはあるであろう巨体は、1人の男を見ているようだ。


 空を見上げるドラゴンの口が開く。その意味はすぐにわかった。


 少し青みがかったエネルギーの塊。ミラミで見た水属性のドラゴン・ブレスとは全く違う。


 そしてそれは、耳の痛いほど甲高(かんだか)い雄叫びと同時に放たれた。


 衝撃波は強大で、周囲に残っていた家屋を数棟ペシャンコにする。



 ......終わったのか?


 ルーガンがどうなったのかはわからない。ただ、反撃してくる様子もなかった。


『ご無事で何よりです』


 頭の中で再び声が響く。周囲を見渡しても誰もいない。が、青い眼のドラゴンがこちらを振り返っていた。


 息を呑む。


 あんな一撃をこの距離でくらえば、俺の生きた証は何も残らないだろう。


 ドラゴンが首を伸ばして俺の目の前へと顔をもってくる。


『驚かせてしまいましたね。あなたの目の前にいる私が、ドラゴンが話しているのですよ』


 よく聞くと、その瞳以上に透き通った女声だった。


「お前は、なんなんだ? どうして俺を守ってくれたんだ?」


 率直な疑問を投げかけると、少し間を置いて話し出す。


『わからないのです。何も。ですが、何か重要な”役“を持ってここにきた......まさか⁈』


 純白のドラゴンが空を見上げる。目線の先を見ると、そこには騎士がいた。


 装備の各部がボロボロに砕けているが、それは確かにルーガンだった。


 言葉が出ない。あの一撃をくらってなお、五体満足に動けるのか。


 ドラゴンが咆哮し、土煙を上げながら飛び上がる。


 力と力の激突。どちらも一歩も譲らない空中戦が繰り広げられる。


 月明かりすら凌ぐほどの眩い光がエディバラを照らす。


 第三者の介入は即ち死を意味する戦場は、近いようで今の俺には遠い場所になっていた。



 ......ガラガラ


 そんな時、瓦礫の中から出てきたのは黒色の翼を持つ騎士、エーテル騎士団副団長エクターだった。


 自慢の黒羽は折れ、常人では持ち上げることすら叶わない騎槍も失っている。


 代わりに持っていたのはロングソード。


「おいエクター! 生きてたのか!」


 さっきまで敵だった彼が生きていたのが、なぜかどうしても嬉しかった。


 急いで駆け寄る俺に対して、黒羽の騎士は表情を変えることもなかった。


 エクターは無言のまま俺の肩を2度叩く。


 そして、ドラゴンと騎士団長がいる上空へと飛び立った。


 エクターが光の中心へとたどり着いた瞬間、その戦場は混沌(カオス)へと様変わりする。


 パワーバランスの崩壊。一騎打ちで第三者の介入がもたらす最上級の打撃。


 ルーガンが中心部から退(しりぞ)く。


 ドラゴンは大きく羽を広げ、黒羽の騎士は剣を構えて突撃する。


 エクターの突撃に気を取られた騎士団長に向かって、ドラゴン・ブレスが放たれた。



 静寂。


 戦いが終わったエディバラに、陽の光と束の間の安息がもたらされる。


 俺の目の前には2人の騎士が横たわっている。


 1人は俺と戦い、俺やアーキスのためにその命を削った騎士。エクター。


 もう1人は俺を圧倒し、俺を認めてくれた騎士。ルーガン。


 俺を助けてくれた純白に金の差し色が入ったドラゴンはどこに行ったのかわからない。


 キュウ! キュウ!


