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tiny boat

作者: ロック

1985年6月


岡山県K市にて


青空へと向かってる坂道の手前で僕はずっとその人を待ち続けていた。

大好きなその瞳が見れたら一日を幸せに過ごせそうだった。

だけど、何分、何十分待ってもその子は来ない・・・、遅刻しそうなので、急いで登校した。


「まーーーなーーーべ!遅刻だぞ!」

丸まった教科書で頭をポンとtiny boat


1985年6月


岡山県K市にて


青空へと向かってる坂道の手前で僕はずっとその人を待ち続けていた。

大好きなその瞳が見れたら一日を幸せに過ごせそうだった。

だけど、何分、何十分待ってもその子は来ない・・・、遅刻しそうなので、急いで登校した。


「まーーーなーーーべ!遅刻だぞ!」

丸まった教科書で頭をポンと叩かれ僕こと真鍋治の一日が始まった。

隣を見たら既に、広瀬ももは、来ていた。

「あ、広瀬、もう来てたのかよ。

ずっとまってたのに・・・」

「ごめんねぇ〜、真鍋くん」

HRは、始まっていた。


僕が17歳の頃ずっと隣の席の女の子、広瀬ももに恋をしていた。

だけど、入学当初は違うクラスで、僕は遠くから指をくわえて彼女を見ているしかなかったけど、奇跡の1985年、彼女と同じクラスになったのだ。

さらに5月のクジでの席替えで奇跡が起こったのだ。

彼女が隣の席になったのだ!

その瞬間、僕の人生は薔薇色に輝いた。

よし、彼女と友達になろう。

僕の夢は始まったばかりだった。


6月3日

僕は彼女を校庭の木陰に呼び出し、「友達になってください」と頭を下げた。

彼女は微笑んで縦に首を振った。

「喜んで!!!」

広瀬は僕にノートを渡してくれた。

「これは?」

「ねぇ、一緒に交換ノートやろ!」

付き合ってもないのに、僕は浮かれていた。

「すっげえ嬉しい!」

僕たちの交換ノートは始まった。


何を書こうか、とりあえずその日は自分の自己紹介を書いた。


6月4日

火曜日のその日に、僕はノートを渡したら彼女は喜んで受け取ってくれた。

特に何の個性もない僕が、こんな明るくてモテモテの美少女と交換ノートをやってるなんて、多分世界一の幸福者なのだろう。

授業の内容が殆ど頭に入らない。

とても、楽しい一日は、すぐに終わりを迎える。

そして放課後、広瀬に交換ノートを渡す。

交換ノートが返ってくるのが楽しみだ。


帰り道、僕は行きつけのゲームセンターに行く。

僕は100円を握りしめ、スペースインベーダーの筐体に入れた。

ただ、ゲームをやるのではない。妄想をしながらゲームをやるのだ。

僕は地球を守るスーパーヒーローで、愛する広瀬ちゃんを守るために砲台から、インベーダーを撃退してるのだ!

店長は僕に言う。

「他のゲームもやったら?

