第四話 二度目の異世界に初の急襲
朝のSHRでは先生が事務連絡をし、今日から始まる授業をしっかり集中するようにとのことだった。
授業は嫌いじゃない。だが、一つだけ大問題がある。それは......
授業中、視線の中に歩がいることだ!
正直に言えば嬉しい。しかし、授業に集中できなくなるのは容易に想像できる。
*
チャイムがなり、午前の授業が全て終わる。
俺は気疲れしていた。
案の定、誘惑との戦いを4時間繰り返し、戦績は0勝4敗。自分の弱さを痛感しながらも、とりあえず弁当を机の上に出す。
午後は数学に英語。誘惑との戦いはまだまだ続きそうだ。
*
俺は仲のいい数人かと一緒に帰っていた。
今日の出来事や中学時代のこと、こいつらと話すのが今の俺にとってかなり楽しかったのだ。
校門に差し掛かる。
....ピカ! デジャブを感じてしまう光に視界を覆われた。
◆
目を開けると、見知らぬ天井だった。
「お! ようやく目覚めたか」
知らない男の声。
声の方を見ると、頭装備を外した騎士が座っている。
「えっと......ここはどこで、お前は誰だ?」
聞きたいことは山ほどあるが、とりあえずテンプレ事項を聞いておくことにした。
騎士は「ここは南大砦。国王様の嫡男。ようするに第一王子のお住まいだ。そして、俺の名前はブレイク。お前の護衛を直々に仰せつかった」
ブレイクは続けて「お前の護衛を俺に指示したのは他でもない国王様だ。お前が起き次第、宮廷に連れていく約束になっている」と軽く言う。
ブレイクの説明不足感は否めなかったが、彼は何かの準備を開始している。なんとなく聞くタイミングを失い、何もできずに時間が流れる。
*
南大砦から馬車に乗って1時間ほど。窓から外を見ると、城塞都市の中心部というだけあって人通りが尋常ではない。
「王宮までもう少しだ。降りる準備をしておけよ」ブレイクに急かされ、身支度を整える。
馬車はそのまま城門をくぐり、宮殿の前で止まる。馬車から降りると、見知った顔の騎士が話し出す。
「霧谷殿、ご無事で何より。王が貴方様の到着をお待ちしております。急ぎ王の間へ」
イージスの声だった。周りには重装の騎士が多数展開している。
またもや詳しい説明はない。が、近衛騎士たちに囲まれながら、宮殿の中へと入っていく。
屋敷の中は厳戒態勢で、至る所に完全装備の近衛騎士がいる。そんな中をしばらく歩くと、一際大きな扉が現れる。
「ここから先は王の間。くれぐれも言葉遣い、立ち振る舞いには注意しなされ。王は優しいお方だが、貴族連中に好かれぬと碌な目に合わん」イージスに注意を受け、扉の前で全員が足を止めた。
イージスの「開扉」の合図で重厚な扉が徐々に開いていく。
王の椅子前まで歩き、全員が膝をついた。
周囲には貴族と思しき豪華な衣服を身につけている人々。
「イージス、ご苦労であった。そして、君が霧谷蓮斗だな。よく来てくれた」王様は言いながら席に着き、話を続ける。「私はアデリティ王国の国王。カーブルク12世である。君を呼んだのは他でもない......」
王が言った時、王の間全体を轟音と爆風が覆う。
その場にいた全員が伏せ、爆発から身を守ろうとした。
しばらくして、焦った様子の騎士が「王宮に敵襲! 敵勢力は不明。数は二百騎以上!」と報告を入れる。イージスは速やかに王や貴族たちを避難させ、大剣を持って王の間の外へ出ていく。
外では爆発音や剣撃が鳴り響いている。
どうやら、本格的な戦闘が始まったらしい。
王の間では大体の避難活動が終わろうとしている。
そこへ、穴の空いた天井から数名の騎士たちが舞い降りてきた。「我らはエーテル騎士団。王国の腐敗した政権を一掃し、神の教えを民に伝える者」
エーテル騎士と名乗る奴らはそう言うと、剣に炎を纏わせ、王の間に斬撃を放ち始める。
つかさず王の間に残っていた近衛騎士数人が飛びかかる。
