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宗教法人オルガノ救人教会  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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24/26

想定外の事態

「クソが……正岡の奴、何をやってるんだ」


 省吾は、思わず毒づいた。

 先ほどから、正岡のスマホに何度もメッセージを送っている。しかし、返信がないのだ。既読にすらなっていない。あの男がきちんと動いてくれないと、計画が台無しなのだ。

 そんなことを考えていた時、扉越しに声が聞こえてきた。 


「省吾、何やってんだい。昼飯できたよ」


 恭子のものだ。ふと時計を見ると、もう昼過ぎである。正直、食欲などない。


「わかった。今いく」


 ・・・


 ハロウィンの日、省吾はマスクレンジャーと再会する。あの男は、そのまま立ち去ろうとしていた。

 だが、省吾は後を追った。人混みの中、彼の肩を掴む。


「あんた、ちょっと待ってくれ」


 その言葉に、マスクレンジャーは足を止めた。ぱっと振り返る。


「なんだ? 私に何の用だ?」


 声は、先ほどと同じく妙にはきはきしたものだ。機嫌を損ねているようには思えなかった。

 ならば、このままいくしかない。


「あんたは、悪人を殺して回っているんだよな?」


「そうだ。悪人は、すべからく殺さねばならない。一悪一滅! それこそが、私のモットーである!」


 胸を張って答える。やはり、こいつは狂っている。この男の人間離れした身体能力は、狂気ゆえに発揮できるものなのかもしれない。

 だからこそ、その狂気を利用させてもらう。 


「あんた、オルガノ救人教会の信者を殺したよな?」


「なぜ、それを知っている?」


 マスクレンジャーの表情はわからないが、声音から察するに疑念を感じているらしい。しかし今、そのことについて詳しく説明する気はなかった。


「俺も教団の一員だ。よく聞いてくれ。白土市の山中に、教団の施設がある。白土支部第二会館だ。今、主だった幹部は、全員そこにいるんだ」


「君は、何が言いたいんだ?」


 聞き返してきたマスクレンジャーだったが、省吾はさらに畳みかける。


「そこに行き、幹部を皆殺しにすれば、教団を根こそぎ潰せるぞ。教祖の六波羅法聖は入院中だが、もう先は長くないらしい。あとは、白土支部にいる幹部を皆殺しにすれば、教団は終わりだ。二度と悪さは出来なくなる」


 その時、マスクレンジャーの手が省吾の肩を掴む。


「本当か? 教祖の体調は、そこまで悪化していたのか?」


「朝永という幹部が断言していた。もう長いことはない、とな。間違いないよ。今、主だった幹部連中が白土支部の山ん中に集められているのも、教祖が死んだ後のことをどうするか……そいつを決めるためなんだよ」


 聞いているうちに、マスクレンジャーの様子が変わってきた。肩がガクッと落ち、無言で下を向いている。

 省吾は固唾を呑み、マスクレンジャーの次の行動を見守る。そんな両者の横を、仮装した者たちが通り過ぎていった。

 ややあって、マスクレンジャーは顔を上げる。


「そんな情報を、私に教える理由はなんだ?」


「条件がある。俺を見逃してくれ。それだけだ」


「いいだろう。君のことは見逃そう。では、今からそこへ向かうとしよう。やはり、奴らは滅ぼさねばならないらしいな」


 言うと同時に、マスクレンジャーは颯爽と歩いていく。あっという間に、人混みの中へと消えていった。

 省吾の方は、その場に座り込みたい衝動を覚えた。ほんの僅か話しただけなのに、恐ろしい疲労感に襲われている。さっさと帰って、眠りたい。

 だが、そうもいかないのだ。まだ、やらねばならないことがある。スマホを取り出し、正岡に連絡した。


「聞いてくれ。今、マスクレンジャーに会った」


「本当か?」


「こんな下らん嘘をつくほど暇じゃねえよ。あいつが次に狙う場所がわかった」


「どこだ?」


「詳しい住所は、追って知らせる。とにかく、用意しておいてくれ。あいつは施設に侵入し、教団の人間を襲うはずだ。そこで施設に乗り込み、逮捕してくれればいい」


 ・・・


 省吾は、マスクレンジャーに教団幹部を殺させ、その場に警察を踏み込ませ逮捕させるつもりだった。仮に、マスクレンジャーが返り討ちにあったとしても構わない。その場合でも、教団は確実にダメージを負う。何せ殺人事件の現場なのだ。施設内は、隅々まできっちり調べることとなる。そうなれば、教団側の見つかってはマズいものがいろいろ発見されるだろう。

 結果、教団は大混乱に陥る。そのドサクサに紛れ、省吾らは姿を消す……以上の計画を、省吾はマスクレンジャーと再会した瞬間に閃いていたのだ。

 そして、実行に移した──


 今、省吾たちは教団の集会所にいる。二階建てであり、真幌支部より広い。一階には公聴会を開くための部屋と応接間、二階は職員たちのための簡易宿泊所となっている。部屋は五つあり、狭いが寝泊まりするだけなら問題ない。

 この施設、実のところ今は使われていないのだ。いずれ建物は取り壊され、土地は売りに出される予定になっている。周囲には人は住んでおらず、少し歩くと木々の生い茂る森林が広がっている。

 この施設がある北尾(キタオ)村は、人口が百人に満たない小さな集落である。かつては大きな工場があり、工員たちの住む寮も併設されていた。

 しかし不景気により、その工場がなくなった。必然的に寮もなくなり、村も一気に衰退する。今では、徐々に廃村への道を歩んでいる……そんな状態だ。当然ながら、信者などいない。