いつもインベーダーばかりじゃない。

例えば最近ドルアーガの塔入荷したけど・・・」

「ド、ドルアーガ?」

聞けばそのゲームは、ギルという王子がカイという女の子を救うという内容だった。

「やっていけば?」

店長は僕を誘惑する。

そして、プレイすると、ハマってしまい、一気に2000円ほど使ってしまった。


こうやって、自分がヒーローになり、広瀬姫を救うとあう妄想をしながらゲームをやると、止まらないのであった・・・。


6月6日

放課後、ノートが返ってきた。

彼女の趣味は、爪を飾る「ネイルアート」であった。

当時1985年つまり今年に設立された「日本ネイリスト協会」によって、ネイルアートが大流行し、彼女は、流れに乗るかのようにネイルにハマったのだ。

そして、彼女は日々マニキュアリストになるために、勉強していた。

「えらい勉強家だなぁ〜」

感心してノートを見つめた。

「それに比べて俺は愛しこいしの広瀬ちゅわんのこととゲームのことばっか考えてらぁ〜」

そう呟き、今日のことをノートに書いた。


6月21日

2人の距離は縮まっていた。

6月15日頃始めた交際は、順調で、とても毎日が輝いていた。

愛に発展していくまでには、まだ時間はかかる。

そういえばここ最近、少しずつ進路を考えていた。

大学進学をしたらどんな会社に勤めるのか、夢はゲーム会社かソフトウェア開発会社だ。

そのため、部活には入らず、バイトと恋と勉強とそして、MSX(昔のパソコン)のBASICを学んだりプログラミングを学んでいた。


7月1日

僕は4回目のデートに誘った。

日にちは7月7日の七夕の日。

予定は確定してないけど、彼女曰く、自然に触れたいとのことなので、僕が幼少期によく父に連れて行ってもらった湖のある公園に彼女を誘うことにした。


ここ最近周りのカップルに、セックスを勧められることも増えたけど、僕はセックスは、結婚してからでいいと思っていた。


7月5日

クラス内で席替えがあり、僕と広瀬の席は離されてしまったけど、それでも、心の距離は関係ない。

僕たちは付き合ってるんだ、とても今が楽しいんだ。

だからこそ、物理的な距離なんて関係ないんだ。


7月7日

小さなボートに乗った、2人の時はゆっくりと流れて行った。

「将来は、何処に行くの?ここに残るの?」

「上京するの」

「本当!奇遇だ、僕も上京するんだ!」

「え!?嘘!?会えるね!」

「うん。休日はこんな風にデートができるといいね」

広瀬の左手は僕の右手の中にあった。

「大好き」広瀬は僕に言った。

「僕もだよ」

僕は誰もいない湖で舌と舌を舐め合わせる深いキスをした。


「ゲームってさ、」

「ん?」

「面白いの?よくわからない」

「面白いよ。だって・・・」

僕はゲームをする時にいつもしている妄想を話す。

「バカみた〜い。可愛い。」

「うぅ・・・だって、君と会ってない時もずっと考えてるんだもん」

「ヒーローはもうここにいるよ。

ゲームの中じゃない。私のヒーローはあなただけ」

距離が近づいて再度キスをした。


楽しいデートは終わり、その後交換ノートの頻度が少し減った。

別れては、ないものの、PC88mkIISRというパソコンを買い本格的にプログラミングを行うという夢ができたため、バイトのシフトを増やし、暇があったらBASICと、睡眠時間が4時間を切るのが当たり前の不健康な生活になり、恋愛をする余裕が無くなっていたのだ。


僕の家には沢山のゲーム機があった。

ファミコンは、もちろん、SG-1000やカセットビジョン、ぴゅう太など、様々なゲーム機を中古で買い揃えていた。

母親には何度も捨てろと言われるけど、僕の夢はゲーム会社に入社するだけではなく、いずれゲーム機を開発するという夢も持っていたため、とにかくゲームを研究した。


12月8日

彼女を家に誘った。

そして、僕が徹夜して作り上げたプログラムを見せたけど、広瀬は泣いていた。

「どう?すごくない?」

「凄いけど、私よりパソコンの方が好きなの?」

「え?」

「私のことを愛してないの?」

「そんなことはないよ!君のことを愛してる!だからこうやって家に呼んだんだ」

「ごめんなさい」


彼女は部屋を出て行った。

「待って広瀬ちゃん!」

広瀬を追いかけようとしたけど、もうそこに姿はなかった。


そして、彼女は冬休みが終わった後、東京の私立高校に転校して行った。


僕はずっと泣いていた。

こんなはずじゃなかったのに。

僕は心から広瀬を愛していたはずなのに。

パソコンが憎いとも思ったが、それでも恋より夢の方が優先だった。


1987年

僕は、岡山へ残り、進学よりも、とにかくプログラミングをやりたかった僕は、ゲームセンターの清掃員をやりながら、ゲームセンターのゲームを修理したり、時間が出来たら当時のコンピュータ雑誌のOh!PCや、Oh!MZやOh!Xを読んだり専門書などを読んだり、閉店後はひたすらゲームの筐体をいじったりしていた。


そして、1988年の1月、「天才プログラマーがいる」と岡山のみならず、都内までもその噂が広まり、晴れて僕は、都内にある日本エメラルドというゲーム会社に呼ばれることとなる。