しかし多勢に無勢。
エーテルの騎士の力は凄まじく、近衛騎士たちは次々と倒れていった。
エーテルの騎士が近衛騎士最後の1人を貫き、剣を高らかにあげる。
俺は近衛騎士が倒れていくのをただ見ておくことしかできなかった。
自分の不甲斐なさを感じていた時、エーテルの騎士が1人の少女を見つる。
「はっはっは。見捨てられた貴族の子どもだ! お前の親は、お前を置いて逃げやがったんだよ! 可哀想な奴だな。俺が可愛がってやろうか」
その騎士は言いながら少女の髪を引っ張りあげる。
アーキス⁈ 倒れていた少女は、この世界で初めて俺に優しくしてくれた人だった。
俺は気づくと走り出していた。
「その子を離せぇ! 」騎士の腹部へ力一杯蹴りを入れる。だが、次の瞬間には鈍い感覚と共に俺の体は宙を舞っていた。
玉座に叩きつけられる。
内装が燃え、煙が充満した王の間。
吹っ飛ばされた俺を、エーテルの騎士たちが包囲している。
朦朧とした意識の中で、玉座の後ろに飾られた剣の存在に気付いた。
これがあれば、アーキスを助けれるかもしれない。俺は藁にもすがる想いでフラフラと立ち上がり、剣を握った。
瞬間、電撃のような感覚が全身を通り抜ける。
4人のエーテル騎士が俺に近づき、一気に間合いに入った。
バシュッ!
騎士たちの炎の剣は俺に届くことはなかった。
代わりに俺の斬撃が騎士たちの腹部を斬り裂く。
状況を理解できないまま、4人の騎士はその場に倒れた。
他の奴らも突っ込んでくるが、鍔迫り合いもできないほど簡単に剣が折れ、俺の攻撃だけが通る。
とうとうアーキスを掴んでいた騎士と俺の一騎打ち。
「き、貴様! どこにそんな力を隠してやがった。我が騎士たちをよくも......。くらえ! 紅焔の爆砕!」
渾身の一撃は、俺がただ剣で払うだけで消えてしまった。
俺が目を合わせると、数本後退りをしながら剣を落とす。
動揺した騎士は捨て台詞を言いながら天井の穴に向かって飛び立った。
こいつだけは許せねぇ!
騎士が落とした剣を拾い、目一杯の力を込めてそれを投げつける。剣は煙を貫きまっすぐ進み、天井に到達しようとしていた騎士を思いっきり打ち抜いた。
俺は倒れたままのアーキスの元まで走り、彼女をお姫様抱っこする。
「アーキス、もう大丈夫だ! すぐに安全な場所に連れてくからな」アーキスは軽く頷き、俺に身を預ける。
しばらく走ったところで、大勢の近衛騎士たちがいる場所に着いた。
「霧谷殿、ご無事でしたか。そちらの方は......アーキス姫!」
イージスは傷だらけの俺たちに事情を話すよう求める。俺はアーキスを医者に預け、王の間で起きたことを話した。
イージスは真摯に、だが力強く俺の手を握る。
「アーキス姫をお守りいただいたとは。感謝しても仕切れん」
若い召使がこっちに向かって走ってくる。
「国王陛下よりご命令です。イージス様、霧谷様は王の執務室まで来るようにとのことです」
イージスは頷くと、俺を連れて宮殿の中へと入っていく。
執務室へ行く途中、騎士たちが集まっている場所を通りかかった。
イージスが「何事か」と聞くと、慌てふためいている騎士の1人が「南大砦にて国王陛下のご嫡男、モルレッド様が行方知れずとの情報が......」と答える。
イージスはあくまで冷静に、「国王陛下には私がお伝えする。お前たちは任務に戻れ」と騎士たちへ命令を下し、歩き出した。
王の執務室に着くと、守護の騎士が扉を開ける。
中はまさに豪華絢爛。王の間同様、この国の王の権威を象徴するものとなっている。
そして国王は、王の間で出来なかった話を始めた。
第四話「二度目の異世界に初の急襲」楽しんで頂けましたでしょうか?
バトルシーンは難しいですね。こればかりは回数をこなしていくしかなさそうです......
また読んでいただけることを願いつつ、第四話の締めとさせていただきます。以上、四条奏でした!