表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじまりはその門から  作者: 四条奏
第一章  王国動乱編
5/17

第五話 蓮斗の心と国王の願い

霧谷蓮斗(きりたにれんと)...いいや、勇者よ。君をこの世界に呼ぶことができ、無事とは言えないがこうして会合できたこと。本当に嬉しく思う」

 王は確かに“勇者”と言った。え? 俺が?


 混乱している間にも、王が口を開く。


「困惑させてしまったかな。少し具体的な、いや、昔話をしよう。この世界についてのな」


 王の話を要約すると、この世界は昔、俺の元いた世界と交流があった。その交流は、数百年前に”侵略“を持って終わりを迎えたこと。


当時のアデリティ王国の書物である『封魔記(ふうまき)』には数多くの予言があり、俺がその予言にジャストフィットだったこと。


 そして、今回の襲撃も予言通りであったこと。


 俺は(いきどお)りを感じた。どうして知っていたのに未然に防がなかったのか。どうして...どうして。


「あんたは自分がやったことがわかってんのか⁈ あんたのせいで、人が死んでんだぞ。アーキスは、傷を負っちまったんだぞ!――」


「霧谷殿、そこそこにしなされ。」


 イージスの制止で我に帰る。


 王は声色を変えずに

「君が言いたいことはよくわかる。しかし、私は賭けたのだ。君の力が目覚めることにな。そして君は力を発現させた。その剣が君の手元にあるのが何よりもの証拠であろう」


 王は俺の佩剣(はいけん)を指差しながら話す。


「その剣は、かの侵略を止めた『無名の剣士』が使っていたものである。そして、その剣は”選ばれし者“にしか手に取ることができないのだ。そう、君は選ばれたのだよ」


 信じられなかった。俺が口を閉じている間に、イージスが話し出した。

「国王様。霧谷殿が困っています。まだ来たばかりの彼に『封魔記(ふうまき)』や『無名の剣士』の話は早過ぎましょう。詳しいことは追々。今は最重要事項についてお伝えください」


 イージスに(いさ)められ、王がまた口を開く。

「すまないな。つい気が動転していた。単刀直入に言う。勇者よ。仲間と共にこの国を...いや、この世界を救ってくれ」



 世界を救う? ただの高校生である俺に?



「どうか頼む。君の力を我々に貸してくれ」王が俺に深々と頭を下げる。


 心なしかイージスの表情も強張って見える。


「俺は...元の世界に帰りたい。もう、目の前で誰かが死ぬのは見たくねぇんだよ! 俺はただの高校生だ...俺なんかにこの世界の興廃(こうはい)(ゆだ)ねてんじゃねぇ」

 

 本音を言えば、帰れると思ってた。


 予言の勇者がこんな臆病者(おくびょうもの)なはずがないと思ってくれると信じていた。


 言った途端、イージスに頬を打たれてその場に倒れこむ。

「霧谷殿。ご無礼お許しください。確かにあなたからすれば、この世界の行末など取るに足りないものでしょう。しかし、王の間であなたはアーキス姫をお助けになった。逃げてもよかったのに、敢えて戦う道を選んだ」


そして、イージスは核心に迫る。


「なぜ、戦う道を選んだのですか?」


 俺はあの時、目の前の少女をどうしても助けたかった。


 その子は、異世界に飛ばされて不安だった俺に、優しく接してくれた子だった。


 でも、恩返しとは少し違う気がする。しっくりこない。


 何が俺を突き動かしたのか。まったくわからない。


 俺が黙り込んでいる間にもイージスが国王に一瞥(いちべつ)し、俺に話を始める。


「アーキス姫には...サミュエルという許婚(いいなずけ)がいたのです。姫とは幼き頃から行動を共にしていたので、政略結婚ではありましたが大変仲の良いおふたりでした」


 しかし。そう一拍置いたイージスの顔は、怒りと悲しみで震えているようだった。


「霧谷殿が来られる2ヶ月前。南大砦(サウスポール)と王宮の間の街道にて事件は起こりました。突如として現れた300騎を超える騎士団に襲撃を受け、サミュエル様はアーキス姫を命を落としてまで守り抜いたのです」


