第二話 あやふやな帰還と保健室
俺、霧谷蓮斗はとっても普通の男の子。
成績、スポーツ、家族構成に至るまで何もかもが平凡というか普通だ。
そんな俺は今人生最大のピンチに陥ってる。
そう、剣や槍を持った“The騎士”な6人に路地裏で包囲されているのだ。
こんなことになったのには、さっきまで俺と話していた少女、アーキスが少し離れるから待っていてと俺をひとり置いて行ったのが原因だろう。
「貴様がアーキス姫を路地裏に連れ込んだということは知っている。どんな口実で連れ込み今どこに隠しているかは知らんが、早く姫をこちらに渡せ! 罪が重くなるだけだぞ」
アーキスがお姫様? 確かにドレス姿で豪邸での話ばかりでお嬢様口調。まじ者なのかよ...
「おいおい⁈ 待ってくれ! あいつが姫ってなんだよ。俺があいつに連れ込まれたんだ! 冤罪だ!」
何も間違ったことは言っていないはずなのだが、騎士たちには伝わらないどころか剣を突き立てて睨んでくる。
「姫が貴様のような変な格好をした男を路地裏に連れ込む? バカなことを言いやがって。貴様の意見など当てにならん。とりあえず南大砦まで連行す――⁈」
「ボールス! その人になにをしているの!」
俺はこの世界で唯一の聴き馴染みの声に不覚にも安心してしまった。
ほとんどの騎士が動揺していたなか、彼女に『ボールス』と呼ばれた騎士だけは佇まいを崩さずに路地の入り口側を振り返る。
「姫。ご無事で何よりです。不審な動きの男を見つけましたので、なにかあったのか軽く事情聴取をしておりました」
この騎士...何しれっと嘘ついてんだよ。思いっきり武器突き立てて怒鳴ってきたじゃん。
アーキスが俺の方を見る。優しさに満ちている目が彼の言葉の真意を伺ってきた。
「いや〜ほんっとに危なかった。もう少しで斬られるところだったぜ」
ということで俺も盛大にウソをつき、例の騎士にニヤついた顔を見せつける。
ボーキスは明らかに顔を顰めたが、姫が目の前にいるからか何もしてこなかった。
アーキスの顔が怒りに満ちていく。
「やっぱり酷いことしようとしてたんじゃない! ボールス。彼に謝って!」
しかし、ボーナスは謝ることはせずむしろアーキスに対してお説教を始めた。
「そもそも、貴方様が勝手に我々の元を離れるのがいけないのです。何かあったらどうするのですか」
「なに? 私が悪いって言いたいわけ? 貴方たちは私を守るのが仕事なんでしょ!」
ここから先は不毛な争いがしばらく続く。
あまりの声の大きさに、騎士と姫の喧嘩を見に人気のなかった路地裏に人が集まってきた。
それを気にせず言い合う二人......
「貴様ら。そんなところでなにをしている」
ドスの効いた声にボールスもアーキスも、取り巻いていた民衆たちもが背筋を凍らせた。
その男は巨大な剣を背負い、額にある大きな傷跡が際立っている。馬から降り、先駆の騎士たちが開けた道を堂々と歩いてきた。
「ボールス。騎士道精神を学びし我が国の騎士が、民衆の面前で喧嘩とは何事か!」
ボールスは不服そうな表情を浮かべていたが反抗はせずに黙っている。
それを見たアーキスはボールスに向かってニヤニヤとしていた。が。
「姫も姫です。王国の第二王女である貴方様が、公共の場で大声を上げるなど言語道断! 慎みなさい」
本当にお姫様だったのかよ...
アーキスは目に涙を浮かべて何かモゴモゴと言っているが、声になっていない。
そして、大男は俺の前に来た。
「貴様、珍しい格好をしておるな。我が国のならず者2人が迷惑をかけた。聖スミレスト騎士団団長、イージスの名の下にこやつらを許してやってくれ」
なんかものすごく偉い人から謝られた気がする。イージスの話はさらに続いた。
「それから、名前を教えてくれるか? 我々が探している者に君が似ているような気がしてね」
嘘をつく理由も特段ない。アーキスが不安そうな顔をしていたが、俺はいつかアニメで見た異世界もの主人公の名乗りを真似する。
「俺の名前は高校生の霧谷蓮斗。こことは違う別の世界かr......」
何かが俺の頭に直撃した。激痛のせいで声も出せず、意識が薄れて行く。
◇
しばらく寝てた気がする。
「いっててて......ここはいったい、ん? 保健室⁈」
思わず叫んでしまった。さっきまで痛かった側頭部を触ったが痛くないし、殴られた形跡もない。
まったく原理はわからないが、どうやら元の世界に戻って来れたらしい。
すると、仕切りのカーテンの外から女性の声が聞こえてきた。
「やっと起きたのですね。急に叫ばれるとこっちがびっくりするのでやめて下さい」
カーテンが開き、長く伸びた黒髪の綺麗な女の子が仕切りの中へと入って来る。
俺が目を合わせようとすると、少し目線を逸らして喋り出した。
「あなたが校門で倒れていたので、先生に報告したら、私が起きるまで付き添えって言われたのです。とりあえず元気そうでよかった。あ! 申し遅れました。私、1年3組の夏川歩といいます」
夏川さん...なんとお礼を言えばいいかわからないが、こんなに可愛い子に助けられたと思っただけで無性に嬉しい。
しかも3組って俺と同じクラスだ!
そんなことを考えていると保健室の扉が大きな音を上げて開き、ジャージ姿の大人が入ってきた。
「お〜い夏川さん、霧谷君起きたの?」
もしかして保健室の先生が来たのか? にしては白衣じゃないしドアの開け方が豪快だが。
「君が霧谷君だね〜。はじめまして。3組の担任の前田です。生徒が校門で倒れたって聞いたので様子を見にきたよ。その感じだと大丈夫そうだね」
爽やかな感じだった。しかも3組って俺の担任なのか。高校の先生はいろいろと変わってるな。
まあ、とりあえず俺は無事に元の世界へ帰って来れたことを喜ぶべきか。
失いかけていた俺の青春...高校で絶対に掴み取ってやる。
俺の青春は、ここからだ!
はじめましての方ははじめまして!
作者の四条奏と申します。第二話、楽しんでいただけましたか?
それでは、また読んでいただけることを願いつつ、第二話を締めさせていただきます。