僕はBASICで曲を演奏するプログラムを書くといったことは、容易にでき、僕の憧れの人である「古代祐三」を越える勢いで沢山の曲を作曲したりもした。

まさに、「化け物」と当時から言われ、気がつけば、高卒なのに社内でかなりの地位となっていた。


そして、バブルが重なり、僕の金はどんどん貯まってきたし、入社1年で1人だけでゲームを作ることを任されたり、社内では、とにかく優遇されたけど、僕は満足しなかった。

まだ足りない。


僕の夢はかなり大きくなっており、当時まだ一般的じゃないパソコンをさらに普及させるために安価で、尚且つシンプルなOSを開発したいという夢を持った。


そして、1990年株式会社日本エメラルドの出資を受け、僕は起業した。

過去を振り返る余裕もない。

とにかく毎日人材を集めていき、出来る社員には高待遇、出来ないやつは、大幅な給料カットを行うほどとなり、社内ではとにかく嫌われた。


そして、完成した独自OSが入ったPCは、「Quve 880」という名前で市場に出した。


Quveは、とにかく売れた。

当時としては異例の価格でパソコンを出したため、windowsが発売されるまでシェアナンバーワンだった。

さらに、このQuveは、多くのソフトと互換性があり、幅広いソフトを取り扱えた。


これで僕は大金持ちになり、とにかく、前進する以外なかった。


バブル崩壊後もQuveは、強かった。

安価なQuveシリーズはバブル崩壊後のサラリーマンの財布にも優しかった。

そのため、僕の会社「株式会社キューブソフト」が日本エメラルドを買収することも考えた。


と、言うのは僕がいなくなってからと言うもの、日本エメラルドの調子はあまり良くなかった。


まるで神になった気分だった。


しかし、1995年、windowsが普及。

Quveのシェアは日本にとどまっており海外輸出を考えていなかったため、あっという間にシェアを奪われた。

潮時だ、僕はそう思えた。

勝てないことを僕は知っていたのだ、巨大な悪魔「マイクロソフト」に。

勿論、シャープやNECも犠牲となり、PC98、X68000は、windowsの普及とともに姿を消した。


1996年

僕は株式会社キューブソフト代表取締役社長を辞任した。

突然の発表に世間は驚いたが僕は限界だった。

そして、後継人として、うちの副社長の玉木イサオを選び、会社を任せ僕は岡山に戻った。


その後僕は、生まれ変わるために、1000万円払い整形をした。

マスゴミに気づかれないように質素に暮らすことを望んだのだ。


そして、久しぶりにあの日のゲームセンターに行く。

あの日の店長は未だ健在だった!

「店長!!お久しぶりです!」

「ん?聞き覚えのある声だな、」

「僕ですよ!真鍋!」

店長は僕を抱きしめた。

「真鍋ええええ!」

会いたかったぞおおおお。」


そして、日本エメラルドに勤めてから今に至るまでを店長に語った。


「すごい人生だなぁ〜。

うちのゲームセンターは、見ての通り閑古鳥が鳴いてるよ。

セガサターンやプレイステーションが出てからというもの、ゲームセンターは、繁盛しなくなってしまった。


だけどもある常連さんのおかげでこの店は保ってきた。

その常連さんっていうのは、あそこで「ドンキーコング」をやってるあのお方だよ」


そこにいたのは、

そう、あの日の広瀬だった!

「広瀬ちゃん!僕だよ!」

「え?その声は・・・」

「のぼるだよ!真鍋のぼる!」

2人は小さなゲームセンターの中で抱きしめあった。


「そういえばどうしてゲームセンターでゲームしてるの?」

僕は広瀬に尋ねる。

「私よりも魅力的なゲームっていうの、

気になるじゃない。

やっぱりずっと好きだったから・・・あなたのこと。」


僕は、彼女をあの日の湖に誘い、小さなボートを借り2人で漕ぎながら、お互いの11年間を語り合った。


どうやら、広瀬は、ネイリストを目指して上京したが、ネイリストの道は甘くなく、一時的に商社に勤めた。

そして、バブルが到来し、高卒でもかなりの大金を稼いだ広瀬は、ずっと貯金していた。

そして、バブル崩壊後、広瀬の貯金はかなりの額になっており、もう一度ネイリストを夢見る。


1991年、彼女は岡山に戻りネイルの個人店を開業。

それと同時に岡山の有名企業の支社長と結婚するものの、1年で破綻。

夫の浮気が原因だ。

離婚後は、大量の慰謝料をもらい、たとえ店が赤字でも運営が出来るほどになっていた。


口コミで徐々に客は増えたものの、事業拡大は望まなかった。

僕のようにならないためだ。


そして、休日は僕の通っていたゲームセンターに通っては、ずっと「僕がハマったゲーム」を店長から聞いていたそうだ。

そして、彼女は当時の僕のハイスコアを越えるほどゲームの腕が上達したらしい。

そして、僕をずっと想い続けていたらしい。


僕も広瀬のことを想い続けていた。

仕事が忙しく、たまにしか思い出せないものの、あの日の青春は忘れられない。


「あなたは、特別で、他の誰とも違う。

なんだか懐かしくて、胸がくすぐったいよ」


風が騒いでた。

柔らかなキスをした。


そして、その後時を待たずして僕達は結婚した。


僕はずっと前から興味のあった農業で生計を立てることにし、たまに広瀬に経営のアドバイスをしたが、1996年の11月に長期休業した。


そう、妊娠したのだ!

第一子だ!


僕はもものずっとそばに居て、自分の農園から取れた無農薬の野菜で作ったサラダやスープを彼女にご馳走したり、家事を分担し、たまの運動としてあの日のゲームセンターに散歩に行ったりした。


そして、1997年


第一子が誕生した!!

愛する我が子を僕は抱いた。


こんな幸福は社長時代は味わえなかっただろう。

刺激がない毎日だが、こんなに暖かいのは初めてだ。

とても嬉しくて何度も何度も泣いた。


新しい笑顔に ありがとう。


そして、 Welcome to the world。


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