斯くして黄金は砂礫に紛れた
「ベーコン……大丈夫なんだな?」
「え? ……ん?? すみません……良く分かりませんが、え~っと……宗教上の理由か、なにかをご心配……おかけしましたでしょうか?」
「ああ、失礼ながら。容姿から中東か……中央アジア辺りの方かと思っていた。イスラムでは豚肉は……ダメだろ? 千影に言っておくべきだったって、気を揉んでいたところだ」
「……そうなんですね。勿体無い。いえ、その信仰を否定するつもりは全くありませんが……ぼくの生まれ育った故郷では、豚肉はお祭りの時の最高の御馳走です。こんな朝食をまた戴けるなんて……もう……諦めかけていました」
カトラリーを手に、しんみりと朝食に視線を落とす浮世離れした美貌。
あんな場所に捕らえられていた理由を……聞くべきか、聞かないでおくべきか。
どの様に切り出したものかと、頭を悩ませていると――
一歩一歩、おっかなびっくり足元を確認する様に階段を降りる、慣れ親しんだ足音がやって来た。
「くーちゃん、柊先輩には……おばさまのお部屋を使って貰ったよ?」
自分も睡眠不足でしんどいだろうに、にこやかな顔を崩しもせず、席に着く千影を待って――差し当って俺は、我が家で共にテーブルを囲む、お客様の名前を聞かせて戴く事にした。
* * *
「くっそ! 重ぇ! 暑ィ!」
「……ご苦労様。千影が冷たいものを出してくれる。ゆっくり休んでくれ」
あれから数日。
港湾地区で働く、先日の方から連絡を戴き――預けておいたケースを3年のひとりに受け取りに向かわせた。
正直なところ……ケースの中身は、迷惑料にと。
そのまま受け取って戴いた方が、良かった気もしないではなかったけれど。
無用な面倒を煩わせるのであれば、本末転倒と言うもの。
長々と、かさ張る荷物を置きっ放しにさせて戴くのも……申し訳無い気がして――結局、早々に引き取ることにした。
荷物の受け取りに向かった3年によれば――なんら問題も無かったと、肩透かし。
直接、俺と柊先輩が引き取りに向かわなかった理由については、念には念を。
顔の割れていない人間を……と、考えての理由もあった訳だけど。
スマホ越しに先方に、それとなく尋ねてみれば……あの夜。
港ではやはり、殺気立った男たちが、血眼になって駆けまわっていた一幕もあったらしかったものの。
その後は、特段変わった様子は港では見受けられなかったとの事だった。
正直なところ、……雑ともいえる脱出劇だったように思えなくもなかったけれど。
お上と繋がっている風であっても、反社の連中に――そこまで、大っぴらに動き回ることは難しいのか。
余程、迂闊な行動に出ない限りは――ひとまずは、安心できそうな気配。
目立ちすぎるケースの受け取りに際しては、持参した段ボールにケースを収めた上で、抱えて持ち帰らせた。
そうして我が家に届いた そのケースは……柊先輩が『イイ奴ら過ぎる』と表した御仁のお陰により――ケチひとつ付くこと無く、なんのトラブルもなしに。
あの夜の状態のまま、リビングのコーヒー・テーブルの上に置かれたのだった。
* * *
本来なら、家にケースを運び入れる前に行うべきだった様に思う電波チェックを、この時点で行う辺り――こちらも相当にザルだと云わざるを得ないけれど。
何種類かのチェックを行ってみても特に問題も無し。
「よォ……橘くんよぉ。それになにが入ってんのよ? 札束でも入ってんのかよ? ここに着くまでによぉ、拾った捨て猫を不良が運んでるみてぇに見られたのかよ……商店街の知らねぇ、ばあちゃんとかにニコニコされてよ? メッチャ恥ずかしかったんだけどよ」
「そうだぞ? ……まて。今、見せよう」
「……、――冗談……だよな?」
千影の出した水出しの緑茶を一息に飲み干して、掛けたソファーに体をもたれさせていた3年が、聞いた事柄を理解できなかったかの声。
電波探知機を置いて、カーテンを閉め切ると――ケースを開いて見せた。
「……、――、……、――マジ……かよ」
信じられないものを、目の当たりにしたかの驚き様。
「――心配するな。勿論、お前たちにも分け前と言うか……バックくらい考えてる。とりあえず この件の立役者。柊先輩の取り分を渡した後になるけど……バイク以外で、なにか欲しいものはあるか?」
「……いや……いい。マジで……怖ぇ……」
普段、無頼を気取る輩とは思えない欲の無い返事。
「そうか。じゃあ差し当って……せめて、これぐらいは受け取ってくれ。ケースを運んでくれて有難う」
礼を述べて、ポケットから出した一万円札を差し出すと――
「……ナメてんのか2年坊……って……キレるべきところなんだろうけどよ……もう、どうでもいいや。このところ……煙草止めてたんだけどよ……有難く戴いて、一箱だけ買うわ。ブルっちまって今夜は……寝れねぇかもしれねぇ」
金を受け取りながら彼は――動揺したままの胸の内を、素直に口にした。
* * *
「くーちゃん? 先輩……帰ったの?」
「ああ」
やはり俺以外の男子と関わるのは、苦手意識が先立つのか。
お茶を出して直ぐに二階に上がった千影が、下に降りてきた。
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