 省吾は以前、朝永に連れられてここを訪れたことがあった。当時は、ゴーストタウンのごとき雰囲気に暗い気分になったのを覚えている。信者たちもほとんど来ておらず、支部長が悲しげな表情で対応してくれた。

 今となっては、職員は全て他の支部へと移動した。ここに訪れる者はいない。身を隠すには、絶好の場所だった。




 四人は、応接間で昼食を取った。省吾を除く三人は、いかにも楽しそうである。

 それも仕方ない話だった。今まで、かなり窮屈な生活を強いられていたのだ。周りを信者に囲まれ、修道女のごとき暮らしを強制されていた彼女たちだ。

 特に未来は、ここでの生活が面白くて仕方ないらしい。さらに、同じくらい楽しんでいるのが咲耶だった。食べ終わると同時に、口を開く。


「ねえ未来、一緒に遊びに行かない?」


 聞かれた未来は、こくんと頷いた。この少女は、ここでの生活をキャンプか何かのように考えているらしい。

 咲耶は微笑み、未来の手を握る。


「じゃあ、気をつけて行ってきな」


 連れ立って歩いていくふたりに、恭子が声をかける。未来は本来、あちこち出歩くのが好きな少女である。彼女にとって、緑の多いこの場所は絶好の遊び場なのだろう。

 咲耶と未来が外に出ていくと同時に、恭子は省吾の方を向いた。


「で、ここに来た目的は何なの?」


「いや、だから朝永の命令だよ」


「おかしいね。朝永はこんな場所で、あたしらに何をやらせようってのかな」


「んなこと、俺に言われても知らないよ。とにかく、ここで指示を待てって言われたんだ」


 そう言い続けるしかなかった。

 結局のところ、省吾はマスクレンジャーに教団幹部たちを殺させようとした。間接的にせよ、罪であることに間違いはないのだ。その罪を負うのは自分ひとりで充分だった。恭子たちにまで、その重荷を意識させる必要はない。

 すると恭子は、ふうと溜息を吐いた。


「ひとつ言っとく。あたしゃ、刑務所に十年もいた。大勢の悪党を見てきたよ。で、わかったんだ。悪党の条件のひとつが、息を吐くような気楽さで嘘を吐けることだよ」


「は、はあ? 何が言いたいんだよ?」


「はっきり言うよ。あんたは、悪党になりきれないタイプだ。嘘をつくのに、罪悪感がある。ま、あたしはあんたを信じてるから、これ以上は何も言わないよ。けど未来に何かあったら、許さないからね」


「ああ、わかったよ」


 捨て台詞のように言い放ち、省吾は二階へと上がった。控室に入り、ドアを閉める。


「クソ……」


 思わず呻いた。恭子に対してではない。自分に対し腹が立ったのだ。

 しかし、今はそれどころではない。一刻も早く正岡と連絡を取り、どうなっているのか確かめねば……省吾は再度、電話をしてみた。

 すると、あっさり繋がった。省吾は、勢いよく尋ねる、


「正岡さん! 今、どうなってるんだ!?」


(すみませんが、どういった関係の方ですか?)


「えっ……」


 省吾は、予想もしていなかった言葉に戸惑う。しかも、この声は正岡のものではない。若い男のそれだ。

 その時、頭に閃くものがあった。昨日から正岡と連絡がとれず、ようやく電話が繋がったと思ったら、知らない人間が出ている。

 つまり、正岡はマスクレンジャーに殺されたのではないか。少なくとも、その可能性が高い──


 省吾は、反射的に電話を切る。その時、いきなりドアが開く。現れたのは恭子だ。ただし、先ほどとは違い鬼のような形相である。


「ちょっと来なよ!」


 怒鳴った直後、省吾の腕を掴む。引きずるような勢いで、一階の応接間へと連れて来られた。施設内で唯一、テレビのある部屋だ。省吾は、為す術もなくされるがままになっていた。

 テレビの画面には、アナウンサーが映っていた。神妙な顔つきで原稿を読んでいる。


(もう一度、繰り返します。先ほど白土市内の施設にて、二十人を超える男女の遺体が発見されました。遺体は損傷が激しく、警察は殺人事件の可能性が高いと見ております。また、この施設は宗教団体『オルガノ救人教会』が所有しており、殺された人たちも教団の関係者ばかりです。目下、教団と事件との関連をも調べております)


 観ている省吾の顔から、血の気が引いていた。間違いない。マスクレンジャーの仕業だ。


「これさ、どういうこと?」


 恭子は、険しい表情で聞いてくる。省吾は、弱々しい表情で首を振った。


「俺にも、まだわからないんだ。もう少し待ってくれ。後で、必ず説明するから──」


「ふざけるんじゃないよ!」


 怒鳴りつけた恭子だったが、直後にその表情が変わった。目線は省吾から逸れ、入口の方を睨んでいる。


「ちょっと! あんた、誰だよ!?」

 

 その声は、明らかに普通ではない。省吾は振り向いたが、途端に恐怖のあまり全身が硬直した。

 そこには、異様な扮装の者が立っている。白い覆面、白いジャージ、白いスニーカー……そう、オルガノ救人教会を潰滅に追い込んだ最凶最悪の殺人鬼・マスクレンジャーが、そこに立っていたのだ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 「この男の人間離れした身体能力は、狂気ゆえに発揮できるものなのかもしれない」→心身ともに、色んなリミッターというかブレーキが存在しないのでしょうね。 [一言] 「悪党の条件のひとつが、息を…
2023/03/28 03:42 退会済み
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