 その静寂をぶち壊したのは小さな、真っ白のドラゴンだった。


『力を使いすぎちゃいました。この姿になっちゃったら、もうお役には立てませんね』


 相変わらず脳内で響くその声は、小学生くらいに幼い声になっている。


「まさかお前...さっきのドラゴン⁈ こんなに小さくなれるのかよ!」


 俺が両手でちびドラゴンを持ち上げると、つかさず尻尾で叩かれた。


 小さくなってもまあまあ痛い。


『気安く触らないでくだしゃい!...ください』


 噛んだ...可愛すぎる。


 話を聞くと、この世界のドラゴンの基本的な大きさは数十センチなのだと。


 そして、狩をするときだけ10数メートルもの巨体にフォルムチェンジするらしい。



 ドラゴンの生態について色々話を聞いていると、遠くの方から声が聞こえてくる。


「蓮斗! ここ一帯どうしちまったんだよ⁈」


 聞き慣れた騎士の声。ブレイクが来てくれた。


「それにお前もボロボロじゃねぇか。て...そこに倒れてるのエーテル騎士団のトップ2人?」


 遅れて騎士団のみんなが到着する。


 ようやく終わったのか。



 朝日がやたらと眩しい。


 アーキスに軽い説教をされた俺は、騎士隊長やボールスと最後の作戦会議をしていた。


「残存兵力は騎士12名、従騎士7名、勇者様やアーキス姫を合わせて20名ほどです」


「騎士12名のうち4人は騎士隊長、2人はボールス殿にブレイク殿、残りもlv3クラスであり、エディバラ城中央塔の攻略も可能かと」


「エーテル騎士団との兵力差は健在ですが相手は烏合(うごう)の衆、十二分に戦えます」


 正直、みんな疲労困憊(ひろうこんぱい)だった。ボールスも回復しているが、無理をさせたくはない。


「なあ、みんな。ここは別の騎士団と合流すべきじゃないのか? それまで回復してれば...」


 言いかけたが、騎士たちの怪訝(けげん)な目で口が動かなくなる。


「勇者様、そんなに我らが頼りないですか」


 いや違う。むしろ頼りたいがために攻略を遅らせたいのだ。


 でもそうだよな。みんなとなら、きっとできるよな。


 俺はみんなに頭を下げ、会議を再開する。




 会議が終わり、外を歩いているとアーキスが白いドラゴンと遊んでいた。


「ね〜レント! この子可愛いでしょ! さっきそこで寝てたの」


 元気なアーキスを見ると心が落ち着く。

 初めて会った時はあんなにお嬢様ぶっていたのに、今は子供のようにはしゃいでいる。


 これは母性本能なんかではない。


 俺はただただアーキスが好きだ。


「名前あったほうがいいよね。レント、何かいい名前ある?」


 キラキラと目を輝かせた彼女に、俺も自然と笑顔になる。


「そうだな、俺はセンスないから。アーキスがつけてあげなよ」


 アーキスはしばらく考え込んでいた。


『ねえ! この子をどうにかしてよ! さっきからずっと追いかけ回されてたのよ』


 頭の中で響く幼い声は、俺に助けを求めているようだ。


「もう少し我慢してくれ。俺には止めれない」


 ドラゴンは深い深いため息をつく。


「......アリス。アリスちゃんがいい!」


 アーキスがこのドラゴンの性別を知っているかはわからないが、奇跡的に一致している。


 キュウ! キュウ!


『いい名前じゃない。私らしい高貴な名前。見直したわ』


 ドラゴン、いやアリスも気に入ったようだ。


 しばらくアーキスはアリスと遊んでいたが、夜中寝ていなかったのかアリスの胴体に頭を預けて眠りについた。


 アリスもやれやれといった調子でアーキスに羽をかけて丸まった。



 空を見上げて、ようやく異変に気がつく。


 空が...赤い? 


 城塞都市エディバラを覆うように広がる赤い何か。


「勇者様! こちらへ来てください」


 呼ばれて急ぐと、騎士や従騎士全員が集まっていた。


 ブレイクはいないようだが、真ん中に立っているボールスが話し始める。


「緊急事態が起きた。皆も気づいているだろうが、今エディバラは赤の結界で覆われている」


「そして、この結界は元々、敵の侵攻から都市を守るための防御結界だ」


 ボールスの声が重々しくなる。


「この結界を悪用できるのはただ1人、モルレッド様だ。心苦しいが、倒すしかない」


 ざわめき。つい数日前まで王位継承の最有力候補として君臨していた王子との敵対。


 主従関係を重んじる騎士たちにとって、受け入れ難い事実が再び重くのしかかる。


 それと同時に、エクターやルーガンを従える王子の計りきれない強さに悪寒が走った。


「......やるしかない」


 誰かがつぶやく。

 その声が誰のものかなんて関係ない。


“総意”


 アデリティ王国のため? いいや、全ては帰りを待つ愛する者のために。


 強大な敵モルレッドを倒すために、もう一度騎士たちは立ち上がる。

はじめましての方は初めまして。

そうでない方はご無沙汰してます。作者の四条です!


まず、遅くなってすみませんでしたぁぁぁ!

書いてはいたのですが、自分の納得いく表現見つからず、画面とにらめっこしてました。


とうとうあと2話で第1章完結です! モルレッドを倒し、王国の動乱を鎮めれるのか。


次もまた読んでもらえることを願いつつ、第八話を締めさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘シーン、迫力が凄くて見入ってしまいました…さすがです。また、擬音をできるだけ使わないで書いていらしたのもさすがだと感じました。文章も全体的に読みやすいです! [一言] モルレッド…裏切…
2023/04/28 19:52 退会済み
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