悪計をめぐらす
「それこそ蔓の端っこでも引きゃ、ぼっこぼこ♪ 鈴生りに裏社会に関わる人間共が、出て来るんだそうな
「昔、あたしも言う事聞かせようとするオヤジ共に脅かされたことあるわ
「『ワタシたちの国では、毎日大体500~600人の子供誘拐されて、そして……ほとんど帰ってこないネ。律子、この国も今は、ワタシたちと同じ国の人で一杯。心配心配ネ。早くお家帰ろうネ』
「……ってよ」
重たい話の空気を和らげようとしてくれているのか、柊先輩が先生方の声音を真似てみせる。
「けどよ? そりゃあ、あたしたちのヤルこっちゃねぇな」
先輩の言うことは、分からないでもなかった。むしろ当然のことだと言えるだろう。
治外法権を暗黙の内に確立しているみたいな あのカジノ。
ハッチから顔を覗かせて助けを求めてきた、あの子のことを警察なりに伝えたところで……取り合って貰えるのか――取り合って貰えたとして、彼女が助け出されるかどうかまでは、まるで分からない。
押し黙る俺の様子に堪りかねたのか、先輩がテーブルに投げ出していた脚を下に降ろした。
「……ま、心配すんな。ほれ? 付いて来いよ。今頃、ポンだのチーだの大騒ぎしてるオヤジ共のとこ行くぞ。あいつらマジでクズだけどよ? 顔は利くしツエーんだ。案外よ? キレるたんびにネズミ花火みたいにグルグル回る豚まんだったり、猿みたいに身軽な、瘦せこけたキリギリスでも、あの船にひとり放り込むだけで、問題は片付いちまうかもしんねぇぞ」
こちらを気遣って、できるだけ楽観的な物言いに終始する先輩。
「先生たちを疑うつもりはないけど……横のつながりが強いっていうなら、これ以上の迷惑をお掛けしたくない――それに……あんな良い人たちを巻き込めない」
そんな彼女の腕を捉ると、先生たちの元に向かおうとするのを引き止めた。
* * *
「あ~ッ、もぉ……ったくよォ」
頭を掻き掻き悪態を吐いて先輩は――さっきまで座っていた椅子に戻ると、ドカっと腰を下ろした。
「んでぇ? 元気が有り余ってる……クソ後輩の橘くんは? 一体全体……どーしたいのかなぁ? 律子おねーちゃんに言うてみ? ん? ん?」
ファースト・コンタクトを思い出させる、揶揄たっぷりな調子で。
バイト上がりで、くたびれているハズなのに――先輩は付き合い良く、俺の話に耳を傾けてくれた。
「そう……だな」
温くなった蓋椀を手に取り、蓋を開けて視線を落とすと――音響機器のイコライザーが、アップ・ダウンを繰り返すみたいに、茶葉が浮き沈みを繰り返していた。
「あんな環境だ……関係者の皆様方には
「こちらに構う余裕も無く……あくせくして戴けるよう
「アネクドートのポーランド人の話にある
「船が浸水したら、どうやって水を抜くか? 船底に穴をあけます。
「……そんな感じで、ウォーターチェストに――爆発物を投げ込むのも、まあ派手でイイし……
「喫水線下にテルミットで穴を穿って、沈没させるというのも愉快だ。
「けれど……話した通り俺は、あの場所という存在自体には価値も見出してもいる。
「この先もできることなら……便利に活用させて貰いたいとすら考えているしな」
「……ば、爆? テルミット?」
「――そんな訳だから。手垢の付き過ぎた話ではあるけれど……オッカムの剃刀みたいな、よりシンプルな方法を……使う事にしよう」
「んー……あー……ミジンコぽっちりも話が分からねぇんだけどよ……あたしの頭って、そんなに悪ィのか? つまりは……なにをどうしたいんだよ」
「先輩の頭は悪く無い。小難しい話を並べ立てて、説明できた気になって悦に浸るのは、学校の多くの教師共と同じく、バカ以外の何者でも無い。つまり、ここでは俺が愚か者となる訳だけど……頭でもおかしくなければ――
「やらないんじゃないか? あんな社会の闇の中から、人ひとりを……引っ張り上げてみようだなんて」
* * *
俺が考えたシンプルな方法。
それはクラシカルで、モンテクリスト伯を地で行く手法。
捕らわれの彼女とのやり取りを重ねる内に、どうやら二週間ほどの猶予しかないことが分かった。
その期日を過ぎてしまうと彼女は、既に成立しているらしい商談に基づき、どこかへと売り払われるのだとか。
つまりは、幾ばくも時間は残されてはいない訳だったけれど。
彼女を脱出させるⅩデー。
船で悪目立ちしかしていなかった俺と先輩が、その日を前後に――急に姿を見せなくなったとあれば、有難くない嫌疑がこちらに及ぶ。
別に若い二人だしと……カジノ遊びに早々に飽きたのでは? と、噂されるだけで済んでしまう程度の話かも知れなかったけれど。
人の感情の機微というものを捉えるのが、苦手な俺。
自信が無さ過ぎる、その点に関してだけは――用心することにした。
いつもと同じように先輩とふたり船に訪れ、疲れ果てた体で甲板に出ると、乗船前に夜陰に乗じて海側からドローンに運ばせた小荷物を回収。
船の各所に配置されていたカメラは、完全に記憶できていたし、見回りもわざわざ足を運ぼうとはしない場所も、その頃には把握できていた。
回収した小荷物の中身を素早く礼服のポケットに仕舞うと俺は、機関室へと向かった。
* * *
合図として決めておいたタップを踏むと、下からメンテナンスハッチを押し上げて、彼女が目だけで辺りの様子を窺う。
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