「その日から姫は自責の念に駆られ、言動や笑顔にどこか陰りがあったのです。あまりにも不憫(ふびん)に思ったため、私がボールスに護衛を命じ、姫には国内の名所巡りを通して、心の整理をしてもらっていたのです」


 イージスの顔が、少しだけ緩む。


「そんな中、あなた様がここに来られたのです。あの時...姫が感情を剥き出しにしてボールスと喧嘩していたのを見て、安心した私がいました。あなた様を殴り飛ばした後も、姫は霧谷殿の元を離れず、『起きるまでここにいるの!』と霧谷殿を何かと心配されていました」


 アーキスにそんなことが起きていたとは思いもしなかった。そして何より、アーキスが俺の看病をしていてくれたことに驚きが隠せない。


 やっと気づいた。いいや、気づいていないふりをしていた。


 俺はアーキスに”特別な思い“を持っていたのだ。


 イージスの話が続く。その声は力強く、でもどこか澄んでいた。


「霧谷殿がこの世界を救うかどうかは自由です。しかし、私はアーキス姫にサミュエル様の分まで幸せになってほしい。姫に一生辛い思いをさせたくない。それができるのは唯一、あなただけなのだと思うのです」


「厚かましいことは承知しております。ですがどうか、アーキス姫のためにこの世界から“悪意”を取り除いて欲しいのです」


 俺には多分、世界を救う力はない。でも、目の前にいるたった1人の女の子を守り、笑顔にする力ならあるかもしれない。


 いいや。1人の女の子を守りたい。

 



 そして、王が俺の目を見据えて尋ねた。

霧谷蓮斗(きりたにれんと)。力を貸してくれるな」


 俺は大きく頷く。



 執務室の扉が開いた。



「国王様! ボールス、ブレイク、ただいま参上しました!」

 

 入ってきたのはこの世界で少ない俺の見知った騎士2人だった。


 ボールスが俺を見下しながら言う。 

「おいおい、本当にお前が予言の勇者だったのかよ...


 ブレイクは笑いながら続けて

「言ってやんなよ。まぁこれからなんだろ」

 

 俺は口を噤んでいたが、ブレイクの出した手をとり立ち上がる。



 

 執務室を出た時大事なことに今更気づいた。


 

 じゃあ、俺は1日の間に2人の女の子を好きになったってこと⁈




 空は雲ひとつない晴天。


 朝から大慌てで準備が進み、この世界についていくつもの説明を受けた。


 近衛騎士に連れられて王宮前の大広場に行くと、イージスを始めとした騎士団に、王宮の召使が多数いる。


 しばらくすると国王が全員の前に立ち、演説を始めた。

「本日、我々は世界を(おびや)かすエーテル教会に対し宣戦布告を行う。―――」


 演説が終わり、次々と騎士団と出陣していく。


 完全武装のイージスが出陣直前に来てくれた。

「霧谷殿、ご武運を祈っております。くれぐれも無理はなされぬように」



 と、そこへ見覚えのある1人の少女が突っ走ってくる。

後ろからは数人の召使と近衛騎士が必死になって追いかけてきていた。が、誰も追いつく気配はない。


「ちょっと! 私も連れて行きなさい! イージス。ねえいいでしょ? 」

 

 アーキスはそう言うがイージスは首を横に振り、召使たちに引き渡そうとする。


「あなたはこの国の第二王女。もしものことがあれば国家のきk... 」

 

 イージスが諌めようとするが


「何よ! 昨日は私を見捨ててみんな逃げちゃったじゃない。レントがいなかったら、私絶対に死んでたわよ! 」


 確かにアーキスの言う通りである。


 イージスはため息をつき、やれやれといった調子で


「であれば、霧谷殿御一行と出陣なさい」


 とんでもないことを言い出した。


 アーキスの表情がパッと明るくなる。


 そこから何やかんやあり、俺にボールス、ブレイク、そこにアーキスを加えた4人で出立することになった。


 

 最初の目的地はエディバラ城。


 俺の“勇者”としての旅が始まる。

第五話「蓮斗の心と国王の願い」お楽しみいただけたでしょうか?


『王国動乱編』もあと半分!


また読んでいただけることを願いつつ、第四話の締めとさせていただきます。以上、四条奏でした!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