芳山教授の日々道楽「薬屋」
短編小説 芳山教授の日々道楽「薬屋」
熱っぽい、
身体がだるい、
どうやら、風邪をひいたらしい。
私は、あまり病気にはかからないが、
かかると、重い。
何遍も繰り返したので、今回は早めに薬屋に来た。
なぜ病院に行かないかって?
私は、医者が嫌いだ!
あの高慢な態度、
上から目線、
日本人なのにドイツ語を書く。
気に入らない。
中には低姿勢の医者もいるが、基本的に嫌いだ。
注射はもっと嫌いだ。
肉体と金属は違う物質だ。
それを体内に挿すなど言語道断。
当然、インフルエンザの予防接種はした事が無い!
病気は、買い薬で済ませる。
私のポリシーだ!
薬屋に着いた。
悪寒が走る。
早く薬を買って帰ろう。
中に入る。
「いらっしゃいませ〜」
中年のおやじがいた。
店内をキョロキョロする。風邪薬は、どこだ。
「どうなさいました?」
「風邪をひいたみたいだ」
……
「どう、なさいました?」
「風邪をひいたみたいだ、風邪薬をくれ」
……
「どう、なさい、ました?」
「かぜ!を、ひいた、風邪薬をくれ」
……
「どう、」
「だから、風邪だと言っている!」(怒)
「風邪と言われましても、風邪と言う病気はありませんよ」
なぬ?
「色々な症状が重なって風邪と言う言葉で呼ばれます」
?
「例えば、熱っぽいとか、悪寒が走るとか、鼻水が出るとか?」
「その全部だ、早く風邪薬をくれ、」
「そうですか〜では、いつから起きました」
「少し前からだ」
「少し前とは、どの位前ですか、」
あー面倒くさい、
こっちは、具合が悪いんだ、さっさと薬をくれ、(心の声)
私も面倒くさい男だか、このおやじも相当面倒くさい。
「2、3日前からだ、」
「そうですか、」
「では、熱は何度ですか?」
「解らない、熱など測っていない、」
「早く薬をくれ、」
「では、失礼して」
おやじが体温計を私の脇に差し込む。
ピピッ、
意外に早い。
36.9度、微熱だ。
「初期症状なので栄養剤と葛根湯がよろしいですよ」
?
「葛根湯とは薬か?」
「漢方薬です」
「葛根湯とは、中国古典医学書「傷寒論」「金匱要略」に記載されている漢方薬で、
発汗作用があり、頭痛、発熱、悪寒がするといった症状に有効です。比較的、体力のある人に向いていおり、基本的に初期症状に用います。使用時期は発病後1~2日が目安とされています」
何を言っているんだ?
頭に入らない…
平常時の私なら理解は簡単だが、何分、頭が痛い。
余計、解らなくなった。
「薬をくれ、普通の風邪薬をくれ!」
「初期症状では、栄養剤と葛根湯がおすすめですよ」
「近年の西洋医学的基礎研究でも、葛根湯の抗炎症作用は確かめられています」
……
「だから、私は風邪をひいているから普通の風邪薬をくれ、と言っている」
「まだ風邪とは限りませんよ〜」
こいつ、一歩も引かないな、(汗)
クラクラする。
早く風邪薬を飲みたい。
他の薬局に行くか、
いや、遠い、
まして、この体調で行くのは大変だ。
どうする?
おやじの顔を見る。
とても折れそうには見えない。
他に店員は?
いない。
「栄養剤と葛根湯がいいですよ〜」
催眠術のような声、
普通の風邪薬をくれ〜頼む〜(心の声)
「栄養剤と葛根湯がいいですよ〜〜」
「私を信じて下さいよ〜〜〜」
たのむ、素直に普通の風邪薬をくれ〜(涙目)
「信じて下さいよ〜栄養剤と葛根湯がいいですよ〜」
「栄養剤〜葛根湯〜」
「栄養剤〜葛根湯〜」
振り子のように動くおやじ。
「栄養剤〜葛根湯〜」ぐるぐるぐるぐる〜
渦巻ぐるぐる〜
目が回る〜
ええい、面倒くさい、
「両方くれ、」
「はい、ありがとうございます〜」
…………
術中にはまったか?
見送る薬屋のおやじ。
「栄養に富んだ消化によい食べ物を取って、からだを安静にすることも大切ですよ〜」
うちに帰り、栄養剤と葛根湯を飲む。
寝る。
朝、
寝覚めがいい、
調子がいい、
昨日とは全然違う。
効いたのか?
そんなに早く効くのか?
まあ、いい。
明日の講義は出られそうだ。
あの薬屋のおやじは、面倒くさい。
しかし、専門家の意見は、たまには聞くもんだ。
一応、私の隠れ家ナンバーに入れておこう。
朝日がまぶしい、
今日は、美味いものを食べよう。
気分がいい日曜日の朝だった。